Sid.75 女子高生とカフェで会話
カフェに行きオーダーを済ませ受け取り、二人席を探し腰を下ろすけど。
対面に座る女子高生はラテをずずっと啜り、身を乗り出し目を輝かせながら「仲間に入れてください」と言ってくる。
女子と初のカフェなのに感動が無い。もっと緊張して期待があってとか、なんかあるかと思っていたけど。現実は斯くも無残だ。まあ恋心を互いに抱いてないからだけどね。ただの異性でしかないし。
目の前で仲間に加えろと迫る女子は、相手がどんな存在なのか考えないのだろうか。
「親切に教えてくれる人なら安心です」
「親切も何も一般論を言っただけですよ」
「でも初対面の相手に忠告してくれました」
初対面だから言いたいことを言えるだけ。どうせその場限りと思えば尚更。なまじ馴染んだ間柄だと遠慮する場合もある。
ああ、そうだ。
「レベル差があり過ぎると上手く行かないんで」
「レベル、ですか。高いんですか?」
「まあ一応」
「幾つです?」
五十、なんて言う気はないけど三十くらいでいいか。
「三十。ノービスはレベル一からスタートするから離れ過ぎてます」
「でも安全に行動できますよね」
「そうですけど、逆に高レベルの人にとっては足枷です」
弱いモンスターを相手に苦戦する初心者が居るとね。結局ほとんどを僕が倒し一匹二匹を残すようにしないとならない。守るための手間が掛かるし旨味は無いし。
僕と居れば確かに早期にレベルは上がるだろうけど。僕は僕で攻略したい場所がある。町の住人レベルの人を連れて行けるわけもないし。
説明するけど聞き入れる気は無いみたいだ。
少々不服そうな女子が背もたれに体を預け僕を見据えると。
「話題になってる人が居るみたいなんです」
「話題?」
「知らないんですか? 短期間で高レベルになったチートが居るって」
僕のことだ。方々で話題にはなってたんだろうけど、現状を広めることはしないって運営は言ってた。少し古い情報でも拡散し続ければ、なかなか収束しないんだろうな。
それにしても、やっぱり加護をチートと解釈してるんだ。
「神の加護持ちが居るって噂ですね」
「そう。それです!」
自分も目指したいと言う。目指してどうなるものでも無いんだけどな。
「圧倒的に強いんですよね」
「らしいです」
「異世界で無双してるって聞きます」
「それはどうかと」
噂は尾ひれがつく。無双するほどに強くない。洞窟だって一階層程度しか攻略してないし。神殿も奥へ進めてない。古城も中ボス倒しただけ。
無双ってのは楽に最奥部まで進んで、無傷で帰還できた場合でしょ。ぼこぼこにされて命からがら町に辿り着いただけだし。
今はリスクの低い場所をうろうろしてるから、怪我も負わずに済んでるだけ。
「伝手は無いんですか?」
「誰のです」
「チートさん」
「無いです」
残念とか言ってるけどチートさんじゃないし。加護なんて偶然得たに過ぎない。向こうでの行動が結果、神の加護を得ることに繋がった。
欲望剥き出しの人じゃ得られるはずもない。言う気はないけどね。言ったら「なんで知ってるのか」となるだろうから。
改めて僕を見て「仲間に入れてくださいよぉ」とか言ってるし。
条件を出すか。少し無理っぽいもので。
「じゃあ、三人集めてグループを組んでください」
「え、三人ですか?」
「そして門衛と武器屋、ギルドと教会の人に受け入れてもらってください」
「あ、あの。それって必要なことなんですか?」
接点の多い人たちにまず受け入れてもらう。話はそれからでしょ。
と言うと。
「受け入れてくれるまでは?」
「グループで活動してください」
「すぐ集まるんですか?」
「難しいですけど数週間くらいで」
なんかぶつぶつ文句言ってそうな。
「それだと仲間になれるのに時間が」
「みんな初期の頃はソロですよ。そのあと仲間ができて活動範囲が広がるんです」
それか友人を誘って一緒に活動するか。
ジョブによってはソロも可能だろうけど。加護を得なかったら僕は何度も死んでたかもね。魔法剣士は弱いジョブだったみたいだし。器用貧乏って奴。剣が扱えて魔法も使えるけど半端。専門のジョブには遠く及ばない。
今は違うけどね。
「チュートリアルみたいに初期だけって駄目ですか?」
また面倒なことを。確かに初期の間は誰かの指導があれば、とは思うけど。
でも自力でやり遂げないと。僕らにとって遊びでも現地の人はそうじゃない。それを感じ取れるかどうか。人に言われて現地の人と表面上付き合えてもね。腹の底で蔑んでいたら意味がない。
「まずは自力で」
「意外と頑固です」
「苦労するから得るものも大きいんですよ」
人との絆。こっちではすっかり薄れてしまったもの。表面上のやり取りだけで深く繋がりを持たない、上っ面だけの友人と言う名の真っ赤な他人。
向こうは違う。まだ人の繋がりが残ってる。不便で危険がゆえに。
助け合わないと生きていけない世界だから。
「頑張ってみてください」
上目遣いで睨んでるけど駄目。
どんな仲間を得るかも見る。人選は慎重にって言ったからね。
「三人ですね」
「そうです」
「じゃあ頑張りますけど」
現地の人と馴染めれば僕と一緒、なんて考えなくなるでしょ。
「条件をクリアしたら仲間にしてくださいね」
「考えておきます」
「じゃなくて約束です」
面倒だ。
「分かりました。僕で良ければ」
「約束ですからね」
「はいはい」
何が良くて僕と組もうと思うのか。
「連絡先の交換したいんです」
「え」
「知らないと報告できません」
「ああ、そう、ですね」
やっぱ面倒。そのまま忘れてくれることを期待してたんだけどな。
これはこれで厄介な相手に絡まれたもので。
「あとですね、現地での名前」
「それも?」
「だって、現地で探せないです」
そうだけど、その方が都合がいいと思ってたから。レベル誤魔化してるから名前からバレる。そして加護持ちってことも。芋づる式でいろいろ。
失敗したなあ。余計なことを口走ったことで面倒なことになった。
「ヒロト」
「え」
「ヒロト」
「あ、はい。ヒロトさんですね」
本名ですか、と問われ本名をそのままと言っておく。なんで、とも聞かれるけど面倒だから、としておいた。
目の前の女子は「ユズって名前で活動します」だそうで。本名が柚葉だからだって。
連絡先の登録名は「柚子」にしておいた。
これで女子の連絡先がゼロから三つに。向こうへ行くようになって女子との接点が増えたなあ。
「ところで高校生ですよね?」
「あ、そうです。三年生です」
「受験勉強とかは?」
「指定校推薦です」
それは結構なことで。僕は推薦を受けず一般選抜だけどね。学力だけは自信があったから実力勝負に出た。
「ヒロトさんは?」
「大学生」
「どこです?」
どこの大学、と必ず聞かれるけど有名な大学だから、堂々と口にすると「凄いですぅ」だって。
勉強しか取り柄が無かったから、せめて大学だけは良いところを選んだだけ。
向こうに行くようになって授業が疎かになりつつある。今後は気合を入れ直して勉学に励まないと。
とりあえず遅くならないよう、今日はこれで切り上げた。
何かあれば連絡して、と言っておく。
女子高生か。春先までは僕も高校生だったけど、すでに遠い過去のものになりつつある。友だち居なかったから何ら感慨に耽ることもない。記憶から消えるのも時間の問題だろう。
今も大学には友だちが居ない。作る気もないけど。向こうの世界に大切な人ができたし、こっちでは不要になってる。
一日置いて異世界に行くとスタッフから「ヒロトさんを指名する初心者が居るのですが」と言われた。
まさか、と思ったら、やっぱり。
「え、ヒロトさんですか?」




