Sid.78 教会に訪れる冒険者たち
新たにユズが習得した魔法、エルドスピュートは連射が利く炎の槍。フラムスピュートの上位版のようなものらしい。もう一つのフリサンデスピュートは、凍結させる槍の意味を持ち対象を凍らせるようだ。ついでに穿つこともできるらしい。
これまでの魔法より強力なものを得たならば、さっさと森に入ってレベルを上げてしまえばいいか。森ならタコ足蛇とかクラゲで稼げるはず。
結果を受けユズに森で鍛えよう、と言うと。
「危険だって聞きました」
「僕が居るから大丈夫だと思いますよ」
ちょっと躊躇する感じだけど「レベル五十の化け物が一緒なら」なんて言ってるし。化け物じゃないっての。
以前聞いた魔王はレベル八十とか言ってた。今の僕じゃ手も足も出ないでしょ。戦う気はないけど。魔族と争う気も無いし指輪もらってるし。
「じゃあ続きは明後日」
「明日じゃ駄目なんですか?」
そんな毎日なんて、と思ったけど。短期間に育ててしまえば解放されるか。
「じゃあ明日で」
「時間は今日と同じでいいですよね」
「いいですよ」
と言うことでユズが先にリコールした。僕はと言えば教会に行く。
「ヒロトさんはどちらに?」
「教会です」
「そうですか」
なんて言いながら、スタッフがにやにやしてるし。まあスタッフも知ってるわけで。マリッカと懇意にしてるなんてのは。
待機室を出るとアイナが声を掛けてくる。
「ヒロトさん。またデートしたいです」
「えっと、折を見て」
「いつですか? 明日ですか、明後日ですか?」
「いや、だから適切な時期を見計らってです」
急かしてくるなあ。とりあえず一週間後、としておいた。教会へ行くのかと問われ行くと言うと「どっちかに決めてください。待ってるのもつらいんです」だそうで。
確かに、あっちにふらふら、こっちにふらふらは良くないんだろう。
でも、決めるとすればマリッカになると思う。その時にアイナの精神がね。壊れそうで。
ギルドを出て教会に向かい建物に入ると、祭壇前で祈りを捧げる冒険者が居るようだ。少し離れてマリッカがその様子を見ている。
ベテランに見える六人組。真面目に祈ってるのか、欲望のままなのかは分からない。加護を授かれば強くなると思われているし、じゃあ祈って加護をなんて思う奴も多そうだし。
それだと授からないと思うけどね。
礼拝堂を少し進むとマリッカが気付き、会釈され待つよう指示された。
待っているとガヤガヤと声がして、更に冒険者が訪れたようで。マリッカに静かにするようジェスチャーで示されてる。こっちは八人も居るのか。
今日は満員御礼って感じだ。
先に居た冒険者の祈りが終わり、寄進される貨幣を受け取ると「神のご加護がありますように」と言われた冒険者が外に出る。その際に僕と目が合うけど格好を見て鼻で笑ってる。まあ初心者と思われたんだろう。立派な装備に身を包む冒険者とは違うから。
いちいち他人を見て蔑む人に加護は授からないでしょ。自分たちだって初心者の頃があったのに、それをすっかり忘れて強者を気取るってのもね。
マリッカに手招きされ祭壇前に移動する。
「こんにちは、ヒロトさん」
「こんにちは」
祭壇前で跪き祈りを捧げるけど、僕の祈りは正式な奴で少しばかり長い。マリッカ教の信徒だからね。もちろん神様の信徒でもあるけど。感謝の気持ちは忘れてはならない。
祈り終え寄進しようとするけど受け取ってくれない。
「あの、少しは」
首を横に振り次の冒険者を祭壇前に招くマリッカだ。僕にはベンチで待機するよう指示された。
別の冒険者が祈りを捧げるようだけど、今回が初めてのようで指導されてる。
簡易式でも二人ばかりふざけているようで「おお神よ。我に加護を与えたまえぇ」とか言ってるし。笑いながらだからマリッカに注意されてる。
「主の御前です。真剣にお願いいたします」
「そうだった、そうだった」
「ごめんねえ。ついつい悪ふざけしちゃって」
悪びれた様子もない二人だけど、他の仲間に「お前ら少しは真剣に向き合えよ」と言われてるし。お調子者ってのはどこにでも居るけど、場の空気を読めないってのは致命的だ。よくそんな奴と組んでいられるなあ。八人も居れば変な奴も混ざるんだろう。
僕なら絶対に近付きたくないけどね。
居住まいを正し祈るのが三人。何となく合わせてるのが三人。チャラいのが二人。
各々祈りを捧げ終えると「シスターちゃん。これ」と言って、貨幣を渡す二人が居て他の連中は「これを」と言って渡す。
こんな連中を相手にしていても「神のご加護がありますように」と言うしか無いようで。
何かと大変そうだ。三人以外は信仰心なんて欠片もないんだろう。
ぞろぞろと出て行く際にチャラい二人が僕を見てる。
「あれってノービス?」
「初心者装備でレベル五十が居るらしい」
「あいつか?」
「分かんねえけど、見た目で判断するとな」
大怪我するから構わない方がいいなんて言ってるし。気に入らない奴に対して両手足の指を千切って皮剥いだらしいぞ、とも言って「こっわぁ」だって。
気に入らない奴じゃなくて敵意を向けた奴だし。アイナにトラウマ植え付けた奴だし。噂ってのは拡散する間に脚色されるようだ。真実から掛け離れて喧伝されていく。
全員が教会をあとにするとマリッカが傍に来る。
「あの、ヒロトさん。気になさらないように」
「大丈夫ですよ」
「ヒロトさんの行動は全て守るためのことです」
なんとかフォローしてくれてるけど、別に気にしても仕方ないんだよね。日本だと根も葉もないことを拡散する連中に事欠かないし。SNSが人を貶め傷付ける道具になってるし。誹謗中傷が当たり前の世界だ。
何かあれば即座に炎上。手の施しようがなくなる。そこには狂気しかない。
とんでもなく生きづらい世界になった。
まあ、エコーチェンバー現象ってことらしいけど。
似たような意見や思考の持ち主が集まり、結果、先鋭化し排他的となり攻撃性だけが高まる。
多様性からは一番遠い状況になったからね。
滑稽なのは多様性を謳う連中に一番多様性が無いこと。マスコミを筆頭に自己矛盾に気付けないのもね。愚かすぎて哀れになる。
「あの、本当に気にしてないので」
「そうですか。何か考えごとをしていたような」
心配そうに僕を見ていたようだ。
「元の世界より、この世界の方が断然真面なので」
「ではこちらで?」
「そろそろ考えも固まりそうです」
笑顔だ。僕がこの世界で生きることを決めれば、マリッカもアイナも喜ぶのはわかってた。
日本での生活は息苦しい。誰もが自分勝手に振る舞い、誰もが他者を思いやることもない。意見が異なった瞬間に敵だからね。袋叩きに遭う。死ぬまで追い詰めるし。
いずれかのコミュニティに属さないと生きることすら厳しい。そして各コミュニティは常に対立し続ける。極めて高い攻撃性を持って。
だったら、この世界で生きていた方がいい。
僕の手を取り胸元に宛がうマリッカだ。暫しの見つめ合いののちに、唇が重ね合わされ離れると「神父になるには召命を受ける必要があります」と言い出した。
「召命?」
「そうです。主に呼びかけられることです」
「呼びかけ」
「ヒロトさんは問題ありません」
すでに加護を得ていて寵愛も受けている。だから神父になる最初の関門はクリアしているそうだ。
「あとはですね、神学を学んでいただきます」
「やっぱりあるんですね」
「四年間の学びが必須ですが」
何より一番大切なのは「人の役に立つことを至上の喜びにできる人」だそうで。
無理があるかもしれない。確かに人の役に立ちたい、とは思うけど。
一番はマリッカのためだから。




