Sid.7 教会で治療をしてもらう
スカラーDランク。学究みたいなもの。スカラーはDからAまであり、その上にアドバンス・スカラーがある。アドバンス・スカラーはCからAまで。その上にアデプト、つまりは達人があるらしい。まだアデプトに至った人は居ないそうだけど。
ノービス、すなわち初心者から始まりアデプトまで四つのランクがある。単純にレベルだけじゃないのは箔付けの意味合いがあるようで。
スタッフが「少し待っていてください」と言うので暫し待機室で待つ。
ドアを開け受付に向かったようだけど。
戻ってくると手には何やら持っているようだ。
「では、こちらを身に着けてください」
手渡されたのは銀色のドッグタグのような。首から下げられるようにチェーンも。
表面には「Scholar/D」と入ってる。裏面には「Hiroto」と刻まれていて、もうひとつ「Länsi-järvi Adventurers Guild」と刻まれていた。ランシ・ヤールヴィ冒険者組合ってことらしい。
ランシ・ヤールヴィってのは、この町の名称のようだ。
「このあとはどうしますか?」
タグを見ていると何やら聞かれる。
「え」
「頭を怪我してますよね」
そうだった。すっかり忘れてた。
ギルドで治療もできると言うけど、門衛の人から金額は高いと聞いてる。教会で治療した方が安上がりだからと、そっちを勧めてくれてたし。
「あの、教会で治療」
苦笑いしてる。
「ギルドは高い、そう言われましたか?」
「あ、はい」
「教会の治療は完ぺきではないです。傷口を塞ぐ程度ですよ」
それでも自然治癒力はあるから、時間経過と共に治癒するらしい。ただ時間が掛かる。もっと大きな怪我や骨折などの場合は、教会では治療できないそうだ。
腕が捥げた、足が拉げた、などの場合も同様ギルド以外での治療は不可能。
とは言え。
「今回は小さな裂傷のようですので」
教会で治してもらえばいいと。
「教会への寄進行為は推奨していますので」
簡単な治療行為に対して寄付をすれば、印象も良かろうということで教会へ。
ギルドを出てすぐ白い塔があり教会に辿り着く。
建物はまあ教会だ。白い漆喰塗りの建物のようで、塔の下に出入り口があり中へ入ると如何にもなシスターが居た。ベンチが幾つか並び、祭壇付近に居たのは黒いチュニックを纏い白のスカプラリオ、つまり肩から胸、背中に掛ける布を身に着けた女性。黒のカプチンと白いウィンプルも被ってる。
入るとすぐ気付いたのか、こっちを見て「何か御用ですか?」と聞いてくる。
「えっと、傷の治療をお願いしたくて」
「怪我をされたのですね。ですが傷が深いと治療しきれませんが」
「軽傷です」
「ではそちらへお掛けください」
言われて教会内のベンチに腰を下ろすと、傍に来て「ああ、このくらいでしたら」と言って、手をかざすと何やらぶつぶつ言ってるような。
聞き取り難いけど「クレスタテ・ティン・プリギ」と言ったような。たぶん治療の呪文みたいなものなんだろう。
じわっと傷口周辺が温かくなると少しむず痒くなった。
「終わりました。傷口は塞がったので大丈夫でしょう」
怪我した部分に触れてみるけど、傷口らしき感触は無くなってた。痛みもない。いや、痛み自体はとっくになかったっけ。
とりあえず礼を言って二スレブロ渡そうとすると。
「神のご加護がありますように」
そう言ってから受け取ってくれた。
神なんて居るのかどうか知らないけど、早々にレベル五まで上がったことだし、神様とやらに感謝しておこう。
そう思ったけど、どうすればいいのか。
「あの、神様に感謝の意を捧げたいのですが」
「それでしたら祭壇の前で祈りを捧げてください」
祭壇を見ると螺旋状に蔦のようなものが絡まる、上を向いた矢印の如き物体が鎮座してる。あれが神の姿なのだろうか。それとも抽象的なものなのか。
跪いて両手を合わせ「我ら創造の主を崇めさせたまえ。そして今日この日に感謝いたします」と心の中で唱えれば良いそうだ。略式の祈りらしい。正式なものは信者が唱えるものだそうで。
言われた通り祭壇の前に行き跪き祈りを捧げておく。
立ち上がり教会を出ようとすると「あなたは冒険者ですか?」と聞かれた。
「そうです」
「礼儀正しいのですね」
外面が良いのが日本人。だから礼儀正しく見える。実際には内弁慶なだけだし。
「お名前を伺っても?」
「え、あ。ヒロトです」
「ヒロトさんですね。私はマリッカと申します。時々は教会にいらしてくださると嬉しいです」
寄進したから今後も期待してるのかな。稼げたら少しくらい寄進しに来てもいいけど。
「えっと、じゃあまた来ます」
「ぜひいらしてくださいね」
笑顔が眩しい。笑うと愛らしい表情を見せるシスターだ。
ちょっとだけキュンってなった。
教会をあとにする際に見送りに出てきてくれるし。気に入ってもらえたのだろうか。都合の良いカモとか思ってたりして。そうじゃないと思いたい。
ギルドに戻り待機室に入るとスタッフに「治りましたか?」と聞かれ、無事に治療が済んだと報告。
「リコールしますか、冒険しますか?」
聞かれるも残り二十分も無い。レベルも上がったことだし今日はこの辺で充分だと思う。
椅子に腰掛けリコールすることに。
意識が狭く薄暗い空間に。目覚めて暫くするとスタッフが来て「お帰りなさい」だって。
「楽しめましたか?」
「えっと、まあ」
「レベルは上がりましたか?」
「あ、はい」
それは良かった、なんて言ってるし。言いながら電極外したりヘッドギアを外したり。
体を起こし軽く腕を回し首を回す。
現実の体は意識が無く弛緩状態らしく急に動かすと、眩暈を生じて倒れることもあるそうだ。
深い睡眠後に近いのか。
次回の予約を入れアーススパイアホールをあとにするけど。
「あ、そうだ」
忘れるところだった。卵と牛乳を買うよう頼まれてたんだ。
家に帰る途中のスーパーで買い物を済ませ家に帰った。
母さんに「入学式前だからって、遊んでばかりで大丈夫なの」と言われる。
「大学の授業内容なんて、まだ分かんないけど」
「苦手な部分の復習もあるでしょ」
今後の授業について行くためにも、休み中に苦手なものは克服しておけ、ってことらしい。
別にないけどね。ずっと真面目に勉強ばっかりやってきたし。「趣味は?」と聞かれたら高校までは「勉強」って答える程。お陰でほとんど友だちもできず。彼女だってできなかったし。作る気もなかったのはあるけどさ。時間と金の浪費とか思ってたからね。それ以前に相手にしてもらえなかったけど。
みんなが青春を謳歌してる時に、僕は勉強三昧の日々だった。
高校一年の時は部活動もやってたけど、二年からは予備校通いと自宅学習だけ。
ぼっちかよ。
そして今もだ。
異世界に行って尚もぼっち。
仲間を募って楽しく冒険をしよう。そのためにも次は仲間探しだな。レベルも五まで行けば初心者同士の仲間だってできそうだし。
そして予約日当日。
アーススパイアホールに行き個室に案内され異世界へ。
仲間を募りたい。でも方法が分からない。
適当に歩いてる人を捕まえて「一緒に冒険しませんか」とか言っても無理だろうし。
そこでスタッフに聞いてみると。
「メンバー募集として掲示板に出せますよ」
アナログだけど初心者のうちは、そうやって仲間を募るそうだ。中堅くらいになると名の知れた存在も出てくる。そうなると勧誘されるが初心者は相手にされない。
初心者同士で組むのが一般的だそうだ。
と言うことで受付に行って募集用紙をもらう。
「四バーカルです」
八十円。金取られるんだ。まあでも仕方ないか。紙も貴重品なんだろう。




