Sid.85 別の町で個人依頼を見た
馬車を使えばいい、なんて言う門衛の人だけど。乗客に嫌がられれるのは理解してるし。それに冒険者はレベルが上がれば、マラソンランナー並みに走ることができる。だったら無理に馬車を利用する必要はないでしょ。
一応返事としては「町の住人と馴染めたらにします」と言っておいた。
ギルドに向かい中へ入ると受付嬢と目が合った。前回は無表情での対応だったけど今回も大差無さそうだ。まあ冒険者ってだけで忌み嫌われるよね。
カウンターに向かい魔結晶の換金を依頼することに。
「魔結晶の換金と当座預金で預けたいんですが」
「ではこちらに」
トレーを出してくるけど、たぶん全部は載せられない。今回もだけど数が多過ぎるから。
「あの、もう一つトレーを用意してもらえると」
「え」
「載せきらないので」
少し驚いた感じで見てるけど「そう言えばレベル五十でしたね」と言って、トレーを一枚余計に出して「ではこちらにどうぞ」と促してくる。
パンパンになったポーチを外し、引っ繰り返すとジャラジャラと出てくる魔結晶だ。すぐにトレーの一つが山盛りになり、もう一つのトレーにもぶちまける。
受付嬢を見ると呆気に取られる感じだなあ。
「あの、これで全部だと思います」
「あ、は、はい」
山盛りの魔結晶を見ていた受付嬢だけど「え、と。確認するのでしばらくお待ちください」と言われ待つことに。
背を向け何やら作業をしているようだ。せっせと選別してるようで、更に種類ごとに数を数え金額を弾き出すのだろう。多いことで時間が掛かりそうだから、掲示板を見てみることにした。
カウンターの右側にある掲示板。見るとメンバー募集の用紙が二枚。それと何かの依頼だろうか、内容に目を通すと家に棲み付いた何かの退治、とある。ただそれだけで場所や報酬の記載はない。それと何かって何?
受付を見るとまだ作業中のようだ。終わったら聞いてみよう。
他に何か掲示されていないか見ると「冒険者各位」とあり「ギルドからのお願い」として「町の住人やギルド職員への威圧や暴行脅迫、町の外への連れ出し等は一切禁止です」と書かれていた。殺害した場合は永久追放とも書いてある。守る人は少数みたいだけどね。
他には「プレイヤー同士の私闘は禁じられています」だそうだ。
これも守られていない。法として定めないと守らないでしょ。あとは取り締まる人も必要だろうし。罰則にしても永久追放じゃなあ。地球に戻っても刑罰の対象にしないと意味がないよね。
犯罪として扱わないと。
見ていると呼ばれてカウンターに向かう。
計算が済んだようで預かり証が置かれてる。
「全額当座預金にしますか?」
「十スレブロだけ受け取ります」
小銀貨十枚をトレーに載せ、預かり証には残額を記載してるようだ。
書き終えると「ではこちらをお受け取り下さい」と言われ小銀貨を受け取っておく。
あとはリコールしないと。
「待機室はどこですか?」
「掲示板の横のドアです」
示される方向を見ると扉がある。
「ありがとうございます」
礼を言うとなんか驚いてる。言う人、居ないんだろうなあ。冒険者にとって案内は当たり前と思ってるんだろうから。
嫌われて当然の所業だけど改める気もないんだろう。相手が人と認識できないのかな。
「あ、それとですね」
掲示板に貼り出されている依頼書のようなもの、それを尋ねると。
「気になるのですか?」
「少し」
「通常、町の人が冒険者に依頼することはありません」
住人のために行動する冒険者は皆無、と見られているらしい。平然と暴力を振るう冒険者に依頼すれば、強盗殺人犯を呼び込むようなもの、と認識しているそうで。
それでも時に町の衛兵では解決できないことも発生する。
「その場合は藁にも縋る思いで依頼することはあります」
冒険者には力がある。だから縋るのだそうだ。しかし報酬に関しては冒険者の希望額は払えない。これは個人の依頼だから報酬目当てならやめた方がいいと。
ギルドを通しての依頼であれば、内容に応じた報酬が用意される。とは言えギルドを経由して依頼をした場合、報酬の他に仲介手数料が発生してしまう。ゆえに掲示板を借りて、依頼を受けてくれる奇特な存在を待つのだそうだ。
「家に棲み付いた何か、としか書いてないんですが」
「受ける場合に詳細の説明をしてくれます」
「どうやって依頼を受けるんですか?」
「え、まさか受けるのですか?」
困ってるなら手助けしてもいいと思う。例え無報酬でも。
「内容次第の面はありますけど」
「連絡を取れば依頼者が来ます」
「じゃあ明日の午後一時半くらいで」
じっと見つめてくる受付嬢だ。その目は正気か? って感じだけどね。
「本当に良いのですか?」
「だって、困ってるんですよね」
「そうだと思います」
「話しくらいは聞きますよ」
受けられそうなら受けるし、無理そうならごめんなさいだ。
「では連絡を取っておきます」
直前でのキャンセルは遠慮して欲しいと。最低限話だけは聞くこと、と言われた。
呼び出しておいて知らん顔はできないでしょ。でも居るんだろうなあ。責任感なんて、この世界に来た冒険者にあるわけもない。
頭を下げ明日来ます、と言って待機室へ入る。
待機室は他と同じだ。他と言っても一か所しか知らないけど。
スタッフが居て「見ない顔ですね」と言われる。
「ここは初めての利用なんです」
「そうですか。では簡単に説明をします」
各地に点在するギルドのある町でリコールすれば、次回からは前回リコールした町か、一度でもリコールしたことのある町から始められる。
ソウルシフトの際に行き先を指定するだけだそうで。
「レベル上げも同様にできます。しますか?」
「いえ。リコールだけで」
「では椅子に腰掛けてください」
椅子に腰掛けリコールすると、いつもの小部屋だ。
スタッフに「他の町でリコールされたのですか」と聞かれ頷いておく。するとここでも念のためだろう、簡単に説明され施設をあとにする。
他の町でリコールしたことがわかるんだ。何か表示されるのかな。
翌日、行き先をテューネスに指定しソウルシフトする。
目覚めると同じ風景だからわかりにくい。でも待機室を出ると受付嬢が異なっていたり、ギルド内の雰囲気や備品の並びが違うから、別の町に来たのだと理解できる。
カウンターに向かうと受付嬢から「ラウンジでお待ちしております」と案内された。
ラウンジの椅子に腰掛ける男性。中年くらいだろうか。少しやつれた感がある。
「こちらの方が依頼主ですので、詳細を伺って可否を検討してください」
そう言って離れる受付嬢。
椅子に腰掛けていた男性が立ち上がり「クスタヴィと言います。話を聞いてもらえるそうで」と言って着席を促してくる。
一応、僕も名乗っておこう。
「あ、僕は冒険者のヒロトです。今回力になれるかどうかわかりませんが」
「え、あ。ああ、わざわざご丁寧にどうも」
なんか少し恐縮した感じで驚いてる。
椅子に腰を下ろすとクスタヴィと名乗った男性も腰を下ろし、少し前屈みになり話を切り出してきた。
「すでに三か月くらいになりますが、家に何かが棲み付いたようなのです」
その何か、が疑問だったんだけど。どうやらクスタヴィにもわからないようだ。
「どのような存在ですか?」
「壁をすり抜けます」
実体がない?
「他には何か特徴がありませんか?」
「半透明な感じで衛兵では捕らえられませんでした」
「攻撃とかしてきますか?」
「いえ。家の中を漂うのと笑い声を響かせるくらいです」
何それ。家人を驚かせるのが趣味程度なら、妖精の類かもしれないけど。
捕獲とか退治できるのかなあ。




