Sid.74 女子と一緒にカフェ利用
町中を暫し歩き回るけどアイナが「服、何とかしませんか?」と言ってきた。
「服?」
「そんなぼろ布じゃなくてですね」
「ぼろ?」
「服を仕立てましょうよ」
金はあるのだから服くらい、デートに相応しいものにして欲しいそうで。
自分の姿を客観的に見れば確かに相応しい、とは言い難い。冒険者の初期装備で飾りっ気も無ければフォーマルでもカジュアルでもない。鼠色の貫頭衣で腰にベルトを通してるだけ。町の住人以下の格好はさすがにみすぼらしい。
「服って売ってるんですか?」
「仕立てるんですよ。それか中古とかです」
既製品は無いんだ。まあでも既製品なんて欧米でも歴史は極めて浅いからなあ。十九世紀頃からミシンと共に本格的に普及したくらいだ。それまでは仕立屋の仕事。
日本はもっと酷い。戦争のせいもあれど普及は二十世紀になってからだし。
それはそうと、一着くらいはあってもいいのか。
「じゃあ作っておきます」
「こっちですよ」
アイナに手を引かれ仕立屋に行くと、まあそうだよね、店員の冷たい視線に迷惑そうな表情。
「どうしたんです?」
店を出たくなった僕を見て不自然さを感じ取ったようで。
「店の人の目が」
「大丈夫です。ヒロトさんなら」
「でも嫌われてますよ」
そう言うとアイナが店員に向かって「あたしはヒロトさんに救われたんです。シスターも門衛の人も」と僕の功績を語ってるようだ。
困惑する感じの店員だけど、アイナのことは知らないわけじゃないのだろう。冒険者が冒険者を叩きのめした、なんてのも広がってはいる。
ため息を吐きつつも「どんな服装を仕立てますか?」となった。
いろいろ注文して一着じゃなく二着仕立てることに。
「気分で使い分けるといいんです」
「あの、アイナさんもどうです?」
まあ、そう言われて喜ばないはずもなく。とは言え遠慮気味。
「い、いえ。半分は自分で払います」
「遠慮要らないです。アイナさんにプレゼントしますから」
満面の笑みだ。可愛らしいなあ。やっぱり女性なんだよ。服を新調できるとなると目が輝くし。
生地を選びデザインを考えてもらい、採寸して一週間後に完成予定。
僕とアイナの分は各々二着ずつで、会計を済ませるけど手持ちは無い。一旦、仕立屋をあとにしギルドに行き、手形を振り出し仕立屋に渡す。
アイナが居ることで信用自体は問題なさそうだ。
全て済むとアイナが「ヒロトさん。凄い使わせちゃいました」と言って、すまなさそうだけど僕だけってのもね。
「幾らでも稼げるんで」
「でも」
「いいんです。迷惑も掛けてるしアイナさんが喜ぶ顔を見たいんで」
抱き着いてきて体感五分のキス。
離れると「ヒロトさんが欲しいです」とか言い出すし。まあ我慢も限界に来てるかもしれない。僕には無いからどうにもならない。
やっぱプラトニックな関係は無理が来るんだろうなあ。いずれの話しとして今はこれで我慢して、と言うしかなかった。
ギルドに戻りアイナと別れを済ませ、リコールして日本に戻った。
そう言えばアイナって歳は幾つなんだろう。聞いたこともなかった。マリッカもだけど。
アイナは年下って感じではある。マリッカは年上って雰囲気があるなあ。
それと名字なんてあるのかどうか。欧米では十五世紀から十六世紀には、庶民も名字持ちが増えていったようだけど。日本は遅れていて明治以降だった。とは言え、名字を名乗る庶民は幾らでも居たらしいし。江戸時代は身分制度により名乗れなかっただけで。
今度聞いてみよう。
バイトをしている時のことだった。
コンビニバイトってのもストレスが溜まるもので。特に高齢者がね。些細なことでキレる。しかもキレ方が異常。抑えの利かない化け物だよね。大声で詰るのだから。しかも執拗で果ての無い文句の嵐。お陰で他のお客にも迷惑になる。そんな相手でも頭を下げ続けるしかないんだから。
いつまでも生きてないで、さっさと死ねばいいのに、と思ってしまうくらい。
その存在自体が社会の迷惑にしかなってないんだよ。
さすがに腹も立つし気が滅入ってくる。
再生不能な産業廃棄物みたいな老人の相手が終わると、高校生くらいの女子がギフトカードを手にカウンターに来た。
凄く若く見えるなあ。老人のあとだと余計に。シワシワの醜く汚い顔と比較して、つるんつるんの肌を持ってるし。
「大変でしたね」
「いつものことですので」
「あの、これを」
ギフトカードを四枚出してくる。しかもバリアブルの奴だ。
金額は最大の五万円を指定してきたけど。
「あの、四枚で二十万円ですが」
「大丈夫です。持ってきてますから」
金持ちだなあ。いや、そうじゃなくて高校生くらいで二十万円?
何に使うのか知らないけど、なんかの詐欺とか虐めに遭ってて、金を要求されていたりとか。疑問を生じつつも会計を済ませる。
財布から現金二十万円を取り出す女子高生だ。
「あの」
「詐欺に遭ってないです。これはビヨンド何とかの代金です」
「え」
「あれ? 知らないんですか?」
よく知ってる。運営だけじゃなく多くのプレイヤーが知らないことも知ってるし。
一回二時間八千円の異世界。二十万あれば二十五回は行けるけど、親はよくそんなの許可したなあ。僕なんて散々交渉して月に三回か四回なのに。今はフリーパスで好きに行けるけど期限はある。期限が来れば費用が発生する。そのためにバイトで稼いでる状態なのに。金銭的に恵まれてると思う。
「いえ、よく知ってますよ」
「ですよねぇ。流行りですし」
異世界に行ってるのか聞かれ、たまに、と答えておいた。
「ビヨンド何とかって楽しいですか?」
「行ったことないんですか?」
「無いです。これから毎日二時間行こうと思ってるので」
毎日って高校生が?
親はどういう教育方針なんだろう。
「苦労も多いですけど楽しいですよ」
「そうなんですね」
「ただ、冒険者は現地の人に嫌われてますから」
「え、なんでですか?」
理由を話すと「それだと当然の報いですよね」だそうだ。自業自得だと言って自分なら親切にするとも言ってる。ただね、仲間次第の面はあると思う。多くは乱暴狼藉ばっかりで慕われる存在は居ないに等しいし。
「仲間は慎重に選んだ方がいいですよ」
僕の目を見る女子高生だけど。
「仲間に入れてください」
「え」
「慣れてそうなんで教えてください」
い、いやいや。初心者と一緒の冒険は無理。レベルが違い過ぎるし。
それと。
「あの、他のお客様が待っているので」
「あ、すみません」
あとで交渉させろ、だそうで。一緒は無理って説明しないと駄目か。
バイトが終われば話もできる、としておいた。
バイトが終わると店長から軽くお小言だ。
「高齢者相手に少しでも言い返したら駄目だからね」
とにかく早く事を収めるためには平身低頭で対処すべし、だそうで。僅かなことでも反論すれば揉めに揉めて収拾がつかなくなるらしい。
反論した覚えは無いんだけどな。モンスタークレーマーに対して、毅然とした態度を取れないから次々湧いてくるんでしょ。
店を出ると律義に待ってたんだ。あれから一時間はあったと思うけど。
「あ、お疲れ様ですぅ」
「えっと、ずっと待ってたんですか?」
「だって、仲間にして欲しいですから」
分からない。なぜ僕なのか。
「どうして僕と」
「ちゃんとアドバイスしてくれました」
アドバイスってほどでもないと思う。
「ここで話をしますか?」
「えっと、どこか落ち着ける場所がいいです」
と言うことで近所のカフェで話をすることに。貴重なバイト代の一部がカフェに消えるけど已む無し。
一緒に店に入りオーダーを済ませ席に着く。
女子と一緒にカフェなんて初だ。




