Sid.81 冒険者はチンピラの如し
緑の玉は支援系魔法らしい。飲み込ませると種類と効能が分かる。
「アクセレリエラって魔法みたいです」
「それって」
「加速ですね」
体に風魔法を纏い速度向上を図るらしい。十秒間だけ加速できるそうで。
反応の鈍い魔法使いには良さそうだけど。どの程度動きを加速できるか、だよね。
「どのくらい加速できるんです?」
「えっと、わかりません」
使ってみないとわからないようで。じゃあ次回、と言うことにしておいた。
次回でレベル十になれば魔法使いなら、誰かが引き取ってくれるでしょ。僕のグループで引き取ればいいのかもしれないけど、レベル上げに付き合う必要があるし。
あと、なんか面倒臭い。もう少し冒険者として自覚してもらわないと。
「僕は教会に行くので」
この言葉でアイナが「ヒロトさん。浮気性です」とか言い出すし。そうなるとユズも「二股なんですね。エロいですぅ」って、何それ。二股はわかるけど、それがなぜエロいに繋がるのか。
ユズとアイナは放置してギルドを出ることに。
背中越しに「浮気王子」とか「エロ股さん」とか聞こえてくる。酷い言いようだ。
ギルドを出ると冒険者数人とすれ違う。装備がしっかりしたベテラン風だ。
一人がよろけて肩をぶつけてきたけど、シカトして進もうとすると腕を掴まれる。
「おいおい、ごめんなさいはないのかよ」
自分からぶつかって来て、なんで謝るのが僕なのさ。
腕を振り払うと「こいつ初心者の癖に生意気」と言い出す。また揉め事。もう勘弁して欲しい。どうして冒険者ってチンピラばっかりなの?
総勢六人。僕を取り囲むように立つと「謝罪は要らねえから金寄越せ」だって。ゆすりたかりの類だったか。
「金か謝罪で許してやるよ」
「金の方が誠意ってのはあるけどな」
醜い。
盾を持つ奴が後方に居て前に剣を持つ奴。槍を持つのが右側に居て、左側には短剣を持つ奴が居る。左右斜め後方に居るのが杖持ち。
前の奴が剣で攻撃しやすいよう、後ろに盾持ちが居るんだろう。
ギルドに入ってスタッフを呼ぶと、またアイナが襲われかねない。仕方ないから自力救済することに。正当防衛だよね。死なせなければ。
勢い振り返り盾を蹴り上げると手から離れ吹っ飛んだ。
続いて右の杖持ちを殴ると、これもまた吹っ飛ぶ。左に旋回しながら盾持ちを蹴り上げ、勢いそのままに左側の杖持ちも蹴る。
これで三人が戦力外だ。
「な、何が?」
「てめえ」
「くそ。何してんだよ」
狼狽える三人だけど一人が気付いたようだ。
「あ、こいつ」
「なんだよ」
「あれだ、レベル五十のバケモン」
正体が知れると「なんで初心者の格好してんだよ」と文句を言うも、それ以上絡もうとしなくなったようだ。
転がる三人に駆け寄り「くっそ。まじでなんなんだよ」だの「チート持ちは他の町へ行けっての」と言い、抱え上げギルドに入って行く。
アイナにケチ付けそうだし、外で暫し様子を窺うことに。
カウンターに向かい少ない魔結晶を放り出し「さっさと換金しろや」なんて言ってる。まだユズも居たようで困惑してるようだ。
「どけ、魔法使い。邪魔だ」
とばっちりを食らうユズが居てアイナが背を向けると「先に換金しろや、クズ受付」って。
腹立ってきたし、アイナを怖がらせてるし。
僕が原因とは言え。
中に入ると気付いたのか「まだ居たのかよ!」と、怯んでるけど、暴言を吐いた奴に近付き首根っこを掴む。逃れようとしても身動きできないみたいだ。
「や、やめろ」
「邪魔とかクズとか、もう少し礼儀正しくできないんですか?」
「わ、悪かったよ」
「腕引き千切ってモンスターの餌にしますよ」
脅すと「こんな奴、構ってられねえ」と言って逃げ出す仲間二人。掴まれてる奴は「ちゃ、ちゃんとするから」と観念したようで。
「アイナさん。スタッフ呼んでください」
「あ、は、はい」
スタッフを呼び出し待機室に連行される四人。ついでに僕も呼ばれるけどね。
待機室に付いてくるユズだけど、隣に並んで立ってるし。何がしたいの?
スタッフは呆れ気味だしなあ。
「ヒロトさん。またですか」
「絡まれるんです」
「その格好ですからね」
レベルに見合う格好をしていれば、絡む奴は確実に減ると言う。でもレベルに見合うって、大袈裟な装備に包まれるってことだし。装備自体に防御効果なんてないし。かすり傷を負わない程度。
ただの虚飾であって見栄でしかないんだよね。その割に金額だけはバカ高い。
僕には用があるなら済ませてきていい、となり解放された。
ギルド内に出るとユズが来て「ヒロトさんに絡むなんてバカ過ぎですぅ」と言って笑ってるし。怖いとか思わなかったのかな。
アイナを見ると少し怖かったみたいで。またフラッシュバックとか起こさないといいんだけど。
「アイナさん。大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「怖かったんじゃ?」
「でも、前よりは。あとヒロトさんがすぐ来てくれたんで」
心強かったそうだ。
アイナの様子を見て問題なさそうと判断。ギルドをあとにすることに。
「教会に行きますから」
「ヒロトさん。あの」
アイナに引き留められ「ちょっと怖かったんです」って言いながら、カウンターに身を乗り出してる。これはキスを求めてるんだろう。
ユズが居るけど、気にもしないのか唇尖らせてるし。
見られてる。ユズに。でもやらざるを得ないようで、近付いて唇を重ね合わせると「ひゃああ。大胆」と顔に手を当てるユズが居た。
済ませるけど今度こそ教会に行かないと。
「じゃあ行きますんで」
「いってらっしゃい」
「シスターともするんですか?」
無視。答えてるときりがない。
教会に行くけどマリッカが見当たらない。どこに?
礼拝堂を進み祭壇の前まで来ると、祭壇横の扉が開きマリッカが出て来た。
「あ、ヒロトさん」
「えっと、今度、教会を出て少し町の散歩とか」
言えた。アイナとデートしたからマリッカとも、なんて考えたんだけど。
笑顔を見せ「本当はいけないのですが」なんて言いつつも「少しでしたら」だそうで。
ああ、そうか。四時間も無人にできないんだよね。他に人が居ないから。
「どのくらい出られますか?」
「一時間程度であれば」
買い物や近隣への治療行為で出ることはあるそうだ。一時間くらいであれば普段から出ていることで問題無いと言う。
次回の約束として一時間ばかり町を散歩することに。
嬉しそうな表情を見せるマリッカだけど、ちょっとだけ後ろ暗さがあるんだよね。いい加減、どちらかに決めた付き合いをした方がいい、そう思うから。
まじで二股状態だし解消した方がいいと理解してる。でも今は難しい。仮にマリッカを選ぶとアイナの落胆に塗れた表情を見そうだし。アイナを選べばマリッカだって祝福しても内心悲しみそうだし。
ああ、なんて優柔不断。
マリッカと軽く抱擁を交わしキスをして教会をあとにする。
毎回見送りに出てきてくれるんだよね。手を振って笑顔で。
古城に行きたいけど残り時間はあまりないな。どうしよう。次回でいいか。今日は余計なことで時間を取られたし。
ギルドに戻りアイナにあいさつして、待機室に入るとスタッフから「二人逃げましたが確保して説教しておきました」だそうで。
四人にも厳重注意を行い次に問題を起こせば永久追放だそうで。
「それとですね」
何やら言い出すスタッフだ。
「警察組織を設立しようかと思いまして」
「え」
「町の治安維持ですよ」
現地の人では取り締まりは不可能。やりたい放題の冒険者を取り締まる機関が必要と判断したらしい。
地球出身者で構成し高い倫理感を持つ人を集めると。
「ヒロトさんにもお願いしたいのですが」
なんで?




