Sid.68 二人の仲間と神殿攻略に
加護を上回る恩恵を得られるのが寵愛。だと思う。マリッカはそこまで説明してないから、勝手にそう思うことにした。急激なレベル上昇がそうなんだろうって。
二人とも僕に対して異世界に馴染み過ぎ、と感じるそうだ。
フラウが歩きながら「ゲームみたいな世界だけど現実なんでしょ?」と言ってる。そうです、と答えると考え込んでるみたいな。
前も何か考え込む感じだった。悩みでもあるのだろうか。まあ悩みの無い人なんて居ないとは思うけど。
「ねえ、神殿って遠いの?」
「えっと、歩くと一時間くらいです」
「遠いね」
前回は馬車に乗ろうと思って結局、乗客の反応を見て諦めた。フラウとかヴィーラでも拒絶するんだろうな。冒険者はとにかく嫌われてるから。
「ジョギングペースなら三十分ですけど」
「走れないって」
「あたしも無理だから」
後衛職に体力を期待するのは間違いだった。
「馬車もあるんですけど」
「乗れば楽できるよね」
「乗客に拒絶されます」
僕の言葉に肩を落とす二人だ。口々に冒険者で一括りってのも納得いかない、と言ってるけど仕方ないと思う。
それだけ横暴な冒険者が多いことの裏返しだから。悪いのは現地に馴染もうとしない冒険者。住人を尊重せず好き放題暴れればね、悪感情しか抱かれないでしょ。
日本も似たような経験をしてるんだけど。インバウンド推進が結果、各地でトラブルを起こしてる。あれだって全員がトラブルを起こすわけじゃない。でも感情はそうならないわけで。一括りで来るなってなる。
そうならないように郷に入ればじゃないけど、ある程度は尊重しないと。
「ヒロト君でも乗れないの?」
「乗れないですよ」
「じゃあ仕方ないのかなあ」
現地の人に好かれてる僕ですら忌避されるのか、なんて言ってるけど、好意を持ってる人の数なんて両手分程度だし。町の住人の過半数まで至れば、もう少し態度も異なってくると思う。今は無理でしょ。
街道をだらだらと進み途中で遭遇するモンスターは蹴りで排除。
「ヒロト君。凶暴」
「えっと、剣とか魔法が要らない相手なんで」
「強くなり過ぎてるのかな」
街道を逸れて神殿に向かう道を進むと、遺跡の如き大きな建造物が視界に入る。
「あれが神殿?」
「そうです」
神殿の傍まで来るとヴィーラが「なんか古代遺跡みたい」って感心してる。
僕もそう思った。エジプトの古代神殿みたいだし。
「本当に神殿って感じだね」
「どこか外国の古代遺跡みたい」
ルクソール神殿が近いと思う。
「観光地だったら良かったのに」
「中はモンスターが居るんで観光は無理ですね」
「不思議」
「何がです?」
なぜモンスターなんてのが居るのかと、フラウは思うようだ。
確かに野生動物とは違うし生命体なのか、ただの人間に対する悪意なのか、正体不明な存在が多数居る。
倒せば消えるし石を残す。石からはエネルギーを取り出せる。人がそれを活用することで、文明的な生活をすることも可能だ。
モンスターって何だろう。
「ねえ、中のモンスターって強いんでしょ」
「ヒロトが居るから大丈夫だとは思うけど」
「訳分からない内に死ぬのは嫌だからね」
「守れる範囲で守ります」
神殿の入り口は一か所。進むと見上げる二人だ。漏れ出てくる感想は外側と内側の建物が違う、だそうで。
確かに。
外側に見える部分はルクソール神殿風だけど、内側の建物はルクソール神殿じゃなく、セゴビアのアルカサルみたいだし。前に来た時はそんな感想は抱かなかったな。
「ここって、元々人が住んでたのかな」
「たぶん住んでたと思います」
「モンスターが占拠しちゃったってこと?」
「この前行った城も同じだと思うんですが」
元々は人が住んでいたけど、モンスターに排除されたみたいだし。
この世界の人類史はモンスターとの、壮絶な戦いの歴史だったんだろう。守りを固め安全に生活できるよう手を尽くす。それでも追い出され新たな地に町を作る。その繰り返しなのかも。
ずっと安全に暮らせる場所を求め続けてる。だから住人同士で争っていられない。一致団結し脅威を排除しないとならないから。
冒険者はモンスターを狩る側だけど、決して好意的な存在じゃなかった。
住人にしてみれば脅威の数が増えただけ。僕らなんて歓迎できるはずもないよね。
一つしかない入り口から中へ足を踏み入れる。
僕が先頭で続いてフラウとヴィーラ。一列に並ばず三角形の陣形とも言えない陣形。
人数が少ないから仕方ない。
「広いね」
「そんなに暗くはないみたい」
「ここはそうですね」
少し進むと出てくるよね。獅子頭のカマドウマ。
「なんか」
「気色悪い」
一匹だけじゃなく十五匹も出て来た。聖霊召喚で対処しても厳しそうだし。そもそも精霊に倒せるのかどうかも不明。
「数が」
「ヒロト君と一緒だと数が」
「ちょっと多いんで僕が対処します」
蛙化で試してみよう。どのくらいまで一度に蛙にできるのか。
「フロギフィエリン!」
対象を全体として定め指先でモンスターをなぞるように指す。気付かなかったけど、指を動かすと仄かに指先が発光し、指の動きに沿って残光を残す。
こんな視覚効果があったんだ。
後ろで二人が「新しい魔法だね」とか「煩いとか熱いのはちょっと」なんて言ってるし。音は無いし熱も発しない。
十五匹居た獅子頭のカマドウマが全て白い靄に包まれる。
「ねえ、その魔法って」
「効果は?」
「見ていれば分かります」
十五匹居ても問題無いみたいだ。
少しして靄が晴れるとヒキガエルみたいなのが十五匹。
「ええぇ!」
「なんで?」
蛙になってる、と言って驚く二人だ。
「ヒロト君が魔女になった」
「魔女じゃないでしょ。魔男?」
「あの、読み方が違います。魔男ですし、男性は魔術師が一般的です」
「そうだっけ」
魔男なんて普及して無いから誰もそうは呼ばない。たぶんほとんどの人に通じないでしょ。
二人が抱いた魔法の印象はやっぱり魔女の使う魔法。僕もそう思ったくらいだし。
蛙化したモンスターなら精霊にも倒せるだろうから、ヴィーラに召喚させてみるけど。
「なんか可哀想」
「今は蛙でもモンスターですよ」
「だよねえ」
サラマンドラを召喚し十匹倒すと消える。残りの四匹を極小のエルドクロットで撃ち抜く。
「なんで一匹残したの?」
「元に戻るのか、そのままか確認したいんで」
五分くらい呑気に見ていたけど、戻る気配が無いからヴィーラの精霊で潰す。ノームを召喚してた。相手は蛙だし。攻撃力が低くても問題無いみたいだ。
五分じゃ元には戻らなかった。時間のある時に検証しておきたいな。
暫しの休憩状態だったけど先へ進むことに。
真っ直ぐ進むと槍を手にした石像が居る。ただし三体じゃなく十体。なんか僕のレベルが上がると数が増える。
「モンスターって?」
「あの石像が向かってきます」
「え」
槍をこっちに向け動き出す十体の石像だけど。
「フロギフィエリン」
とりあえず試してみて駄目なら別の魔法で。
靄が石像を包むと動きが止まってるようだ。
「あの、ヒロト君?」
「さっきの魔法?」
「蛙化ですけど効果は不明です」
靄が晴れると石像も蛙になるんだ。無機物でも生物になるって不思議だよね。
十匹の蛙がゲコゲコ鳴きながら広間内を跳ねて移動してる。
「あの、精霊召喚で」
「あ、うん。サラマンドラ!」
炎の精霊による焼き蛙だなあ。しっかり焼けると床に吸い込まれるように消える。
香ばしい匂いが立つわけでもない。蛙の姿をしていても石像だし。
「なんか、ヒロトが居ると緊張感が薄れる」
「そうね。簡単に倒しちゃうから」
「前に来た時は死にそうになりました」
「想像できないけど。今の姿を見ちゃうとね」




