Sid.82 異世界で警察組織検討中
初代警察署長とか言ってる。僕みたいな若造ができることじゃないでしょ。
それなりに経験を積んだ人望のある人じゃないと。優秀だったけど引退した元警察官の方がいいと思う。組織を纏めるってことまで考えると。
それを言うと「確かにそうなのですが」と言い淀む。
「年齢が上過ぎても」
「体が思ったように動かないんですか?」
「いえ。説教臭いですよね」
確かに。年取ると説教臭い。今どきの若い者は、と口にしやすいし。現役で比較的若い人の方がいいと考えるそうだ。
体の方は若い肉体を使うことができる。警察官ならではの経験は生きるだろうと。
ただ、考え方の問題があるから、引退した人を使うのは難しいそうだ。
何より法の違いは大きい。
「あと頑固ですし組織にとって適切な年齢もあります」
でも僕じゃ若過ぎる。人を纏める力もない。あるのは魔法の威力が高いくらいで。
ただ、時々町の巡回はしてもいいとは思う。マリッカやアイナを守れるし。そうなると仕事になるから報酬の問題もある。
「報酬とか」
「こっちの貨幣ではなく各々の国の賃金を」
日本なら円で支払う。職務内容や労働時間に身分、待遇の問題もあり今後詰めていく必要はあるそうだ。
「早ければ一年以内に」
「できるんですか?」
「やるしかないでしょうね」
実は、と打ち明けられた内容は。
「教会の総本山から猛抗議されまして」
運営に対して冒険者の暴挙を許しているのかと。このまま放置すれば神の怒りに触れ滅ぼされるのは、我々冒険者側であるのだと抗議されたらしい。相当なお冠だったそうだ。
神が居ることは承知しているはずで、仮の肉体を与えられる際に、幾つか順守すべきことを賜っているはずだとも。
「現地の住人に危害を加えない。治安を乱さない」
この二つが最低限であり絶対順守と言われていた。ところが蓋を開けてみれば危害は加える、治安は乱すで全く守られていない。
そこで警察機構が必要と判断されるに至ったそうで。
「ヒロトさんは高レベルであり、町の住人を守った実績もあります」
町の人も受け入れやすいだろうと。どこの誰とも知れない輩が、急に権力を得て幅を利かせるより、僕の方が住人も安心できると判断したそうだ。
「纏め役は無理でも巡回は任せたいので」
忙しくなりそうな気がする。呑気に攻略なんてできないでしょ。
あとは暴挙に及ぶ冒険者をどうするのか。奴らは平気で舐めて掛かってくる。警察と言っても自警団みたいなものでしょ。権力は国家から与えらえたものじゃないと。
当然逆らう奴も出てくるだろうし。
「その辺はどうするんです?」
「それも含めて検討中です」
この世界の国家から承認を受け、地球側でも各国から承認を得れば、権力を存分に行使できると考えるそうだ。
その場合の扱いは国家公務員。給与も準じたものになる。給与の原資を調達する必要性にも迫られる。それに関しては料金の値上げで対処するそうだけど。
あまり高額になっても利用者減らないかな?
「一年以内と言いましたが、おそらくは二年以上掛かりそうです」
先進国を中心に警察官を募集し、訓練を行い警察学校にも通ってもらい、晴れて警察官になると赴任先はここ。訓練内容は地球でのものとは異なるわけで。
いろいろ事前準備に時間が掛かる。それでも近い将来の話しとして、考えておいて欲しいと言われた。
警察機構を設立するまでの間は自警団で対処するそうで。
主に運営側スタッフでやるらしい。僕にも参加して欲しいようだけど。高い能力と実績があるからだって。
それと住人に慕われる存在は必須だそうだ。
なんか、予定とは異なって来そう。
助祭になってマリッカと結婚して、のんびり過ごす、そんな計画は泡と消えそうな。
マリッカやアイナが居るから、この世界に骨を埋める覚悟もできる。でも警察官のような重責は担えないな。
一応熟慮するとは言っておいた。
リコールし日本に戻り家に帰る。マリッカにはあとで話をしておこう。
狭い施設の部屋が視界に入りケーブルを外す間、こっちのスタッフからも言われる。
「当面、自警団として活動して欲しいのですが」
スタッフ権限の一部は与えられる。逮捕や強制送還などだそうで。
行き来はもちろん無料だし、逆に給与も発生するから持ち出しは皆無になる。大学生であるならば、当面は来れる日だけでいい。卒業次第、週に五日間は巡回して欲しいそうだ。夜勤もあるから給与は期待できるとか。
現時点では日当になるが一万二千円。一日四時間勤務。通勤手当も支給されるらしい。バイトより稼げるには稼げる。でも責任重大。
「破壊は許可できません。代わりに捕縛魔法を習得してもらいます」
無力化した上で捕縛するそうで。あれかな、幼児レベルに弱らせて捕まえる。魔法も封じてしまえるようにするそうだ。
こっちでも熟考しておくと伝えておいた。
面倒なことを背負い込むことになって来たような。でも危険な奴らが多いのも事実。何かしないと駄目なんだろうな。
家に帰りスマホを見るとフラウからメッセージが入ってる。
明後日現地集合だそうで。明日はユズに付き合うし、次が集合日だとマリッカとデートをいつにするか。
夏休みも終わるし忙しいなあ。
夜ご飯を両親と共に食べていると、父さんが話し掛けて来た。
「何か変わったことは無いか?」
ある。今後激変しそうなこと。
今日、運営から持ち掛けられたことを説明することに。
「警察?」
「そう。向こうにも必要ってことで」
「それは大学を出たらか?」
「そうなる」
国家公務員の待遇があるなら、それはそれで良いとは思うそうだ。遊びとは違い治安維持に努めるのであれば、親としても問題は無いと考えるようで。
ただせっかくの学歴が勿体無い、とは思うようだ。優秀な大学を出て警察官程度だと。とは言え警察署長に推薦されている、と伝えると「悪くはない」と少し感心してる。
「まあ、将来のために安定した職に就くならな」
将来はマリッカと結婚が目標だったのに。
「まだどう転ぶか分からないけど、最低限自警団は組織させるみたいだから」
「大翔はそれに入るのか?」
「入って欲しいって言われてる」
「危険じゃないのか?」
向こうの体は壊れても死なない。新しい体になるだけで。
リスクは日本より低い。でも逆恨みで日本に居る時に襲われたら、成す術も無いかもしれない。向こうだからレベル云々で対処できる。こっちじゃ無理。
日本での身分も保証してもらわないと。少なくとも警察官の身分は必要だろう。
そうなると警察学校に通うことも必須になるのか。大卒で十五か月くらいだっけ。肝心要の体力がない。体つくりも必要だ。
助祭になるつもりだったのに、そっちは諦めるしかないのか。
翌日、まずはユズを鍛えるべく出掛けるけど、ホームで電車を待っていると、またもユズから背中を突かれ声が掛かった。
同じ時間に合わせてるな。まあ行き先一緒だし。
「おっはようございますぅ!」
元気だなあ。
「ヒロトさん。今日でレベル十にするんですよね」
「そのつもりです」
「頑張りますね」
昨日みたいにクラゲで麻痺してたら意味がない。きちんと対処するようにと言っておく。
ホームに滑り込み停車した電車に乗り込むと、少し密着してる感じがするんだけど。電車が混雑してるわけでもないのに、腕とか触れてるんだよね。
気にする素振りもなく車窓を見ながら「あのですね」なんて言い出す。
「なんです?」
「仲間に入れてください」
「いや、それをしなくていいように」
「入れてくださいよぉ」
魔法使いは仲間に欲しいと思っていた。でもユズは遠慮したいなあ。
「無理」
「ケチ」




