Sid.86 棲み付く何かを退治する
妖精のような存在は家人に危害は加えない。部屋から部屋をすり抜け笑い声をあげる。衛兵では捕獲も退治も不可能だった。
もう少し深掘りすると、娘が居てトイレにも現れ迷惑を被っていると。寝ていると正面から見つめていることもあるそうで。それだけではなく、娘の部屋に現れ掛け布団を捲ってくるらしい。
助兵衛な妖精だなあ。
「どうされたいのですか?」
「できれば退治を」
「まずは見てみないとわからないので、一度伺いたいと思います」
今すぐ行けるのか問うと報酬の話しになった。
「二ベリキくらいしか」
「要らないですよ」
「え」
「対処可能かどうかわからないので」
退治しようとして命に係わる相手であれば、出せる範囲で報酬を受け取る。退治できず捕獲もできない場合は何も受け取らない。としておく。
またも恐縮し「では成功報酬として二ベリキまでお支払いします」となった。
二ベリキってことは一万六千円相当。それが限界って生活が厳しいのかな。
「ではご案内します」
クスタヴィと共にギルドを出ると、暫し徒歩で街中を移動し一軒の家に着く。
ハーフティンバー様式の比較的大きな家屋だ。
「こちらです。狭いですが」
狭いんだ。僕の住んでる家より大きいけどね。日本の家はウサギ小屋とも揶揄されるくらいで、狭さ自慢したらピカ一なんだけど。マンションなんかウナギの寝床だよ。
これだけの大きさの家でも二ベリキが限度なんだ。
そう言えばアイナはアパート暮らしで、もっと質素な感じだった。母子家庭だからだろうけど生活は豊かじゃなさそうだったな。
家に上がるとリビングがあり、女性が二人と男性が一人居た。
「紹介しておきます」
そう言ってクスタヴィが一人ずつ紹介していく。
「妻のライサ、息子のエリアス。そして娘のシルッカです」
妻のライサは齢四十くらいか。息子は十代後半と見た。娘も同じく十代半ばだろう。ライサもクスタヴィ同様やつれた感がある。息子はそうでもない。娘もお疲れ気味のようだ。
なんか全員が警戒してる感じで。まあ仕方ないんだろうけど。
僕も自己紹介しておくけど警戒心を解かれることはない。
まずは見てみないと判断できないし、クスタヴィに聞いてみよう。
「出現する時間は決まってますか?」
「主に娘の部屋とトイレに居る時です」
娘に執着する時点でエロ妖精だな。時々妻がトイレに居る時も現れるそうだ。その際は奇声を上げ笑うそうで。なんか嫌な奴だ。若い子がいいのかもしれない。
「あの、娘さんに部屋に居て欲しいのですが」
部屋に居る際に出て来れば正体を掴めるかもしれない。ここに居てもおそらく出てこないだろうし。まさかトイレで待ち構えるのも無理があるし。
クスタヴィに促され娘のシルッカが部屋に向かう。僕もあとを付いて行くけど、凄く忌避されてるのが伝わってくるんだよね。物凄く警戒してるし。
「あの、部屋で少し寛いでいてください」
「だそうだぞ、シルッカ」
クスタヴィも一緒に来ていて言われると、部屋の扉を開け室内に入り扉を閉じた。
僕とクスタヴィは部屋の外で待機。もし現れたら呼び出してとしておく。
出ない。
暫く待っても変化なし。
「出ませんね」
「いつでも、と言うわけでもないので」
部屋の外で待っていても暇だし退屈だ。クスタヴィにとっては娘の危機だから、何とかしたいのはわかるんだけど。
十五分程度経過した頃だろうか、部屋の中で音がして扉が勢い開いた。
「パパ! 出た」
何の気配も感じなかったけど、シルッカと入れ替えで僕が部屋に入る。
一瞬だけど姿を視認できた。ホログラムのような存在のような。淡い光を放ち半透明でゆらゆらしていた。壁に吸い込まれるように消えたけど。
部屋から出て隣の部屋に入っていいか確認すると「どうぞ」となり、隣の部屋の扉を開けると半透明な存在と目が合う。そして奇声を上げ向かって来た。
「フロギフィエリン!」
咄嗟に放った魔法は建物に被害を生じない蛙化。効果は不明だし役立たないかもしれない。でも家を破壊しては逆に迷惑千万だし。
白い靄に包まれる半透明な物体だけど、靄が晴れると見事に蛙になっていた。
実体のない存在と思ったけど、蛙になったのであれば実体があったのか。
蛙を掴まえ部屋から出ると「あの、どうなりましたか」とクスタヴィに聞かれ、手に持つ蛙を見せてみた。
「蛙?」
「そうです」
「正体が?」
「いえ」
魔法で蛙にした、と言うと父娘揃って驚いてるし。
目の前で潰すと気色悪がられるだろうから外に出てから潰そう。
リビングに向かいクスタヴィには、しばらく様子を見て出て来なければ解決。もしまだ出るようであれば僕を直接指名してください、と言っておいた。
お金を渡そうとしてくるから、まだ成功したとは言えない、として受け取らず家をあとにする。
見送りに出てくるのはクスタヴィだけ。感謝してるようで「ありがとう。これで安心できるかもしれません」と言われた。
まだ油断は禁物と言っておいたけど。
家から離れ手にした蛙が煩いから、町を出てから処分することに。
門を抜ける際に「活動拠点を変えたのか?」と聞かれ、個人の依頼を受けたから直接来ただけと言ってみる。
「個人の?」
「えっとクスタヴィさん宅のトラブルを」
暫し無言だった門衛だったけど「受けたのか?」と驚いてる。
「それでどうした?」
「まだ結果はわからないですが」
言いながら手にした蛙を見せると「蛙?」と不思議そうな表情をしてるし。
「蛙にしてみたんですが」
一瞬の間のあと「蛙にできるのか? 魔法でか?」とさらに驚かれる。
ゴーストみたいな存在と聞いていたそうだ。それを蛙にするとか、どれだけ凄い魔法なのかと。
もし霊的な存在であれば、なんで実体を持つ蛙になるのか、だよね。不思議だけど蛙になったから、そうできる魔法なんだろうと思うしかない。
「なんかレベル五十ってのは凄いんだな」
感心してるし報酬は受け取ったのかと聞かれ、まだ受け取ってないと言うと。
「なんでだ?」
「完遂したら受け取ることにしてます」
またも無言で口が開いてる。
「変わってんなあ」
提示された額の何倍も吹っ掛けるのが冒険者、と認識してるらしく、僕の行動は理解が及ばないそうだ。
まあ今までそうだったんだろうし。ここのギルドでも増額要求してたし。あれが普通なんだろうね。浅ましいと思うけど。
「お前、いい奴なのか?」
「普通だと思います」
「いや、居ねえぞ。お前のような奴は」
近寄ってきて「もし、もしもだが」と何やら言い出す門衛だ。
「他にも困ってる住人が居るんだが」
「何にです?」
「畑を荒らされるなんてのが多い。たぶんモンスターだ」
スライムじゃなくて?
聞けば凶暴な四本腕の熊のようなモンスターらしい。冒険者にとっては金になるはずだけど、一匹を倒すために依頼を受ける人は居ないそうで。見掛けたら退治してもいいとか言って、その際には金を寄越せと言われるそうだ。
結果、町の衛兵が五人くらいで退治しに行き、全員が大怪我を負ったそうで。それを三回ほど繰り返すと住人では手に負えないとなった。
「なあ、頼めたりするのか?」
「困っているのであれば」
僕の手を取り「頼む。助けてやってくれ」だって。
まあいいけど、今日はこのあとユズを鍛えるから、後日また来ますと言って町を離れた。
引き受ける冒険者も居ないのか。古城に行くか別の洞窟を目指す冒険者ばかりらしい。
さて、手にした蛙だけど。
地面に放り出すと白い煙が立った。もしかして時間切れ?
煙が拡散すると地面に何かが居た。さっきの半透明な奴かと思ったけど違う。実体があり何やら小さな存在だ。




