Sid.77 魔法使いはひどく疲れる
魔法で迎え撃つユズだけど一発しか放たないから効率が悪い。連射もできないのか一発毎の間隔も長めだし。
「ユズさんの魔法って連射できないんですか?」
「えっと……フラムスピュート! でき、イスピュート! ……できないです」
忙しそうに魔法を放つユズに話し掛けると、魔法を放つ合間に返答をしてくる。
話し掛けないでってのが伝わってくるけどね。少しイラっとした感じで視線を寄越すから。
そもそも初心者だし余裕はないだろうし、数が多いから考える暇もないんだろう。
それにしても連射ができないってのも不便だ。僕の魔法は初期から連射ができた。魔法使いは一発の威力はあるけど連射できないのか。
「レベルアップで連射用の魔法を覚えるのかな」
向かってくるモンスターは手で弾きつつ、思わず口にすると「ヒロトさん! なんでそんなに余裕がぁ」なんて言って涙目になってる。
レベルが高いから、としか言いようがない。
暫くして全て倒し切ると地面にへたり込むユズだ。荒い息遣いで肩で呼吸する感じ。ゼイゼイ言ってるからね。
「ひ、ヒロトさん」
「なんですか?」
「もう、レベル、上がったんじゃ、ないですか?」
「そうですね。二つか三つは」
街道に出てくる初心者用のモンスターを倒しても、急激なレベルアップは見込めないでしょ。
とりあえずレベル五になってもらって、森で一気にレベル十まで上げれば、僕はユズから解放される。
「こんだけ、倒して二か、三なんですか?」
「だって雑魚ですよ」
千とか万単位で来れば違うだろうけど。さすがにそんな数で来られたら、初心者は対処不能に陥るだろうし。僕だって対処しきれなくなる。
フィクションだとイベントでスタンピード、なんてのが発生したりするけど。この世界でもあるのだろうか。冒険者や兵士が総出で迎え撃つ。前線に主人公が立つか後方から最強魔法で一気に薙ぎ払うか。
まあ、あの手のは主人公が最初から最強だし、現実にはないだろうね。
「移動しますよ」
「え」
「立ってください」
「お、鬼です」
僕の体は疲れることがほとんど無かった。
ユズは疲れるんだな。そう言えばヴィーラも疲れるみたいだったっけ。
足を引き摺るようにして歩くユズ。町に戻ることも考えると、次の戦闘で引き返す方がいいのか。時間的にもその辺が限界かな。
ずるずる重い足取りのユズが声を掛けてくる。
「ヒロトさん」
「なんですか?」
「レベル五十の化け物ですよね」
まあバレるよね。
「そんなことはどうでもいいんです」
「嘘吐きました」
「言わなくていいこともあると思います」
「でも、強いんで安心はできます」
街道程度ならね。洞窟の下層でも安心、なんて言っていられないと思う。不測の事態もあるだろうし、敵も滅茶苦茶強くなるだろうし。
またモンスターにボコボコにされて、死ぬ思いで帰還することになりそうだ。
ある程度進むと三度大量のモンスターと遭遇。
遭遇率が高いのはユズが居るからかな。僕だけの時はほとんど遭遇しなくなってる。つまり倒せる相手が居ると湧いてくるのかも。
戦闘が終了すると身動きできないみたいで、地べたに大の字になってる。
「疲れましたか?」
「見て、わかり、ますよね」
寝られると時間が勿体無いんだけど。戻る時間も考えると、さっさと移動したいし。
見てると顔だけ上げて「この体って、マネキンみたいです」とか言い出す。
「まあそうですね」
「ヒロトさんのも無いんですか?」
「えっと、無いです」
「エッチできませんね」
健全仕様だから。冒険者同士で如何わしいことはできない。もちろん、この世界の住人ともできない。男は去勢されたようなものだ。
神様によって制限されたんだろう。地球の男に節操は無いと分かってる。
「感触も違うんです」
「そうですか」
「本当にマネキンみたいですよ」
「分かりましたって」
何が言いたいのやら。
「起きてください。町に戻るんで」
「起こしてください」
ああ、面倒な。
仕方なく腕を取り起こすと、しな垂れて抱き着いてくるし。
「自力で立ってください」
「足重い」
「時間が無いんです」
「おんぶしてください」
甘えるな、と言いたいところだけど、レベルが上がるまでは弱いまま。この調子だと戻るのに時間が掛かってしまう。已む無く背負うと「この体じゃなかったらエッチできたんですよね」じゃないっての。この子、そっち方面に興味あり過ぎでしょ。
日本に戻れば僕の相手なんかしないだろうに。
背負いながら歩くと帰路でも遭遇するわけで。
「魔法使ってください」
「フラムスピュート」
一発放って放置してるし。向かってくる敵は多数。
ユズが倒さないと生命力を得られないんだってば。臨時で組んでるだけなんだから。
「ちゃんと戦闘して」
「ヨードスピュートぉ」
「怠けない」
「イスピュートぉ」
駄目だこれは。もう戦う気力がないみたいだし。
仕方なく走る。背中に荷物を背負ってはいても基礎体力は向上してる。そのお陰で重さをあまり感じさせず走ることができた。
向かってくる敵は体当たりで弾き飛ばす。ぶつかっても体勢が崩れないのは、レベル差の問題なんだろう。
町が見えてくるとモンスターとの遭遇もなくなり、自分で歩いてと言って背中から降ろす。
「もう疲れは取れてますよね」
「ありがとうございますぅ」
笑顔で礼を言うけど心が籠ってないよね。
門まで辿り着くとセヴェリさんとトゥオモさんが出迎えてくれる。
「どこまで行ったんだ?」
「街道をひたすら進んでました」
「街道だとモンスターも出ないんじゃないのか?」
「いえ。餌があるので」
餌って何だ、と問われユズと答えると苦笑する二人だった。
そのままギルドに向かうとアイナが「おかえりなさい」と笑顔で出迎えだ。
「レベル上がってそうですか?」
「二つか三つくらいは上がったと思います」
「次は森に行くんですか?」
「レベル五になったらですね」
またあとで、と言って待機室に入りレベルの確認をする。
レベル・インプルーブメント・デバイス、略してLIDを使いユズのレベルを確認すると。
「レベル四ですね。わずか一時間程度でここまでとは」
感心するスタッフだけどユズを見ると「すっごいですぅ」とか言って喜んでる。
スタッフから「何を倒したんですか?」と聞かれ、街道に現れる不定形モンスターと言うと「百や二百を倒さないと、こんなに上がりませんよ」と言われた。
「ヒロトさん鬼なんです」
ユズがそう言うと「ヒロトさんと居ることで大量に発生したのでしょうね」だそうで。
とりあえずレベルアップしたことで、魔法使いはレベル三で魔法を二つ習得できるらしい。僕は十毎なのに魔法使いって三上がれば習得できるんだ。しかも二つも。
「ガチャですよね」
「そうですね。レベルに応じて強力な魔法を得られます」
そのほとんどは攻撃魔法らしい。羨ましい。
ギルド内に移動しアイナにガチャを用意してもらう。
「レベル四ですか」
「まあ、数だけで得た感じです」
「ヒロトさんが鬼でした」
僕を見るアイナだけど「ヒロトさんは優しいですよ」とフォローしてくれてる。
まあ、アイナを鍛えるなんてしないし。愛されてるなら優しくもするし。
ガチャが用意されるとユズが僕を見てる。
「これ、回せばいいんですよね」
「そうです」
「二回できますから」
二回連続して回すと赤い玉と青い玉が出てきた。
「飲み込んでください」
「え、これ飲めるんですか?」
「飲み込んだ瞬間、体に吸収されますよ」
手に取り暫し眺め飲み込むと「なんか覚えたみたいです」と言うユズだ。
「何を覚えたんです?」
「えっとですねえ、エルドスピュートとフリサンデスピュートって」




