Sid.83 傍若無人な冒険者の考察
ケチと言われても。僕の一存で決められることじゃないし。
「じゃあ仲間に相談してみるから」
納得したのかしてないのか、チラッと僕を見て車窓を眺めてる。
施設最寄り駅に着くと下車して向かい、各々別の個室へ案内され異世界へ。
待機室が視界に入ると立ち上がるけど、スタッフに「例の件ですが大学卒業までに考えておいてください」だそうで。署長はともかく警察官として、治安維持に努めるのは悪くないんだろう。守りたい人も居るから前向きに考えることに。
ユズが動き出し椅子から立ち上がると、腕を取り「行きますよ」と無理やり連れ出された。
「例の件ってなんですか?」
言ってよいものなのかどうか。
「頼み事です」
「ヒロトさんに?」
「そうです」
「何を頼まれてるんですか?」
いずれ、と言っても納得せずスタッフに聞いてから、としておいた。
なんかいろいろ興味を持つんだね。
ギルド内に移動するとアイナは元気そうだ。フラッシュバックは無かったのかな。何かあったら手助けが必要だし、聞いておいた方が良さそうだ。
「アイナさん。夜は眠れましたか?」
笑顔を見せ両手を広げ「ヒロトさんの愛を感じます」って、何それ。
気遣いから声を掛けたんだけど。
「眠れたかどうかなんですけど」
「ヒロトさんが添い寝してくれれば熟睡できます」
「じゃなくて」
「大丈夫でした。よく眠れたので今日も元気ですよ」
それなら良かった。
何かあれば言ってね、と声を掛けギルドを出る。
隣を歩くユズだけど僕を見て、にやにやしてるし。
「なんです?」
「添い寝、しないんですか?」
「しないですよ」
「エッチできないからですか?」
違うっての。
「彼女にはいろいろあってメンタルケアをしてたんです」
「メンタル?」
「冒険者に攻撃されたことがあって」
「え、昨日みたいにですか?」
以前の経緯を話すと憤慨して「女子に手を上げる男ってサイテーです」だって。
僕もそう思う。ましてや力のある冒険者なんだから、それを力のない人に振るうのは狂気の沙汰でしょ。僕らはモンスターを狩る力を与えられてる。その力は人に向けるものじゃないはずなのに。
門を出る際に「今日も森に行くのか?」とセヴェリさんに聞かれる。
「そうです」
「仲間に入れるのか?」
「いえ、まだ未定です」
「入れてくださいよぉ」
笑いながらトゥオモさんが「仲間にしてやれよ」とか言ってるし。面倒見てるなら最後まで見てやれ、だって。
まあ、そうなんだろうけど。
街道を進み森へ足を踏み入れるとお出迎えだ。
ユズも戦闘慣れしてきたのか、コバロルム程度は排除できるようになった。数が出てきても最大二十匹までは対処できる。二十を超えた場合は僕がサポート。
木のモンスターも容赦なく倒し突き進むと泉に到着。
「やりますよぉ」
「昨日みたいにならないでくださいね」
「大丈夫です! 今日はちゃんと」
「出てきましたよ」
慌てて魔法を行使するユズだけど、一発は食らったようで「ビリっときたぁ」なんて言ってるし。
どうやらレベルアップで耐性が強化されたようだ。動けなくなることはないみたいで。これなら一人である程度は対処できそう。
万が一に備え隣で待機するけど、十や二十までは問題無くとも、それを超えてくると手が回らなくなるようで。
「ひ、ヒロトさぁん!」
「はいはい」
泉の反対側まで吹き飛ばせば、あとで魔結晶を回収できるだろうから、衝撃波を使いクラゲを弾き飛ばす。
激しい音と共に泉の水面が暴れまくり、同時に砕けるように吹き飛ぶクラゲだ。そして対岸に転がる魔結晶。思惑通り。
ユズを見るとふらふらしてるような。
「どうしたんです?」
僕を見ながら耳に手を当て「耳、壊れそうです!」って大声で怒鳴ってるし。
あ、そうだった。自分が使う魔法の衝撃音は気にならないけど、周りの人にとっては鼓膜が破けそうな音だったんだ。
先に注意しておけば良かった。
「ごめん。この魔法ってかなり煩いから」
「耳がキーンってなってます」
隣に居ても衝撃は伝わってくるそうで、倒れそうになったとも言ってる。
できるだけ指向性を持たせたんだけど、それでも威力が増すと周囲に影響があるのか。
暫し泉の淵に立っていると第二弾だ。
「また来ますよ」
「さっきのあれ、使う前に言ってください」
「はい。申告します」
エルドスピュートやフリサンデスピュートで倒すけど魔結晶は泉の中へ落下。
少し勿体無いとは思うけど、もう少し耐性が強まれば陸に上がるのを待てる。今はまだ痺れるようだし。
僕には効果がないけどね。レベル差は如何ともし難いようだ。
一通り倒すと静まり返る泉。
「じゃあ対岸の魔結晶を回収しますよ」
「ヒロトさんのさっきの魔法ですけど」
「できるだけ使わないようにします」
「じゃなくてですね、いいですねあれ」
広範囲に攻撃できて威力もあって、敵を近寄らせないのが便利だと思うそうだ。
レベルが低いと段ボール箱の空気砲なんだけどね。全然役に立たなかったし。高レベルになって使える魔法になった。
泉の淵を回り魔結晶を回収し町へ戻ることに。
帰路も楽にモンスターを倒し街道に出ると馬車が向かってくる。
「あ、ヒロトさん。馬車」
「この世界はまだ移動手段が馬車みたいで」
「乗りたいです」
「嫌がられますよ」
冒険者の所業に辟易してるのが街の住人。信頼される存在にならないと乗れないでしょ。
物凄く嫌悪される存在でしかないのだから。
「だから今は乗れません」
「つまんないです」
「行動で示すしかないですね」
通過する馬車を眺め肩を落とすユズだ。
ついでに少し憤慨してるようで。
「なんでです?」
「何が?」
「普通にできないんですか?」
「普通?」
なぜ町の人と交流しないのかと疑問を感じるようだ。それは僕も思う。
言葉が通じず習慣が違い過ぎて馴染めない、そんな感じじゃないと思うそうで。僕もそう思う。
「冒険者の多くが原始人なんて言ってるくらいだし」
「なんでです?」
「文明の発展度合いを見てるんだと思いますよ」
ルネサンス期くらいの文明レベル。現代の僕らから見れば不便極まりない世界。
何から何まで劣っている、そう思ってしまうのだろう。だから見下すし蔑む存在が後を絶たない。
でも僕らの祖先もかつては通って来た道だ。それがあって今がある。
「でも普通に話できます」
「変だとは思うんですけど、よくわからないですね」
スタッフは差別的じゃない。でも冒険者は凄い差別的だ。何がそうさせるのか不明なまま。
その辺も運営側で考える必要がありそうだ。警察を組織するのも良いけど、その前に冒険者がなぜ差別するのか、徹底的に考察する必要はあると思う。
元の世界に戻れば普通の人のはずだから。でもこっちに来ると犯罪者の如し。
何かあるはず。
町に着くと「早いな」とセヴェリさんに言われる。
「効率よくなったんで」
「そうか。ヒロトが育てるからだな」
安全を確保できるのは大きいとは思う。
門衛の二人と軽く会話を交わしギルドへ。
ギルド内に入るとカウンターの前に冒険者が居る。換金してるようで、でも喚く奴も恫喝する奴も居ないようだ。
スムーズに手続きが済んだようで、カウンターから離れ待機室に向かった。
軽くアイナに声を掛けてみる。
「今の冒険者は?」
「今のって?」
「ああ、問題行動はないのかなって」
「ないですね」
暴れない冒険者も居るには居るようで。ただ会話を交わすことはほとんどないそうだ。淡々と事が進むから楽は楽だそうで。
あとで換金とガチャが必要になるかも、と言って待機室へ向かう。
先に入った冒険者たちが椅子に腰掛けてる。リコールするんだろう。
僕に視線が集まるけど。




