Sid.6 過去最速のレベルアップ
まずはギルドに寄って換金可能かどうか確認する。
建物内に入ると受付カウンターがあり、そこに一人立っている女性が居て、それが受付嬢なのだろう。緑色でリネンの袖が短いオーバードレスに、赤いキルトのワンピースかな、それを纏った赤髪の白人っぽい女性だ。僕に視線を向けるけど関心は無さそうだ。でもこっちは用があるわけで。
カウンターの前に立つと「何か?」と素っ気なく聞いてきた。
「あの、ドロップ品の買い取りって」
「物はなんですか?」
「石」
「あの、石って」
宝石のように輝く石だと言うと、コイントレーを出してきて「ここに出してください」と指示される。
ポーチから赤と緑の石を出し置くと。
「魔結晶ですね」
僕の顔を見て「新人さんでしたよね? よく入手できましたね」と言われるも、何やら訝しげな表情を見せてる。
レベル一で倒せる相手じゃないはずと続けて口にしてるし。つまり盗んだ、とでも言いたいのだろうか。ラノベなら疑われるイベントはあるけど。そして主人公が実は最強だったとか。でも僕は確かにレベル一のヒヨッコ。
当然、倒せないはずの相手のアイテムなら、疑いをかけられても仕方ないのか。
「森に入って偶然出くわして、運良く倒せただけです」
「確かに、レベル一の初心者が他人から盗めるはずもないですし」
レベル一だと衛兵に遠く及ばない実力。町に居る平均的な大人より少し強いくらい。違いは魔法を自在に扱えること。住人や衛兵もそうだけど、魔法を扱える人は少ないらしいから。
そもそも町の住人が魔結晶を持ってることはない。スライム一匹に苦戦したり死ぬこともあるくらいで。だから僕は無罪と分かりそうだけど。
「ただ、冒険者の遺品から盗ったとか」
「ないです」
森の中で死亡する冒険者は多い。装備やドロップ品も転がったまま。のちのち取りに行かなければの話だけど。その場合は盗んだと言えるのか、だ。日本なら遺失物等横領になってしまうだろうけど。この世界の法がどうなってるかは知らない。
受付嬢が「怪我してるみたいですし、自力で倒したんでしょうね」と言って、赤い魔結晶が一ベリキ、緑の魔結晶が四ベリキだそうで。
まじで?
「それで良ければ買い取ります」
四万円相当。元の世界で使えれば五回、この世界に来れる額だけど。元の世界に持ち出すことはできない。同様に向こうの世界の物は持ち込めない。行き来できるのは精神のみだから。
「じゃあお願いします」
「では少しお待ちくださいね」
背を向けて質量でも量ってるのかな。それとも魔結晶って言うくらいだから、保有魔力量を測ってるとか。
作業を終えると向き直ってカウンター下から、何やらごそごそ漁ると手には貨幣を持ってる。
「確かめてください」
そう言ってトレーに一枚ずつ大銀貨を置いてる。全部で五枚。
確認が済むと「両替しますか?」と聞かれた。大銀貨は単位が大きめだから使いにくいらしい。銅貨と小銀貨にしておけば、嵩張りはするものの町で使いやすいとか。
教会に寄付するから両替した方がいいのか。
「じゃあ大銀貨三枚は残して他は小銀貨に」
「分かりました。少しお待ちくださいね」
で、カウンター下をごそごそ。手には貨幣を握り締めてる。
「確かめてください」
手数料として一スレブロ、四百円掛かるから、それを差し引いた額を渡すそうで。
それ、先に言ってくれても。まあでもいいや。
確かめるとジャラジャラと増えた貨幣。ポーチに流し入れると少し重い。
「あの、本当にレベル一なんですか?」
受付嬢に聞かれたけど頷いておく。
「森に潜むモンスターって、レベル一だと倒せませんよ」
「でも倒せた」
「ジョブはなんですか?」
「魔法剣士」
魔法で弱らせて剣で倒したのかと聞かれ、逆だと言っておいた。
不思議そうな顔してるけど、教官の教えに忠実な構えを取ったし、勝手に突き刺さってくれたし。運が良かっただけだと思う。
そう言うと。
「運も実力の内って言いますもんね」
少し違うと思う。たまたま運が良かっただけで、これが何度も続くと思わないことって、自らを戒めておかないと。
調子に乗ればあっさり死ぬだろうから。
カウンターから離れる際に「レベル上がってないですか?」と言ってるけど。
レベルって、どうなると上がるんだろう。そう言えば分かってないな。またカウンターに向かい聞いてみることに。
「レベルって?」
「倒したモンスターの生命力を」
「それは知ってるんですけど」
ギルド内に吸収した生命力を元に、アバターの能力を向上させる魔道具があるらしい。レベル上昇に必要な生命力を得ていればレベルが上がると言う。
「あの、それってすぐできるんですか?」
「できますよ。レベル二から五までは五スレブロです」
金取るのか。二千円。稼いできても結局、いろいろ取られるんだな。でも元の世界じゃ使えないし、ここしか使う場所もないし。装備品も買わなきゃならないけど、レベルは経験値が溜まると自動で、ってわけにはいかないんだな。
純粋な生命体じゃないからなのか、フィクションが都合良すぎるのか。
そもそもレベルを誰が管理してるのかって話だし。フィクションの世界はね。
「じゃあお願いします」
「では少しお待ちください」
そう言うとカウンターを離れ奥にある扉を開け別室に行ったようだ。
少しして別の人物を伴い扉から出て来た。
「レベルアップですか。早いですね」
ギルドの待機室に居た人だ。
「案内するので、こちらへどうぞ」
そう言ってカウンターから出てきて待機室に向かう。中に入ると幾つかある扉のうち、ひとつを開け「中へどうぞ」と入室を促される。
入るとテーブルと椅子二脚。テーブル上には四角い箱がひとつあり、そこからケーブルが二本伸びていて、ケーブルの先端には電極らしきものが。
座ってください、と言われ椅子に腰を下ろすと説明が始まった。
「これがレベル・インプルーブメント・デバイスです」
モンスターから得た生命力を使い、アバターの性能を上昇させる装置ってことだ。
電極を手の甲に貼り付けると、武骨な円筒スイッチを回転させてる。一段から三段とあるようだけど。
ガチャっと音がして一段目で止めた。
「一段目でレベル三まで上昇させられます」
二段目で六まで。三段目は十まで上昇させられる。もちろん、上げるのに必要な生命力を得ている場合だ。
無ければ得た分だけしか上昇しない。
もうひとつあるトグルスイッチ。今は下向き。
「では始めます」
トグルスイッチを上に向け動かすと。
ピリッと手の甲が痺れた感じがして、次に体が勝手に震え出した。
「あ、あの」
「震えるのは細胞の並びが変化してるからです」
外側ではなく内側の細胞が増殖し並び替えが行われていると。
箱にはアナログインジケーターがあり、目盛りは一から十まで振ってある。それが一目盛りずつ動いて行くようだ。
そして三つまで動くと止まった。
「あれ? まだ余裕がありそうですね」
「そうなんですか」
「じゃあもう一段」
二段目までロータリースイッチを動かし、再度トグルスイッチをオンにすると。
目盛りが五まで行った。
「凄いですよ。何を倒したんですか?」
「えっと、森の中に居たぎょろ目で牙のある醜い化け物です」
「もしかして、コバロルムですか?」
「えっと、モンスターの名前、知らないんですけど」
たぶんそうなのだろうと。コバロルムはゴブリンに似た存在で、木々の枝を伝い後方から襲い掛かる危険な存在らしい。
二体倒したけど。しかもレベル一で。
かなり驚かれたみたいだ。
「過去最速でレベル五ですよ」
ノービスは卒業で今日からスカラーDランクだそうで。




