Sid.90 女子三人居ると口数多し
夏休みも残り僅か。大学が始まれば毎日は通えなくなる。週に一回か良くて二回。
そして今日はフラウとヴィーラと三人で探索予定だった。
「この子は?」
「ユズです。ヒロトさんに鍛えてもらって仲間に入れてもらうんです」
「それと、ヒロトの頭の上に居るのは?」
「可憐な妖精、フレージアだよ」
勝手に自己紹介してくれるから手間は省けるけど。ユズはお構いなしに混ざってくるし、フレージアは僕の付属品みたいなものだし。
フラウもヴィーラも僕が良ければ何も言わない、だそうで。あとでマサが復帰した際には、きちんと説明しておいてと言われた。
「えっと、ユズだっけ。レベルは?」
「十四です」
「低い」
「でも大丈夫です。ヒロトさんが居るんですよ」
確かに、と言う二人だ。
「それでですね、今日は神殿に向かいたいと思います」
「神殿?」
「神殿って」
「ユズのレベルを一気に二十以上にしたいので」
僕が死にそうになった場所だけど、今の僕なら安全は確保できると思う。油断は禁物だけどね。
二人はそれで良いと言う。ユズは「何があっても守ってくださいね」だそうだ。
「それでですね」
ユズを正式なメンバーにしたい、と言うと「ヒロトの好み?」とか「浮気性なんだね」と言われるけど断じて違う。
魔法使いだから育てれば戦力として申し分ない。元より募集していたのだから、ユズを鍛えてメンバーにすればいいと言うと。
「冗談だってば」
「真に受けなくても」
真顔で冗談を言うんだ。
とりあえずギルドで申請しタグにユズの名を刻んでもらう。これで誰が倒しても生命力を分け与えられる。無理にユズが戦う必要もない。神殿だとユズは戦力外だろうし。
そしてレベル六十でアデプトと知る二人だけど、頭を抱え「ヒロト君って」とか「ちょっと見ない間に」って呆れてる。
アイナもまた「ヒロトさん。全冒険者でトップですよ」と驚きを隠さない。強くなったからと言って無理はしないで、とも言われた。
「ヒロトさん、魔法を覚えられますよ」
「あ、そうでした」
「ガチャを回してください」
僕が覚える魔法はハズレと思っても、実は使える魔法だったりする。工夫次第で発展させられるし、レベル上昇で威力もマシマシになるし。
カウンターの上にガチャが用意され、把手を持って回すと黒い玉が出た。
「当たりかもしれませんよ」
「そうですか?」
黒い玉を手に取り飲み込むと何の魔法か理解できる。
「コントラクフーンって魔法です」
「どんな効果があるの?」
「収縮みたいですね」
「物を小さくするの?」
実際に試してみないと効果はわからない。あとで神殿で試すことに。
ギルドを出るとフラウとヴィーラが僕をじっと見てる。
「一見すると頼りなさそうなのに」
「実は一番頼れる仲間だもんね」
「ヒロトは強いんだよぉ」
「そうね。そこは間違いないけど」
もっと自信を持って堂々とすればいいのに、と言われるけど。性格的に堂々ってのは無理かもしれない。
ただ、この世界に於いては自信を持てる。日本だと全然自信を持てないけど。何も実績が無いからだ。ただの学生。勉強以外に取り柄もない。自信なんて持てるわけないよね。
「ねえ、神殿って遠かったよね」
「そうですね。歩くと一時間くらいです」
「あたしたちはいいけど」
「ユズは時間的に厳しくない?」
走ろう。
「ジョギングで向かえば三十分ですよ」
「ヒロト」
「ヒロト君」
後衛職を走らせるのかと言ってるけど、時短を目論むなら走るしかないでしょ。
馬車なんて乗せてもらえないんだから。そう言うと。
「相変わらず鬼教官です」
「いつの間にか脳筋」
「体力バカになっちゃった」
言いたい放題だ。でもレベルが上がれば体力も上がるはず。それは前衛や後衛を問わずだろうし。
まずは走ってみて無理なら歩く、としてジョギングペースで走ることに。
ただ、僕のペースと三人のペースは全く違った。
「ねえ速いって」
「ヒロト君、ほんとに脳筋」
「無理ですぅ」
ゼイゼイ言ってる三人を見て指さして笑うフレージアが居る。それを見て「空飛ぶなんてずるい」と言うユズだ。
女子ばっかりだと口数が多くて先へ進まないなあ。
結局、三十分で辿り着くのは無理だった。掛かった時間は四十五分。往復するとユズが使える時間は僅か三十分しかない。これはあれだ、帰りは僕がユズを背負って走るしかない。
一番足が遅いのがユズだったから。
「あの、帰りなんですけど」
「走りたくない」
「歩きでいいでしょ」
「僕がユズさんを背負って先に帰ります」
二人はゆっくり歩いて戻ってくればいい。時間的に余裕があるのだから。
それでいい、となった。
神殿に入ると本来は強いモンスターだろうけど、今の僕にとっては脅威にならない。それでも後衛職にとっては脅威になる。とにかく僕が前に立ち食い止める。
あとは後方から魔法や精霊を使い倒してもらう。
でもユズの魔法はやっぱりレベル不足で通じなかった。
「今日は居るだけでいいです」
「なんかつまんないです」
「ここはレベル三十以上で来る場所なんで」
どう足掻いても敵う相手じゃない。僕の場合はなぜか通じたけど。たぶん加護のお陰だったんだろう。加護の無い三人だとレベル相応の戦闘になる。
ヴィーラが主に攻撃を担い新しく覚えた精霊、アストラピを使うけど威力不足は否めないのか。
「なかなか一発で仕留められない」
「しつこく放ってください」
「ねえねえ、あたしが動き止めてあげるよ」
安全策としてフレージアに頼ることに。
「すごっ」
「触っても動かないんだ」
感心する二人だ。
「あたしも攻撃してみる」
的が動かないなら何度でも魔法を放てば、もしかしたら倒せるのではと言うユズだ。
まあ好きなだけ試してみるといいと思う。それで倒せれば良しだし、倒せなくてもヴィーラが倒せば済む。僕は周囲を警戒し三人が攻撃を受けないようにする。
「ヒロトが倒しちゃえば?」
フレージアがそう言うと「新しい魔法覚えたよね」と使って見せてと三人から言われた。
まあいいけど、もう少し強い相手じゃないと。
扉を開けると魔法攻撃を放つ奴が居るから、そこで一発試してみることに。
「じゃあ開けますよ」
今回はユズが居るから少し慎重に行動する。以前来た時は遠慮なく開け放ったけどね。万が一敵の攻撃を食らうとユズだと死にかねない。
三人には扉から離れてもらい開けると、早々に魔法が飛んで来る。
僕が直接魔法を受け止めるけど、何ら痛痒を与えるものでもなかった。もう、このレベルのモンスターの攻撃は通じないんだよ。魔法防御力がめちゃ高くなってる。
じゃあ新しく得た魔法を使ってみよう。
「コントラクフーン」
黒い小さな点がモンスターの体の中心に発生し、空間ごとモンスターが歪むと黒い点に吸い込まれるように消えた。黒い点もモンスターを吸い込み終えると消える。
何これ。
何に例えるのが適切なのか。ブラックホール?
「消えたの?」
「消えました」
「音も無かった」
「そうですね」
僕より圧倒的に格下の相手だから威力がわからない。
奥に居る巨大な石像相手でも通じれば、そこそこ使える魔法なんだろう。
「先を急ぎますよ」
「ヒロトつよぉい」
「レベル差がありすぎるだけ」
「でもつよぉい」
僕の頭の上で飛び回るフレージアが居て「次元が違う」と言う三人が続く。
そして巨大石像の居る部屋に入ると、その大きさに圧倒されるユズだ。
「ヒロトさん。あんなの相手にするんですか?」
「今なら余裕だと思います」
前にボコボコにされたけどね。
「コントラクフーン!」
唱えると同じエフェクトが発生し瞬時に空間ごと歪み、成す術もなく巨大な石像は消えてしまった。




