Sid.76 女子高生を鍛えることに
早々にユズと遭遇。いや、僕を待っていたらしい。そして見た目の違いに驚いたようで。
「少し背が高くないですか?」
そこはコンプレックスがあって。だって日本では身長百六十五。さすがに小さいから身長くらいは盛りたかった。でも五センチだけ。自分が理想とする百七十欲しかったから。
顔は極端に違いはないはず。イケメンを目指す気はなかったし。
見上げてじろじろ。やめて。
「あの、なんで?」
「昨日から来てるんですけど、いきなり死にました」
「え」
訓練後に町の外に出ると少しして瞬殺されたそうだ。
「仲間どころじゃないんです」
出た途端に倒されて何もできず。
「ジョブは、魔法使い?」
「そうです。前衛って言うのが居ないと、出てすぐ死んじゃいます」
せめてレベルを十くらいにしないと、一人で外も歩けないと言う。
メンバー募集は掲示板に掲げているが、仲間はすぐには集まらず。せいぜいレベル三以内で組む程度だろうから、そうなると始めたばかりの人に限られる。
さっきも一度町の外へ出て、命からがら逃げ帰って来たそうだ。
「魔法の威力はあるんじゃないんですか?」
「そうみたいですけど」
一発放っている間に他のモンスターに倒されるそうで。ボコボコにされて痛いだけで楽しくないと。
レベル一だと体自体も弱いのか。魔法剣士は一応前衛でもあるから、多少のダメージは何とかなってたんだろう。
「お願いですからレベル十くらいまで」
泣きそうな顔で懇願されるとねえ。
スタッフが「ヒロトさん。少し面倒見てあげては」なんて言ってるし。なんかえらい荷物を背負った気分だ。
今日はマリッカとなんて思ってたのに。先日アイナとデートしたから、マリッカともなんて目論んでたのが。
「レベル十でいいんですね?」
「はい。それなら少しは戦えると思うんで」
仕方ない。数が出て来ればすぐレベル十になるだろうし。僕を相手にする際は数で勝負してくるモンスターだし。
それにしても街道のモンスターにすらやられるって。
「じゃあ、まずはその辺で」
「あ、はい! お願いします」
「ヒロトさん。面倒見てあげてくださいね」
押し付けてる。きっとマリッカに文句言われて、根に持ってるんだろう。僕を庇うマリッカから説教食らったから。
ため息を吐きながらギルド内に移動する。後ろからひょこひょこ付いてくるユズだ。実物と相違ない若さを持つアバター。実物より幾らか愛らしさを増してる。ピンクの髪色だし。何でそんな色味なのかと思うけどね。この世界にピンクの髪色の人なんて居ないのに。
ギルド内に入るとアイナと目が合う。
「あ、ヒロトさん……なんでその子と」
「面倒見させられることになったんです」
じろじろユズを見るアイナだけど「まさかヒロトさんの彼女」とか言うから、それは絶対に違うと言っておいた。
日本で彼女なんてできたことはない。こっちに来て初めて二人から好かれたんだから。
「じゃあ少し鍛えて来ますから」
「あの、ヒロトさん」
ユズが何やら聞きたそうだ。
「なんですか?」
「どういう関係なんです?」
凄く親しそうだしアイナの僕を見る目が恋する乙女だ、なんて言ってる。
誰が見ても分かるくらいにアイナは、僕に対して愛情を示してるってことか。
「ヒロトさんはあたしの白馬の王子様なんです」
「え、白馬の?」
ユズが笑いを堪えてるのが分かる。
「勝手にそう思ってるだけなんで」
「ヒロトさん。結婚してくださいね」
「いや、まだ決めて無いんで」
「放っておくと女が群がりそうです」
群がらないって。ユズとは何も無いし現実の僕を知ってる。間違っても惚れることはない。これだけは自信を持って言える。
吹き出しそうになって笑いを堪えるユズだ。真面目な顔で白馬の王子、ってのが相当ウケたようで。
「とにかく、町の外に行きますから」
「あ、はい」
「いってらっしゃい。あたしの王子様」
くっそ。なんかデートしてすっかりその気になってる。
ギルドを出ると「ヒロトさん。本当に結婚するんですか?」なんて言ってるし。白馬の王子様とか笑えるとも言ってるし。
「ちょっと頭の緩い子なんで」
「そんなこと言ったら可哀想ですぅ」
ああ、実に面倒な子と知り合ってしまった。
門を抜ける際にセヴェリさんが「なんだ? 新しいメンバーか?」と聞いてくるから、一時的に面倒見ることになったと言っておいた。
「そうか。まあ、真っ当な子に仕立ててくればな」
トゥオモさんも「ヒロトの教育次第だな」なんて言ってるし。
二人に見送られ町の外に出る。
「門衛の人とも親しいんですね」
「いい人たちですから」
街道を暫し歩くと草が揺れ動く。
「集まって来てますよ」
「え、どこに?」
「右から五匹、斜め右から八匹、左側から三匹、斜め左後ろから六匹」
向かって来る位置と数を言うと、周囲を見回しながら狼狽えるユズが居る。
「心配は要らないです」
蹴ると弾け飛んでしまう。向かって来る奴は手で撥ね除ければいい。
あとはユズが魔法で対処。一人で倒しきれれば自信も得られるだろう。
まずは右の五匹が飛び跳ねて向かって来た。
「わわっ!」
「慌てなくていいんですよ」
まずは一匹ずつ手で払うんだけど、内、三匹は弾けてしまった。
「ちょっと加減が難しいなあ」
「なんですかそれ?」
「え」
「手で弾いただけですよね」
レベル差が極端にあり過ぎるから、街道に出てくる程度の奴は敵じゃない。それだけのこと。
さっさと魔法攻撃してと言って、次々飛び掛かるモンスターを手で弾く。
少し落ち着いたのか魔法を使うユズだ。
「フラムスピュート!」
細い炎の棒が渦を巻いて飛んで行く。エルドクロットとは違うんだ。回転する炎の槍なんだろうけど、威力が低いから細い棒みたいだ。
それでも当たれば吹き飛ぶモンスターだ。
レベル一の時のエルドクロットよりは威力がある。ポンってでるだけの火の玉だったし。
「数が居るから休まず攻撃してください」
「あ、はい」
「後ろからも来てますよ」
総数二十二匹。その内の八匹は僕が倒してしまった。加減が難しい。
少し疲れ気味のユズだけど、先へ行くと言うと付いてくるようだ。
「ヒロトさんってレベル幾つなんですか?」
「言ったと思いますけど」
「三十って言いました」
「そうですね」
ネットの最新情報では初期装備で、レベル五十の化け物が居ると噂になってる。
僕の装備を見て「初心者の装備です」と言ってる。そして強い。受付嬢と仲が良くて門衛とも気さくな間柄。スタッフでさえも一目置く存在。
「ヒロトって名前でした」
同一人物であればレベルは五十あるはずだと。
自分より上位の敵をも叩きのめした。魔族からアイテムを受け取り、神の加護を得た冒険者最強の存在だと言ってる。
「モンスター来てますよ」
「え」
「今日はいつもより多いです」
「あ、あの」
前後左右、あらゆる方向から多数で攻めてくる。それら向かって来る敵を手で弾き、ユズには魔法で攻撃してもらう。
「ひえええ」
「弱音を吐いてる暇はないですよ」
「で、でもぉ」
「全部倒してください」
炎の槍以外にも氷の槍や土の槍を出して、向かって来るモンスターを倒すユズだけど、途中で息切れしたのか「疲れちゃいましたぁ」と言ってる。
僕を見てしゃがみ込みながら「凄いスパルタ」だそうで。
「レベル十なら僕と居ればすぐ達成できますよ」
森に入ればレベルの高い相手も居るし。
でもとりあえずレベル五までは街道沿いで。
「行きますよ」
「え、待ってぇ」
「時間に限りがあるんです」
森の近くまで来ると大量に湧いてくるモンスターだ。一部に森の中で遭遇する奴も混じってる。
「ボーナスステージですよ」
「死んじゃう」




