Sid.79 神父になる方法を知った
神父ってのは簡単になれるものじゃなかった。まあ分かってはいたけどね。四年間の学びって何かと思いきや、神学校に通うことらしい。
この世界にも学校はあるようで。貴族や上流階級だけが通う全寮制の学校。庶民が一般常識を身に着けるために通う学校。商人などが通う商学校などがあるようだ。
そして神学校もまたあると言う。
「マリッカさんは通ったんですか?」
「学びは修学院に於いてです。神学校とは異なります」
神学校は男性のみ。修学院は女性のみ。
シスターになるための手段の説明をしてくれる。
一年程度の志願期を過ごし二年間の修練期を過ごし、有期誓願期、即ち修学期で神学を学ぶと終生誓願となりシスターとして、各地の教会に派遣されるそうだ。
マリッカは十五歳でシスターへの道に進んだそうで、トータル四年間の学びを経て一年前にここに来たらしい。
と言うことは二十歳。僕より二つ上。思った通りではあったけど、年上だったわけで。
「あの、ここって神父さんって」
「来た頃はいらっしゃったのですが」
ここに来て三か月後に病死だそうで。以降は代わりの神父や助祭が来ず、マリッカ一人で切り盛りしてるそうだ。
大変そうだ。誰かの助けがあった方がいいよね。
にこっと微笑むマリッカだけど何やら口にする。
「神父にならずとも終生助祭もありますよ」
神父になるには年齢で二十五歳以上であることも条件らしい。助祭は神学校の最終年に聖職位を授ける儀式、叙階を受ければ助祭となるそうだ。
二人で教会を盛り上げていけばいい、と笑顔で言うマリッカが居る。
揺らぐ。途端に気持ちが揺らいでしまった。日本で大学を卒業したいのもある。
両立できるかどうかは不明だし、そもそも全寮制だったりするとなあ。
「神学校って全寮制ですか?」
「そのようです」
大学を出るまで三年半程度はある。その後四年間の神学校。終わる頃には二十六歳だ。
三年半は冒険者と大学生として二拠点生活になる。その後、この世界に軸足を移し四年間で助祭を目指す。助祭になればマリッカと結婚、できるのかなあ。
「あの、八年近くなりますけど、待ってもらえますか?」
首を傾げ「八年ですか?」と。よく分かってないと思うから、日本での大学生活から、ここでの生活までトータルで必要な期間と説明。
「待ちますよ」
神父になることを勧めたのだから、当然、その程度の期間は待つそうだ。
自分としては八年間、マリッカを愛し続けられる、そう思ってはいるけど。でも世の中、何があるか分からないしアイナの件もあるし。
「えっと、もし、もしもですよ」
唇を人差し指で押さえられた。
「アイナさんですね」
頷くと。
「人の心は時と共に移ろうものです」
その時は縁が無かったと諦めるそうで。八年は人によっては長く感じるだろうと。全寮制の学校に通っている間に冷めてしまってもおかしくない。そう考えるそうで。
それでも卒業まで待つというマリッカだ。健気だなあ。
「ちょっと真剣に考えます」
「はい。私はいつでもお待ちしております」
僕が助祭や神父を目指さなければ、マリッカにはシスターをやめてもらう必要がある。せっかく得た資格を放棄させるのも、どうかと思うし。
マリッカも人の役に立ちたい、そんな想いの強さからシスターを目指したのだろうし。僕如きのためにやめてもらうのは割が合わない。
やるしかないのか。日本での生活なんて魅力も無いし。向こうじゃぼっちだし。
親に話をする必要もあるなあ。首を縦に振るとは思えないけど。でも説得する必要があるし。面倒だ。
卒業まで時間はあるから、その間に説得すべく対策を練ろう。
少し長引いてしまった。
急いでギルドに戻るとアイナに「何を話してたんですか?」と聞かれる。ここで時間を食うと日本に戻るのが大幅に遅れてしまう。
「今度来た時に話します」
「え」
「ごめんなさい。今度」
そう言って待機室に駆け込みリコールする、と言うと。
「そんなに急がれなくても」
「でも四時間超えてますし」
「構いませんよ。少しくらい」
フリーパス特典だから気にしなくていいそうだ。ただ、戻った際に猛烈にトイレに行きたくなる可能性があるそうで。漏れないよう対処してあるらしいけど、漏らしたら恥ずかしいなあ。完全に漏らさずに済むわけじゃないとか。オムツをしているわけじゃないから。
「ではリコールします」
「お願いします」
視界が薄暗い小部屋に切り替わり、少しするとスタッフが来て「すぐ外しますね」と言って、繋がれていたケーブル類を外す。
確かにトイレに行きたい。漏れそうだ。
「あの」
「どうぞ。みなさん駆け込まれますからね」
微笑まれてもなあ。
急いで施設のトイレに駆け込む。間に合った。
施設を出て家に帰り翌日、施設に向かうべく電車を待っていると、後方から背中を突かれ声が掛かった。
「こんにちは」
振り向くとユズが居た。
背中を突かれるからビクッとなってしまう。僕の反応を見て笑ってるし。
「今日は森に行くんですよね」
「そうです」
「守ってください」
「そのつもりです」
電車に乗り施設に行くと各々別室へ。現地で合流し森へ向かう。
ギルドを出る際アイナに「昨日、今度って言ってました」とか言うから、戻り次第説明しますと言っておいた。「もう」なんて膨れ気味だったけど、ユズは二時間しか時間が取れないからね。さっさと行ってレベルを上げてしまえば、残り二時間はアイナでもマリッカでも話はできる。
門を抜ける際に「面倒見がいいな」なんてトゥオモさんに言われた。
セヴェリさんも笑いながら「先輩冒険者として風格が出て来たぞ」だって。
街道に出ると肩慣らしだ。
「新しい魔法を試してみましょう」
「あ、うん」
やっぱり団体さんで出現するモンスターだ。
「エルドスピュート!」
連射じゃないじゃん。複数発生し同時発射するタイプだ。発動から発射まで幾らかのタイムラグがある。集団戦にはある程度対処できるけど、咄嗟の際に遅れが出そうな魔法だ。
エルドクロットは連射タイプだから、片っ端から撃ち続ければ済む。エルドスピュートは数が揃うまで発射しない。面倒な魔法だなあ。
それでも一度発射してしまえば、一度に二十匹まで葬れるようだ。
威力もフラムスピュートより二倍増しくらい。かなり強力。
「なんか楽ですぅ」
「まあ、でも欠点もあるし」
欠点を説明し咄嗟の際は他の魔法を使うこと、と言っておいた。頷いていたけど使い分けって面倒だなあ。自分に置き換えると。
森に入ると至る所から音がする。木々の枝を飛び回るコバロルムだ。森の洗礼とでも言えばいいのか。後頭部目掛けてくるからね。
「後ろに気遣ってください」
「後ろ?」
「後頭部を狙うんです」
「分かりましたぁ」
まあ注意はしたけど狙われて避けられないユズだ。僕が手で叩き落とし地面で藻掻くコバロルムに、ユズが止めを刺すと言った形になった。
レベル四だからね。荷が勝つと思う。
「すばしっこいのにヒロトさん、楽に叩き落としてます」
「レベル差が大きいからですよ」
最初来た時は攻撃をしっかり食らった。レベル一で来たからね。無謀としか言えない。
コバロルムの集団を全て処理すると、続いて出てくるのは木のモンスターだ。
「動く木が居るから気を付けてください」
「木が動くんですか?」
「枝を振り回してきます」
で、迂闊なのはユズの仕様なのか、殴られそうになり僕が腕で防ぐ。以前は振り回される腕で大ダメージだったけど、レベル五十だと痛くも痒くも無い。枝を掴んで引っ張ると折れて抜ける有様だし。
「弱い」
「え」
「僕にとって」
「はあ」
凍らせる魔法を試してもらう。




