Sid.67 神の寵愛を受けたらしい
唯一無二って大袈裟な気もしないでもない。
マサたちと行動する前はソロだった。だからレベルの上昇も早かった、そう思っていたけど。マリッカは違うと言う。
「どうして分かるんです?」
「天啓です」
ああ、そう言えば。でもそれって、ぼんやりした映像で見えるって言ってた気が。
具体的過ぎるから聞いてみると。
「ヴィヴロスに記述がありました」
「えっと、ヴィ?」
この世界の聖書だそうで。先日、聖書を開くと空白だったページに、僕に関しての記述が成されていたらしい。神って直接教えてくれるの? そもそも聖書って人が書いたものじゃなかったの?
なんか逆に疑問が増えてしまった。
「今は消えてしまいました」
「え、なんでです?」
「主は伝えるべきことを伝えると記録を消去します」
聖書自体は人が神の意思に従い記述したもの。神の言葉は人に伝えるべく石や紙に刻まれる。その神の言葉を書き写したそうで。写し終えると刻まれた言葉は消えてしまう。僕に対しての言葉も同様、マリッカが書き写すと消失したらしい。
この世界の神様って至れり尽くせりだ。面倒見がいいんだね。
「すでにヒロトさんは主の寵愛を受けていることでしょう」
そうなのかなあ。まだ寵愛を受けるには足りないと思うけど。町の人の多くは僕ですら嫌ってるだろうし。馬車にも乗れない状態だよ。同じ場所に居ることさえ嫌がるんだから。
でも、もし寵愛を受けたのであれば、この世界で生を受けるってことだよね。少し安易だけど日本では仮の肉体を得ることも。そうなると二拠点生活も可能になるわけで。
思わずマリッカを見つめてしまう。
頬を赤らめ伏し目がちに「ヒロトさん。愛しています」と口にした。直接その言葉を口にしたのは初めてだと思う。僕は全く口にできないけど。恥ずかし過ぎて。
「ヒロトさんは結論を急がなくて良いのですよ」
確かにまだ少し迷ってる。でも、日本で生きていくより、この世界でなんて思っても居る。マリッカが居てアイナが居る。やっぱり二人のことは好きだ。マリッカは特別だけどね。
日本に居たら、こんな感情は誰にも持たなかったかもしれない。恋愛感情を持っても無駄だし。どうせ相手にされないんだから。
「あの、マリッカさん」
「はい」
「えっと、す、好きです」
「はい」
そう言うと満面の笑みを浮かべ「確かに伝わってきます。ヒロトさんの気持ちが」と言って、目の前に立つと腕を背中に回し、体を寄せ見上げてくる。
体感五分のキス。離れると「シスターを辞職しないとなりません」って、以前も言ってた気がする。
「やめないと駄目なんですか?」
「シスターは禁欲ですよ」
婚姻をするのであれば辞職。基本は恋をすることも禁止。今は神も大目に見てくれているらしい。僕を導くために必要だそうで。
本当にやめる必要があるんだ。できれば続けていて欲しいと思うけど。
ただし裏技もあるそうで。
「ヒロトさんが神父になれば良いのです」
「え。神父って」
「ここの神父ですよ」
神父とシスターの婚姻は認められている。そうしないと教会の維持ができないこともあるからだそうで。子々孫々受け継ぐのもありらしい。
他の教会から派遣されることもあるそうだけど、町に馴染んだ存在の方が良いそうだ。
そんな手段もあるのか。
あ、そろそろ戻らないと。
「あの」
「はい、いつでもいらしてくださいね」
教会の敷地内まで見送られギルドに戻るけど、もっと一緒に居たいと思う自分が居る。
ギルドに入るとアイナと視線が合う。嬉しそうだ。カウンターに向かい前に立つと「今日はどこに行ってたんですか」と聞かれ、別の町にと言うと「どの町ですか?」と聞かれるけど分からない。
「えっと、街道をずっと進んだ先の最初の町」
「ああ、でしたらテューネスですね」
テューネスって言うのか。
「受付の人と仲良くなったんですか?」
「え、なんでです」
「だって、ヒロトさんですよ」
「何もないです」
仲良くならないってば。好かれてもいないし。
なんか疑いの眼差しで見られてる。
「ないですよ」
「そうですか。今はそういうことにしておきます」
「いや、あのまじで」
「大丈夫です。少しの浮気は許すので」
そうじゃないんだけどなあ。これ、マリッカと結婚したらどうなるんだろう。自分を選んでくれなかったから死ぬ、とか言い出しかねないかも。
すっかり僕に依存してる状態だし。何とかしないとなあ。
「ヒロトさん、町で何してたんですか?」
「町では何も。近くの廃墟に行ったんで」
「あ、そう言えばありましたね」
強力なモンスターじゃなかったのかと。弱かった。いや、僕のレベルが上がり過ぎただけだ。だから弱いわけじゃないんだろう。
でも何の苦もなく魔法を試す余裕すらあった。
「わかりました。ヒロトさんはいつものヒロトさんです」
一人でバッタバッタと薙ぎ倒して、受付嬢に驚かれたんだろうって。そして好かれて鼻の下を伸ばしたんだ、とか言い出すし。
それは違う。伸ばす鼻の下は無い。伸びないし。容姿の印象すらない。
「本当に何も無いですから」
「じゃあ一応信じますけど」
疑い深くなってる。
「じゃあ帰りますから」
「もう、ですか」
「時間が無いんです」
「今度はあたしの家に来てくださいね」
約束させられてキスもされ待機室へ。
リコールして自宅に帰ると母さんへの報告と会話。心配なんだろうけど。精神的な面で。
話が終わり夜ご飯も済むと部屋に戻る。
スマホにメッセージが入ってる。見るとフラウとヴィーラだ。用件は何かと思ったら四日後に僕を仮のリーダーとして、向こうへ行こうと言う誘いだった。
マサが当面参加できないからだ。僕にリーダーが務まるとは思えないけど、お試しってことだし。
四日後、アーススパイアホールに行くと、入り口で待ち構える二人が居た。
手を振って招いてるから傍まで行く。
「ヒロト君。今日は臨時リーダー」
「頑張ってね」
三人で個室に向かうけど僕だけフリーパス。羨ましがられたけど「他の人とは違うよね」なんて言ってた。
三人が分かれ各々個室に入りソウルシフトすると、いつもの待機室に視界が切り替わる。
フラウとヴィーラも近くに居て合流しギルド内へ。
「見てるよ」
「愛されてるね」
先に済ませてしまえ、と言って背中を押される。
アイナが笑顔で「今日来れるんですか?」なんて言ってるから、今日は無理と言うと「冒険者の女性がいいんですね」なんて言うし。それは無い。本当の姿を知る二人とは年齢差もあるし僕を相手にすることはない。僕は日本じゃモテないんだよ。
心配は要らないし、ただの冒険者仲間だからと言っておく。
納得したのかしてないのか。でも笑顔で送り出してくれた。
ギルドから出ると「どこに行くの?」と問われる。
考えてなかった。古城は二人には無理だろうし、洞窟はマップを作り直す必要がある。神殿なら行けるかもしれない。
「街道沿いに神殿があるんで」
「この人数で行くの?」
「僕が居れば」
「さすがリーダー」
じゃなくてレベル五十だし。神殿に出てくるモンスターも敵じゃないでしょ。
蛙化の魔法なら周囲に影響もない。耳が痛いとか熱すぎるとか吹き飛ばされる心配もないし。
門まで向かうと「一人どうした?」とトゥオモさんに聞かれ「少し休息中です」と言っておいた。セヴェリさんには「どこに行くんだ?」と聞かれ神殿、と言うと「今のヒロトなら問題なさそうだな」だって。
門を抜け街道を進むとフラウが「レベル上がったの?」と聞いてきた。
「五十です」
互いに顔を見合わせ呆気に取られる二人だ。
「ヒロト君って」
「それも神の加護って奴?」
「寵愛らしいです」




