Sid.89 説明と雇用される可能性
僕が妖精を従えていることで危険視する冒険者。スタッフは僕が加護持ちと言うことで、問題は無いと言うも納得してないような。
暫し揉めていたけどスタッフの言い分に従うようだ。
僕を睨んで気に入らなそうだけど、ぶつぶつ文句を言いながらもギルドを出て行った。あとで一悶着あるかもしれない。フレージアが居るから余裕で対処できると思うけどね。
「さて、ヒロトさん」
「あ、はい」
「どのような経緯で妖精を得たのか説明を」
ユズには暫しギルド内で待っててもらうようだ。僕とスタッフだけで話をしたいらしいから。
「じゃあユズさんは呼ばれるまで待っててください」
待機室へ連れられ魔族も絡んだことも含め説明すると「加護だけではなく寵愛もですか」なんて言ってるし。
すでに特別な存在になっているのだろうと。この世界に居る異種族との交流は僕が初だと言う。まあ問答無用で攻撃してたらねえ。交流どころじゃないでしょ。
「何にしても異種族含めヒロトさんに期待しましょう」
運営本社の上層部に報告を上げてあり、近く結論が下されるだろうと。
「間違いなく重用されますね」
異種族との協定を結ぶ上で僕の存在は必須と考えるらしい。人族との協定も今一度見直すことになると言う。今後は交渉の場に相応しい立場で臨めるよう、地位を与える必要があるそうで。それと警察機構のトップの件もあるんだっけ。一介の学生如きがと思うし僕の下に付く人が納得しないでしょ。
あとはあれだ。
「あの、大学在学中なんですが」
「在学中でも兼務は可能だと考えますよ」
僕が選ばれる理由としては、単純に異種族とコミュニケーションが取れる、その程度のことではないそうだ。
「神の加護と寵愛がありますからね」
この世界の神は絶対の存在であり、その神の加護と寵愛を受けた存在は、神の代行者ともなり得るのだそうで。
地球人で加護を授かった人は居ない。もちろん寵愛に行き着く人も居ない。
現時点で僕だけ。
「神の代行として交渉ができる可能性があります」
例え国王と言えど無碍にはできないだろうと。この世界はルネサンス期に近いし今も封建制度が続いている。ただし自治都市も増加していて、各都市で協定を結ぶ必要もあるらしい。この町も自治都市であり国王や貴族の支配下にはない。教会の庇護下にはあるそうで。つまり自治都市になるためには、教会の庇護を受ける必要がある。庇護下に置かれることで自治都市として機能するらしい。
絶対君主制ではないようだ。
実質的な権力保持者は教会だそうで。神が絶対であればこそ教会は圧倒的な権力を持つことになる。
国王も貴族も弱い立場なんだね。
「交渉相手は最高権力者の教皇になりますね」
一筋縄では行かないが神の加護と寵愛を得ていれば、例え教皇と言えど軽く扱うことはできないだろうと言う。
むしろ教皇より立場的には上になる。神の代行者足ればこそだ。
「あの、そもそも代行者って認めるんですか?」
「神託があれば認めざるを得ないでしょう」
「神託って下されますか?」
「それは何とも。ただ、ここの教会のシスターは天啓を授かってますよね」
神が僕に託すのであれば、いずれ神託が下るだろうと。神託さえ下れば堂々と交渉に赴けるだろうと言う。
あらゆる種族に対しての交渉も可能になる。ただし条件は地球側が弱いだろうと考えるらしい。
「我々は招かれざる客ですから」
その弱い地球側の条件を少しでも高めるのが僕の役割だそうだ。
無茶な。ただの学生如きが交渉で優位に立てるわけがない。軽くあしらわれて終わりかねないでしょ。
それも見越して交渉の際は社長や幹部も同行するそうだ。
なんか都合よく使われそうな気がする。
「ヒロトさんの立場はおそらくGMでしょうね」
「そうなんですか。何の実績も無いですけど」
「だからと言ってチーフやAM程度ではね」
職位が低過ぎても交渉にならない。僕の職位を上げておく必要はあるらしい。
GMとは言ったが最低がそれで、場合によってはVPもあり得るとか。それこそ無茶だって。バイスプレジデントって日本だと副社長。企業によっては事業部長ってこともあるけど。いずれにしても無茶苦茶。
とりあえず今はこの辺で、となり「レベルの確認をしましょう」となった。
そう言えばフレージアがおとなしい、と思ったら居ない。
「あれ?」
「どうしました?」
「さっきまで僕の頭の上に」
「ああ、そう言えば居ませんね」
ポーチの中にある魔結晶を見ると、最初に見た時と輝き方が違う。揺らぎを見せる透明感のある緑色に輝いてる。
と言うことは。
「寝てるかもしれません」
「わかるのですか?」
「本体に宿ってると色が変わるみたいです」
どういうことかと問われ魔結晶に宿り、必要に応じて実体化してるのだろうと言っておく。これに関してはフレージアに確認しておこう。
「ではユズさんも呼びましょう」
待機室を出てユズを呼ぶと「何を話したてたんですか?」と聞かれるけど、今はまだ決定してないから話せないけどいずれ、としておいた。
まずはユズから確認するとレベル十四。二十まではまだまだ掛かりそうだ。難易度の高い神殿とか古城に行けば、すぐにでも二十になるんだろうけど。
「ではヒロトさんもどうぞ」
LIDを前に確認すると僕もだけど、スタッフとユズも呆気に取られる。
「何を倒したんですか?」
「何も」
「ですが、この上がり方は」
推測ではあるが寵愛を得たことで、レベルの急激な上昇があった、と考えるそうだ。
たぶんマリッカに聞けばわかると思う。神絡みであれば。
「凄いですぅ」
「全冒険者の頂点ですよ」
こうなると無駄に悪目立ちするんだよね。やっかみが増えるんだろうなあ。妖精まで従えてるし。
「レベル六十に到達した人は居ませんからね」
魔法も一つ覚えるから、あとでガチャを回しておくようにと。
それとアドバンス・スカラーからアデプトになるそうだ。達人って何の達人だろうと思うけど、まあランクの最上位ってことで。冒険者初のアデプト。
初だらけだ。
「一つ確認をしておきたいのですが」
「何をですか」
「拘束具が役立つかどうか」
「え、でも、レベル百でもって」
僕の場合は常軌を逸した能力持ちだから、運営が用意した拘束具が使えるかわからないと。
万が一もないとは思っているが、それでも最悪の事態も想定して、試しておきたいらしい。
で、試されたわけで。
「どうですか? 弱体化は感じられますか」
「えっと」
弱くなったのかどうかわからない。試しに短剣を持って振ってみると、大きくため息を吐くスタッフが居る。
体の感覚は変わらないし、レベルの上昇で身軽さが増した感じだし。
「これは役に立ってませんね」
そうだろうと思ったそうで。
そもそも拘束具は神によって与えられたもの。神の意思に反する存在に対して、極めて高い効果を示すものだ。でも僕が神に認められているのであれば、拘束具が役立つはずもないのだろうと。
僕が暴れたら押さえる手段がない。手の付けられない存在になる。
「暴れないでくださいね」
「あの、暴れる気はないです」
「冒険者が即死します」
「あ、それについては大丈夫です」
フレージアが居ることで鎮圧は安全に行えるから。僕が力を振るうと確かに良くて大怪我だし。
もしかしたら僕が力を使わず済むように、フレージアが現れたのかもしれない。
上手くバランスを取れるように神様が考えたとか。
「それにしても」
またもため息を吐き「驚かないと決めたのですがね」と言って、慣れるには行き着くところまで行った後だろう、だって。
僕の顔を覗き込むユズだけど「凄すぎ」だそうで。




