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Sid.93 手に負えない圧倒的存在

 周囲を探るとひと際大きな反応がある。それと同時にフレージアが姿を現した。

 僕の頭の周りを慌ただしく飛び回り始めるし。


「ヒロトヒロト!」

「目が覚めたの?」

「すっごいのが近くに居るよ」

「そうみたいだね」


 今までに感じたことのない強烈な反応。魔族とも違う。もっと何か力の権化みたいな。少し興味はあるけど身の毛もよだつ感じもあるし。


「ヒロト、逃げた方がいいよ」

「とりあえず見て判断したい」

「死ぬよ」


 死んでも復活できる。単純に肉体が破損するだけのこと。一度日本に精神だけが戻り新しい体を得て復活できる。少しくらいの無茶はできるからね。

 とは言え恐怖は感じるわけで。

 慎重に反応のある方向へ歩みを進める。


「ヒロトぉ」

「何?」

「あたしでも無力化できないよ」


 つまりレベル六十以上あるってことだ。これまで自分より圧倒的に強い相手を倒した。辛うじて生き残ったから今回も、とまでは考えないけど。

 でも一度は見ておきたい。その上でどうするか考える。


 森の奥深く歩みを進めると開けた場所に出た。同時に存在を認識できたけど。


 決して巨大なものでもない。大きさ自体は人と変わらないけど、圧倒的な存在感は全てを凌駕してる。

 僕を小さく感じてしまう。ほんの砂粒程度に。

 逃げた方が良さそうだ。逃げられるなら、の話しだけど。見てるんだよね、僕のことを。


「ヒロト」

「逃げられない」


 この場から足が動かないし体も動かせない。


「あたしの球根」


 ああ、そうか。壊れるとフレージアの存在も消える。守れなければフレージアはここで終わってしまう。僕は何度でも復活できるけど。

 でもだからこそ。


「生き延びる」

「無理だよぉ」

「生き延びないとフレージアが消える」


 ゆっくりと向かって来る存在。漆黒の流体の如き姿を持ち変形しながら近付いてくる。

 どんな攻撃をしてくるのかも不明。そもそも敵かどうかも不明。

 近付くも攻撃する気配はない。話し合いができる相手でもなさそうだけど。


 ある程度の距離まで近付くと止まった。

 漆黒の体表面は常に流れている。水の如く。でも足元に滴るものはない。

 暫く見ていると流体の一部が隆起し、伸びてくると先端が鋭くなって行く。黒い槍のような。


「ヒロト!」


 フレージアの声で体に活が入ったようで、硬直していた状態だったけど反射的に動く。

 正対していた体を斜めに逸らした瞬間、その脇を高速で通過する鋭利な黒い物体。

 そのまま立っていたら貫かれていた。


「ヒロト、後ろ!」


 振り向く暇などあるはずもない。咄嗟に体半分程度移動すると、鋭利な黒い物体が曲がって脇を通り抜けている。

 伸ばした物体は途中で曲がって僕を貫こうとしたようだ。フレージアに言われないと気付けなかった。でも反応はできる。まるっきり無力ではない。ただし、フレージアが居なければ最初の一撃で終わってただろう。


「通じるかどうか」

「何するの?」

「魔法を使ってみる」


 蛙化は通じないと思う。あれはきっと自分より弱い相手だけだ。そうなるとコントラクフーンでも通じるかどうか。

 予感はするんだよね。一切攻撃が通じないって。ただ一縷の望みはある。使えば逃げられる可能性。

 指先を漆黒の流体に向け魔法を唱える。


「コントラクフーン!」


 漆黒の流体の体の中心に小さな黒い点が発生し、渦を巻くように巻き込もうとするけど。


「やっぱり通じない」


 わかってたけどね。渦巻いてるけど収縮される様子はない。

 フレージアを掴み頭の上に乗せると「え? 何?」と驚いてるから、後方の確認を頼むと言って漆黒の流体に背を向け走る。

 後方に指先を向けエルドクロットを連発。さらに氷の壁を幾重にも張っておく。


「当たってないし壊されてるよ!」

「想定内だから」


 もう一度コントラクフーンを使い足止めを試みる。役に立たないのは理解してるけど、何かやらないと離れることすらできない。

 後方に爆炎弾を連射しながら、氷の壁を張り進攻を阻止するも、あっさり破壊されフレージアが「ヒロト!」と言った瞬間、脇を貫かれる感触。食らった。伸びる黒い槍は僕より速度が速い。折り返し狙ってくる。


「ヒロトぉ!」


 エルドクロットで脇に刺さる黒い槍に攻撃する。絶え間なく連射される爆炎弾。

 折り返し向かって来る槍を避けようとするけど、物凄い力で引っ張られ倒れそうになる。それでも辛うじて躱すと連続して攻撃していた槍が切れた。

 しつこく同じ箇所に攻撃し続ければ、さすがに千切れるのか。致命傷を食らわなければ逃げ切れるかもしれない。


「大丈夫なの?」

「何とか」

「まだ攻撃して来るよ」


 凄まじい速度で向かって来る黒い槍。コントラクフーンを使うと軌道を逸らせるようだ。その程度の効果はあるようで、これなら逃げ切れるかもしれない。

 相手はその場を動こうとしないようだから。


 暫しの攻防の末、距離を取るとフレージアが口にする。


「一歩も動いてないね」

「理由はわからないけど」


 追ってくるわけではない。黒い槍を伸ばして攻撃して来るだけ。

 脇腹が痛い。さっきまでは逃げるのに必死だったから、痛いとか言ってる余裕はなかったけど。

 逃げ切れると猛烈に痛みが走る。

 町に戻ろう。


「逃げきれたんだよね?」

「たぶん」


 森を抜けるまで油断しないで後方の監視をして、と言って走るけど熊のモンスターが十匹ほど通せんぼしてるし。

 構ってる暇はないんだよ。蛙化の魔法で全てを蛙にして、魔結晶は回収せずとにかく走る。


「あのモンスターは?」

「攻撃して来ないよ」


 森を抜けると振り返り様子を窺ってみるも、何も追って来ないし攻撃もない。


「逃げきれた?」

「もう反応もないよ」

「じゃあ町に戻ろう」

「依頼達成できたの?」


 できてない。

 モンスターが勝手に湧いてくるとすれば、今後も襲撃してくる可能性はある。この場合はどうすれば良いのか。

 モンスターって発生源とかあるのだろうか。それを叩くと発生しなくなるとか。


「ねえヒロト、痛くないの?」

「え」

「血が流れ出てるよ」

「痛いけど我慢してる」


 少し体がふらふらするけど門の前に辿り着く。

 門衛が驚いて「おいどうした! 何にやられたんだ?」と心配してくれてるようだ。

 軽く説明すると「レベル六十で手も足も出ないのか」と驚嘆してる。

 まずはギルドに報告して、さっさと治療を受けろと言われた。


 心配そうな門衛をあとにギルドに向かうけど、フレージアも心配しているのか「ねえ、痛いんだよね」とか「死んじゃいやだからね」なんて言ってる。

 死なないから。

 ギルドに着くと受付嬢と目が合った。


「もど……あ! け、怪我してます」


 やっぱり驚かれた。カウンターから出てきて「酷い怪我です! 治療を」と言って、肩を貸してくれるようだ。そのまま待機室に入るとスタッフも驚いたようで。


「何が?」

「あとで説明します」


 怪我の治療をしろと喚くフレージアが居て、待機室にある別室のベッドに体を横たえる。

 とりあえず止血と傷口を塞ぎリコールしたら修復するそうだ。

 処置が済むと何があったのか聞かれる。


「手に負えないモンスターが」

「森の奥にですか?」

「そうです」


 まだ痛いけど会話する分には問題無い。

 スタッフにしてもレベル六十で逃げざるを得ない相手、となると冒険者を森に送り込めない。出てくることが無いのであれば、森は当面、立ち入り禁止にするそうだ。

 それと。


「傍に居る小さなモンスター? ですが」

「モンスターじゃなくて妖精です」


 使役してるのかと聞かれ懐かれてるだけと言ってみる。事実だから。

 呆れる感じのスタッフが居て詳細をと説明を求められた。これ、行く先々で問われそうな。

 簡単に説明すると理解は示した。

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