Sid.87 勝手に慕う不思議な存在
地面に居た小さな物体だけど、どう見ても小さな人のようだ。なんか知らないけど緑色の貫頭衣を纏ってる。黄色味掛かる髪色と白い肌。でも背中に昆虫のような羽生えてるし。もしかして妖精って奴?
僕が見ていると目が合い微笑んだような気がした。そして羽をはばたかせると宙に浮きあがり、僕の目の前でホバリングしてる。
じっと見つめ合う感じになってるし。
「主」
「え」
「あたしの主」
「え」
えっと。言葉を。
「殺さなかった」
だから従うと言う得体の知れない存在が居る。いや得体の知れないじゃないな。これが妖精なんだろう。精霊が居るのだから妖精だって居るだろうし。現に目の前で飛んでるわけで。
しかも言葉を発する。
「えっと、妖精?」
「あたし、妖精」
「何の?」
「んー? 緑の妖精」
緑の妖精って、見た目まんま。体長十五センチくらいか。愛らしい姿をしてるけど、悪戯好きがゆえにクスタヴィを困らせてたのかも。
「あ、違った。フレージア」
「フレージア?」
「うん。フレージア」
どうやら花の妖精で元はフリージアってことらしい。妖精は魔法を使えて春先に一番力を発揮できると言う。
そしてフレージアの場合は夏に一番力が弱まるのだそうだ。
季節によって違うのか。
「主の名前」
「え」
「主の名前は?」
「ああ、僕はヒロト」
ヒロトヒロトと口にし喜んでいるのか、僕の周りを飛んで「あたしのヒロト」とか言ってるし。あたしの、じゃないでしょ。
それにしても妙な存在に懐かれた感じだ。これ、いつも飛び回ってるのかなあ。
「いつも僕の傍に居るの?」
「居るよ」
「僕が居ない間はどうしてるの?」
「あたしが宿る球根でお休み」
球根? それってどこかにあるのか。
思わず周囲を見回してしまうが、もしかしてクスタヴィの家の傍にあるとか。
「球根ってどこにある?」
「ヒロトのポーチ」
「え」
「ポーチに居るよ」
ポーチの傍で飛び回り開けろとせがむ。開けると空のはずだったポーチに、遊色効果を見せる虹色の石が入ってる。
球根じゃなくて石なんだけど。どういうことかと聞くと「生の球根じゃ腐る」だって。フレージア曰く魔結晶と人が呼ぶものだそうで。これが本体だから壊すなと。
もしかして売り物になる?
「売っちゃダメぇ」
「売らないけど」
「あたし、役に立つんだよ」
一緒に居ることで役立つんだと言ってる。魔法使えるって言ってたし。どんな魔法を使うのかしらないけど、花の妖精程度じゃ強力なものは使えそうにない、そう思う。
「魔法ってどんな魔法を使うの?」
「無力化」
何それ。攻撃魔法じゃなくて支援系?
「無力化って」
「フレージアはね、凄くいい香りなの」
「で?」
「香りがね、興奮状態を和らげるの」
気持ちが落ち着いて徐々に敵意を失わせてしまう。敵意を喪失した状態になると、殴ろうが蹴ろうが反応しなくなるそうで。
今はレベル六十までなら敵意を喪失させられるんだ、と自慢げに胸を張って言うフレージアだ。
レベル六十って、凄くない?
「レベル六十?」
「そうだよ」
「相手が何でも効果ある?」
「あるよぉ」
試してみたくなるけど、まずはユズと合流しないと。待たせたら悪いし。
あ、でも。
「僕に向かって来た時、無力化させなかった?」
「しようとしたら魔法使われた」
僕の方が一手早かったそうだ。結果、蛙になってしまい手も足も出ず。死を覚悟していたそうだけど、投げ出されたことで殺意がないと理解した。
この人なら従うことで面白い経験ができる、そう思ったらしい。面白い、ねえ。まあでも潰さずにいて良かったと言えばいいのか。
結局フレージアを従えたまま、ランシ・ヤールヴィの町へ向かう。
「走るけど」
「大丈夫だよ」
疲れたら魔結晶の中に入るそうだ。
三十分程度走ると町に着きギルドに向かう。フレージアはしっかり飛んで付いて来てた。
門を通る際にセヴェリさんとトゥオモさんが「ひ、ヒロト? 何を連れてるんだ?」と驚いていたけど。
「妖精です」
「よ、妖精って、モンスターじゃないのか?」
「多少悪戯しますけど悪い存在じゃないです」
「そ、そうか」
乾いた笑いをしながら門を通してくれた。いきなり焦ったとは思うけど、でもフレージアに悪意は感じ取れないし。僕に従うなら言うことも聞くと思う。
ギルドに入るとアイナが仰け反って驚いてる。
「ひ、ひひ」
「ヒヒじゃなくて妖精です」
説明すると少し落ち着きを取り戻したようで。町の住人にとって妖精もモンスターなんだ。でも従えられる知能の高い存在なら、むしろ役立つと思うんだけど。
戦う術がないから怖いのかもしれない。
少しして待機室からユズが出てきて「こんにちは」と言った瞬間、僕の傍に居るフレージアを見て「ヒロトさん、なんですかそれ!」と興味を抱いたようだ。
すぐに駆け寄りフレージアを見てる。フレージアもまた「何この物体」とか言ってるし。
「ヒロトさん。どこで拾ったんです?」
「拾ったんじゃなくて」
「落とし物じゃないんだよ、ヒロトに救われた」
「面白いですぅ」
経緯を話すけど凄い羨ましがられた。
引き気味のアイナだったけど、僕とユズのやり取りを見て、フレージアが混ざって毒を吐く様を見ていたらため息吐いてる。
「ヒロトさんに懐いてるんでしたら、悪い存在じゃないんですよね」
「悪戯することはありますが、子供と同じなんだと思います」
人を見たら襲い掛かる知能の低いモンスターとは違う。
何より意思疎通が図れる存在だし。
「フレージアって言うんですね」
「あたしフレージア。ヒロトの友だち」
「あたしとも友だちになってください」
「イヤ」
そんなぁ、なんて言って「友だちになってくださいよぉ」と言うユズだ。かなり気に入ったみたいで。
でも嫌がるフレージアが居て、暫くはユズとの応酬が続くけど、鍛えるからと連れ出すことに。
「今日はどこに行くんですか?」
「とりあえず森に」
「クラゲですか?」
「もう少し奥へ進もうと思います」
僕が居ることで難易度は下がってる。数が出てきても対処できるのもわかったし。
町を出て森に入るとフレージアが好き勝手飛び回ってるし。
「フレージア、勝手に飛び回らないで」
「ヒロトが遅いんだよ」
そりゃねえ。羽があって自在に飛び回れるんだから、さっさと先へ進めるでしょうよ。こっちは徒歩だし地面も凸凹だし、進みづらいんだけどね。しかもユズはさらに歩みが遅い。
道中出てくるモンスターはフレージアを攻撃しない。むしろ居ないみたいな。
モンスターの仲間と認識してるのかなあ。
片っ端からユズの魔法で倒して進み、泉の前で待ち構えるとクラゲが無数に出現する。
即座に新たに覚えた魔法、アクセレリエラを使うユズだ。瞬間的に加速することでクラゲを掻い潜りエルドスピュートを放ち捲る。数が揃うまで待機状態だけど、加速中は魔法の発動も早くなるのか。即座に数が揃い片っ端から倒してる。
加速の効果が切れると再びかけ直し、またも攻撃魔法で倒して行く。
圧倒的な強さを見せる魔法使いだ。
「ヒロトさん! 楽勝です」
「そうですね」
「あたしの方が強いよ」
次は自分にやらせろと言うフレージアだ。ユズも魔法が使えるなら見てみたいようで。僕も興味がある。無力化の効果のほどを知っておきたいから。
と言うことで第二弾はフレージアに任せることに。
そして無数のクラゲが出現するも全てが空中で静止してる。
「魔法名とか呪文とか唱えないんですね」
「必要ないんだよぉ」
ユズが疑問を感じたようだけど、フレージアに言われて納得したような。
とは言え、静止してるだけで倒せたわけではない。
「これ、そのまんまなんですか?」
「倒すのはヒロト」




