Sid.88 以前出会った魔族と遭遇
僕がクラゲを倒してしまうと意味がない。後処理はユズに任せた。
二匹程度は僕が試しに指でつついてみたけど、何ら反応もなく本当に無力と言うか、動こうとすらしないのだと理解できた。
「無反応になるんだ」
「余裕だよ」
「これ、人に対しても効果があるの?」
「あるよぉ」
危険かもしれないけど使いどころはありそうだ。住人に危害を加えようとする冒険者の鎮圧に都合が良さそうだし。怪我や死亡させずってのはいい。
ユズも面白がってクラゲを掴んで投げてみたり、踏んでみたりして「抵抗しないんですね」と感心してた。
さて、もう少し森の奥へ進みたい。
「じゃあ、泉の向こう側へ行きます」
泉の淵を歩きさらに森の奥深くへ進むと、フレージアが「凄いのが近付いて来るよ」と言って警戒してるようだ。
凄いのって何かと思い全方位に集中してみる。
「凄いのって何ですか?」
「わからないですけど、確かに何かが向かってきてます」
「あ、魔族だ」
え、魔族?
飛行しながら向かってくる存在は黒い羽根を持つ人型。以前見たのと同じ。ただ違うのは妖精が傍に居ることに気付いたのか、速度を落とし目の前に着地したこと。
問答無用で攻撃するわけではなかった。
そして魔族と目が合うと。
「お前は」
「あ、以前会った」
笑みを浮かべながら「妖精も仲間にしたのか」と感心した様子だ。
隣に居るユズは何が何だかわからないようで「ひ、ヒロトさん。あの人、角生えてます」とか言って少し怯えた感じで僕にしがみ付いて来た。
ユズに視線を向ける魔族だけど敵意はないと思う。敵対すれば殺されるから、おとなしくしててと言っておいた。
「以前と違い相当力を付けたようだな」
「なんか急にですけど」
「ねえねえ魔族の人、ヒロトと仲いいの?」
「花の妖精か。ヒロトとは敵じゃないだけだ」
僕の頭の上に座って魔族に話し掛けるし。
「それにしても随分と懐かれてるな」
「なんか、そうなりました」
「神の加護を得ただけのことはある」
「あの、なぜここに?」
ここに来た理由は異質な存在が踏み込んできたのを感知したから、だそうで。
一つは以前に接した感覚と、もう一つは弱く加護を得ていない存在。それと妖精まで居たことで興味を抱いたようだ。
僕と行動を共にする存在であれば、害悪にはならないと判断したと言う。
そして妖精に慕われる存在は極めて貴重で、僕の成長を喜んでくれるようだ。
「さて、少し話がある」
冒険者に何らかの動きはあるか聞かれる。
冒険者を取り締まるための警察機構云々は言われてた。
「警察組織を作る予定と聞いてます」
「なんだそれは」
「冒険者相手の衛兵みたいなものです」
関心を示したのか詳しく聞かせろとなり説明する。
「そのギルドとやらが中心になってるのか」
「そうです」
「ヒロトも取り締まる側か?」
「勧誘されてます」
ぜひやれ、だって。僕が居るなら信頼できる組織になる。魔族がわざわざ出しゃばって冒険者を倒す必要もなくなる。
互いに干渉せずに済むなら、それに越したことはないそうだ。
「それとだ」
人族と冒険者ギルドは協定を結んでいる。いずれでいいから魔族とも協定を結べと言う。
そうすれば力の弱い魔族が狩られることもなくなる。また冒険者も被害を被らずに済む。魔族と見るや否や敵として攻撃してくる、無謀な連中を抑えることができることを期待するそうだ。
「それも言ってみます」
「頼むぞ。ヒロトはこの世界と異質な存在の橋渡し役だからな」
僕の傍に来ると手を差し出してきた。これは握手をってことかな。
手を差し出すとギュッと握って「凄いな、ヒロトは」と言う。
「あの」
「神の寵愛まで受けたか」
「あ、そう言えば」
「ヒロト。お前は神に期待されている」
期待に応えて見せろと言う。そして手を離すと「レベルは幾つだ?」と聞かれ五十と答える。
「もっとある」
「え」
「戻ったら確認しておけ」
そう言うと羽を広げ「また何かあれば報告しろ。ここに来ればいい」と言って飛び去って行った。
と思ったら戻ってきて「そう言えば名乗っていなかったな」って、確かに名乗られていなかった。
「ハヴェルだ。いずれ魔族の町へ招待してやる」
そう言うと飛び去って行く。
ハヴェルって言うのか。
ハヴェルと話をしている間、ずっと僕の髪の毛を引っ張って遊んでるのがね。
「フレージア」
「遊んでないよぉ」
妖精は遊ぶのも仕事なんだろう。言うだけ無駄と思い放置だ。
そして固まっていたユズに説明しないと。
「ユズさん」
「は、はい」
「怖かったですか?」
何度も首肯するユズだけど低レベルで相対すると、体が硬直して動かなくなるようだ。単なる緊張とは違い威圧されてたか。
僕と居れば危険はないと言っておいた。
「ヒロトとハヴェルは友だちぃ」
「ちょっと違う」
「仲いい」
「それも少し違う」
もっと交流を深めれば違ってくるだろう。今はまだ期待に沿える行動はできてない。いずれ招待される頃には信頼関係も構築されているだろう。
さて、ユズを鍛えるために踏み入れたけど、今日はこれで引き返すのが良さそうだ。高位魔族の威圧でまともに動けないみたいだし。
「じゃあ戻りましょう」
「帰るのぉ?」
「レベルの確認もあるから」
なんか言ってたし。レベルが上がってると言っていたからね。ユズも少しは上がっただろうから。
帰路でも出現するモンスターを薙ぎ倒し、森を抜け町に戻ると門衛の二人にあいさつしておく。
ギルドに入ると他の冒険者が三人ほどカウンターに陣取ってる。ラウンジを見ると五人が寛いでいるようだ。
で、冒険者が気付くと大騒ぎになるわけで。
「あいつ」
「何だあれ?」
「モンスター、じゃないな」
「妖精?」
大注目のフレージアだ。立ち上がり「なんで妖精を連れてるんだ?」と疑問を抱く連中が近付いてくる。
中には攻撃の意思を持つ奴も居るようで。
「なんか敵意剥き出しが居るよ」
「そうだね」
「おい、お前。なんで妖精を連れてる」
「仲間になったんです」
倒すべきモンスターじゃないのか、なんていう連中多数。町の住人も驚いたくらいだし、人を惑わしたり悪戯したりするからねえ。敵、と認識するのはわからないでもない。でも意思疎通が図れる相手なら、何も敵対する必要はないし。ましてや懐いてるならなおさら。
「危険すぎるな」
「幾らお前のレベルが高くても何かあったら」
一触即発って感じになって来た。
でも次の瞬間、敵意を向けていた冒険者全員、急に意識が無くなったように動かなくなる。
「フレージア」
「だって殺そうとするんだもん」
「まあそうだろうけど」
安易に冒険者に向けて魔法を使わないようにと釘を刺しておく。
でもこれで冒険者にも効果があり、いざと言う時に無傷で鎮圧できるとわかった。
敵意を向けていなかった冒険者は二人。そっちには影響がなく首を傾げて疑問を抱く状態のようだ。
しっかり選別もできてる。敵意の有無で作用するのも悪くない。
「お、おい。どうした?」
「何で動かないんだ?」
「妖精の魔法の効果ですよ」
簡単に説明すると観念したのか、元に戻してくれと言われる。
「フレージア。これって元に戻るの?」
「戻るよ」
「じゃあ」
「心の中に敵意があると無理ぃ」
強制的に解除もできるそうだけど、そうなると揉めるとも言う。
でも、このままじゃねえ。
スタッフを呼んで揉めずに済むように話を付けるか。
「じゃあスタッフを」
と口にしたら後ろから声が掛かり「ヒロトさん。またですか」と呆れ気味のスタッフが居た。
経緯を説明すると妖精に関しては僕の言うことを聞くなら不問となる。
フレージアにスタッフが居るから大丈夫、として解除してもらった。




