Sid.69 前回進んだ先で引き返す
神殿内を移動しているとフラウが「気になってたんだけど」と言い出した。
「何がです?」
「ヒロト君の服」
「あ、ああ。これですか」
「どうして?」
お金はあるはずだし初期装備のままが気になるようで。二人は元の装備になってるのに僕は貧相な装備のまま。
買えばいいんだけど、高価な装備も結局は意味がない。防御力が上がるとか魔法を打ち消すとか、そんな効果があるならまだしも。所詮は服でしかないわけで。
金属製のものだってモンスターの力の前には無力。一時凌ぎにすらならない。
「役に立たないのと、神殿くらいなら不要なんで」
僕の言い分に呆れ気味だけど「ヒロト君は確かにねえ」とか「攻撃されないなら、なんでもいいのかな」だそうで。
「武器も要らないの?」
「魔法が強力なんで」
「そうだよねえ。なんでも蛙」
「あ、でも、短剣は二本持ってます」
一応、他の冒険者が落としたものであろう短剣は持ってる。自分が使ってた奴は預けっぱなしだ。邪魔だし使う機会も無さそうだし。そもそも敵が大きくなると、ただの金属でできた剣なんて役に立たない。魔法でも纏ってれば別だけど。
蛙化の魔法は物理法則を無視してる。足場の魔法も原理は不明。本当の意味での魔法と言えるんだろうな。
世の中の理に縛られない。だから物理的な攻撃手段も不要になる。
奥へ進むと扉があり押し開ける。
「ねえ、ヒロト君」
「なんですか?」
「平気でドアを開けてるけど」
「分かってるんで」
広間になっていて杖を持ち魔法を使う石像が居る。
足を踏み入れると大きな炎の塊を放って来るけど、氷の壁で防ぎ蛙化の魔法を使うと、あっさり蛙になってぴょんと跳ねるだけ。
「あのね、氷の壁だけど」
「大きさの調整はたぶんできると思います」
「じゃなくて、壊れてない」
「頑丈になったみたいです」
巨大化する氷の壁だけど強度も増してる。前は一回の攻撃で壊れてた。今は壊れにくいようで一発程度なら完全に防げる。守りが強化されれば攻撃もしやすい。
倒すと広間の奥に扉が出現した。
先に進むべく扉に手を掛け押し開ける。
「この先って」
「僕が死にそうになった相手が居ます」
「え」
「ちょ、ちょっと待って」
何ら躊躇なく扉を開ける僕に対して止める二人だ。でも開けちゃった。
「問題無いです」
「あ、あのね」
「待とうよ、ね?」
さっさと足を踏み入れ二人の手を取り連れ込む。でも入った部屋には何も無いんだよね。ため息を吐く二人だけど、またも正面に扉があり開ける。更にもう一つ扉を開けると。
「強引だよね」
「腰が引けてたんで」
「だって、ヒロト君が死にそうになったって」
「今は大丈夫です」
そこまで怖いのかなあ。
巨大な石像に気付く二人だけど「む、無理だって」と腰が引けるヴィーラと「死んだら責任取って」と言うフラウだ。身長六メートルはあるから見上げる状態。
死なさないし負ける気もしないし。厄介なのは盾や剣を投げてくることと、盾が魔法を完全に防御するくらい。
でも防がせず投げる前に倒せば済む話だ。
入って来た際の扉が閉じると驚いたようで「ヒロト! 死んだら恨むよ」って、死なせる気は無いんだってば。
「フロギフィエリン」
これもどこまで通じるか試す。あれに通じるなら面倒な手間は一切無いし。駄目ならスタートヴォーグで体勢を崩し、ジーベンスとエルドクロットを叩き込むだけ。
指先が仄かに光るエフェクト。そして靄に包まれる巨大石像。
「え、通じるの?」
「あんなに大きいのに」
「まだ分かりません」
しっかり靄に包まれる石像だけど微動だにしない感じだ。
靄が晴れると巨大な石像の姿はない。代わりにウシガエルみたいな奴が居た。
「え、えぇ?」
「またぁ?」
少し時間は掛かったようだけど、ちゃんと蛙になったようだ。
相手のサイズも影響しないようで。そして無機物か有機物も関係しない。指定したものを全て蛙にする魔法のようだ。
無茶苦茶な魔法だと思うけど、たぶん自分より上位の存在には効果がないと思う。
「じゃあ精霊を召喚してください」
「あ、う、うん」
またもノームを呼び出し叩き潰される蛙だ。哀れだ。一度は僕を追い詰めた石像だったのに、無力な蛙になってしまうなんて。
大きな魔結晶を回収すると、石像の居た場所の奥にまた扉が出現した。
フラウとヴィーラに聞いてみよう。
「ここから先は僕も知りません」
行くか戻るか問うと。
「もう充分だと思う」
「ここまで前は一人で来たんでしょ」
「そうです」
「怖いもの知らずだよね」
もう少し進みたかったけど二人には荷が重いようだ。フラウは回復職だしヴィーラは精霊召喚がメインだし。僕のような魔法を持ってない。だから尻込みするんだろうな。
手持ちの少ない魔法でも極めて強力。だから無理して進めるのはあるんだろう。二人にはそれが無いし。
「じゃあ戻ります」
ほっとした感じだ。
戻れば二人のレベルも上がってると思う。マサとは差が広がるけど已む無しかな。マサが再開できたら二人で攻略すればいい。
広間を出て三つの扉を抜けて杖持ちの石像が居た部屋を抜ける。
「もう出て来ないの?」
「次から出てきます」
「まだ出るんだ」
前回はそれで戻るのに苦労した。今は楽勝過ぎて、あの時の苦労を忘れそうだ。
「血を吐きながら戻ったんです」
「え」
「前回来た時は」
「なんか、ヒロトって」
もしかしてマゾなのかと言われるけど、マゾじゃないし痛いのは嫌だし。手痛い攻撃を食らって内臓を破壊され骨折もあったと思う。
今さらながらに良く戻れたもので。しかも歩いて町に帰ったわけだし。
その根性は日本じゃ発揮されないんだよね。発揮できればどこでも通用しそうな気もする。
環境要因ってのも大きいかもしれない。日本なら逃げることも助けてくれる人も居る。こっちには助けに来る人は居ない。逃げるも何も動けなければそれまで。
たぶん甘えが出ちゃうんだろう。
石像が本来なら三体出現する場所に十体。蛙にして止めはヴィーラに任せ、カマドウマも蛙にしてヴィーラの精霊任せ。
そして外に出ると日が傾き始めてる。
「どのくらい中に居たのかな」
「一時間くらいです」
「それだけ?」
「もっと長く居た気がしたけど」
巨大石像の居た広間までの往復だからね。しかもノーダメージだし。前回は歩くのもしんどかった。眩暈に吐き気まであったから。
フラウが居る時なら多少の怪我をしても、回復してもらえるから少しのリスクがあっても、とは思う。まあ無理はしたくないみたいだけどね。
来た道を戻るべく町へ向かって歩く。
後ろを歩く二人だけど「ヒロトって頼りになるよね」なんて言うヴィーラだ。
「日本でも頼り甲斐があれば、もっと良かったんだけど」
「そうだよねえ。見た目が頼りなさげで」
すみませんね。向こうの僕は頼り甲斐が皆無。だからモテないし付き合った経験すらない。
この世界に来て力を得てマリッカやアイナに好かれた。
好かれると嬉しいし楽しいのも分かる。
「でもね、ヒロト君は日本でも頼れると思う」
「え? なんでそう思ったの?」
「勘?」
「勘って、根拠薄弱でしょ」
フラウは本気で言ってるのだろうか。前にも言ってたけど、自分が若ければ好きになったかも、なんて。その言葉を信じるわけじゃないし、浮かれもしないけどね。
ヴィーラが思うように好かれる根拠がない。
後ろで僕をネタに会話を交わす二人だけど、聞こえるように話すから僕の反応を面白がってるのかも。
「ヒロト君」
「なんですか?」
「こっちの経験を活かすといいと思う」
そうかなあ。異質すぎて経験を活かす場は無いような気も。
「どこでも同じだよ」
一所懸命であれば、だそうだ。




