Sid.66 急激なレベル上昇の疑問
当座預金口座を開設し一部を受け取り残りは預ける。古城に現れるモンスターは弱いから装備は今のままでいいし。敵の攻撃なんて掠りもしない。
とりあえず今日は自分の活動拠点に戻るか、それともここでリコールするか。でも、マリッカには会っておきたいから戻ろう。
帰りも一時間程度は歩くことになるのか。馬車。無理に乗れば乗れる。でも物凄く嫌がられるから今は諦めた方がいい。
なんか受付嬢が見てる。
「あの、ここでリコールしないんですか?」
「元の町に用があるんで」
「そうですか。ここでリコールしておけば次から楽ですよ」
知ってるけど、それは次の機会に。リコールした町なら以降は入町税も不要になることもね。でも今日はいい。
受付嬢に軽く頭を下げギルドを出て、町を出る際に門衛が「馬車は使わないのか?」なんて聞いてくる。
「嫌われてますから」
「まあ、そうなんだが」
「無理に乗ると迷惑ですよね」
「そうだがなあ」
ほんの少し会話を交わしただけで、それでも実直さを垣間見れたそうで。
「他の冒険者とは違うな」
「たまに言われます」
「言葉遣いにしても律義に税を払うのもそうだ」
見下される感じも無い。むしろ対等か下手すれば僕の方が腰が低い。悪い奴じゃないんだろうと言ってる。
セヴェリさんやトゥオモさんと同じ感想だ。その後は打ち解けて気さくな付き合いになった。門衛って多くの人を見てるから見抜く目もあるんだろう。悪人を簡単に通せば町の治安に影響するし。治安を考えれば冒険者なんて通したくないんだろう。でも通さざるを得ない。不愉快だったんだろうなあ。
「いずれ馴染めたら利用させてもらいます」
「そうか。まあ道中危険はないと思うが」
「では、また来ますので」
「あ、ああ」
門衛に見送られ町をあとにし歩く。
街道を進むけど歩きはやはり遅い。体は疲れにくいから走ればもっと早く着くかも。
走ってみよう。
ジョギング程度なら馬車と同じくらいの時間で着くはずだし。
駆け出し一定のリズムで走ること二十五分。現時点で活動拠点の町であるランシ・ヤールヴィの城壁が見えて来た。
途中でモンスターを見かけたけど全部無視。街道に出現するモンスターなんて、相手にしても時間の無駄だし。ただの虐殺にしかならないし。
門の傍まで来るとセヴェリさんとトゥオモさんが気付いたようだ。
「どこまで行ってたんだ?」
「えっと、この先にある町までです」
「歩いてか?」
「そうです」
馬車を使えばいいじゃないか、なんて言ってるけど。乗客が嫌がるから乗りたくない。走れば馬車より早いのも分かったし。疲れもほとんどないから、今後は自力で走った方がいい。
「ヒロトなら道中の安全も盤石になるだろ」
「でも乗客が嫌がります」
「そうでも無いと思うんだがなあ」
「まあ、あれだ、そう思うならもっと宣伝しておく」
僕は他の冒険者と違い町の住人を助けてくれるし、横暴な冒険者を叩きのめした実績もあると。
好意からだろうから、やめて、とは言わないでおこう。
「今日は戻るのか?」
「教会に寄ってからです」
「そうかそうか」
「さっさと付き合っちまえよ」
笑いながら、そんなことを口にする二人だ。
以前は手を出すな、と言ってたのにこの変わりよう。それだけ信頼してくれたんだろうけど。
時間が無いのでと言って町に入り教会へ向かう。
教会に着くと先客が居る。また暴言とか勝手な連れ出しとか無ければいいけど。
入り口で様子を窺うとマリッカが気付いたようだ。手招きしてるから傍に行く。
「こんにちはヒロトさん」
「こんにちは」
「少し待っていてくださいね」
祈りを捧げてるのはベテラン風ではないなあ。むしろ装備が初期のものだ。つまりはノービスかもしれない。今の僕も初期装備だけどね。
まあ、ノービス程度なら無謀なことはしないか。
祈りを終えたようで立ち上がり僕と目が合う。一人が「お待たせ。どうぞ」なんて言ってる。
「じゃあ失礼しますね」
「あ、君もノービス?」
「えっと」
アドバンス・スカラーAとは言いにくいな。でもマリッカが「レベル三十五ですよ」とか言い出すし。
「あの、今はレベル五十に」
驚くマリッカだけど「ヒロトさんですから」と言って微笑んでるし。
そうなるとノービス連中が「まじで?」だの「なんでそんな格好」とか「レベル五十って無茶苦茶じゃん」とか言って驚いてる。
少し憧れの目で見られてるような。一人が感心したような口調で話し掛けてきた。
「凄いですね。どのくらいやってるんですか?」
半年くらいかなあ。普通なら半年程度で五十にはならないらしいけど。月に十回来ても二年は必要だろうと言われてる。
正直に言ってもいいんだろうけど。
「月に三回か四回で半年程度ですよ」
マリッカがなんか自慢げに言い出すし。そうなると「どうしてそんな早く」となるよねえ。
「神の加護を授かったからですよ」
「え、神の加護?」
「それって何?」
まあ、興味を抱くと訥々と説明し出すマリッカだ。
とりあえず真面目に聞く面々だけど、僕を見てマリッカを見て「付き合ってるんだ」なんて言ってるし。付き合ってると言うか、まあ、あれだよね。
すでに恋人みたいな。
「この世界の人を愛し愛されることで加護を授かるのです」
残念なことに多くの冒険者は、この世界の人を愛せませんと。だから加護を授かれない。欲があっても駄目。
僕が聞いた内容を話すマリッカだ。新人の内に教育してしまえば、横暴な冒険者にならずに済むと考えたんだろう。そうなれば暴れることも無くなるだろうし。
「善行を積み上げてくださいね」
「がんばります!」
まあ、まだ素直な方なんだろう。中身は高校生くらいかな。大人は駄目だ。考え方が固まってるから誰が何を言っても改まらない。それに欲も強い。加護なんて授かるはずも無いし神もそこまで甘くないよね。
僕はたまたま運が良かったんだろう。
新人グループが教会を出て行くと「ヒロトさん、いつの間にレベル五十に」なんて言ってる。
「この前、来た時の帰りに確認したんです」
「そうだったんですね」
「それでですね、急に十五も上がるものなんですか?」
モンスターの大量虐殺をしたわけじゃない。敵対して来た冒険者を倒しただけで。
だから疑問があった。
「主が必要と認めたのです」
「え」
「ヒロトさんが町の人を守るからこそ」
神は必要な力を与えたのだと。住人の守護者足れと言うことらしい。
事実かどうかは分からないけど、神もまた期待していると考えるそうだ。
「新しい魔法も覚えたのですよね」
「えっと二つですけど」
「役に立っていますか?」
「工夫次第で一つと役立つのが一つでした」
マリッカ曰く、魔法の威力は本来増すことは無いと言う。僕は覚えられる魔法の種類が少ない。だから一つの魔法が成長し続ける。
「他の冒険者は多種多様な魔法を覚えます」
威力も増さず成長もしない。だから状況に応じて使い分け、敵のレベルに応じた魔法が必要になる。結果、多くの魔法を会得する。僕の場合は特殊な事例だろうと。それも神が与えた力なのだと言う。
「あの、でも、他にも魔法剣士って」
「居るでしょう。ですがヒロトさんのような成長は無いです」
もし僕のような力を発揮できるならば、こぞって魔法剣士を選択するはずだそうで。しかし魔法剣士を選択する人は極めて少ない。初期段階での弱さや魔法の覚え難さ。剣のスキルすらも覚えない。本来は半端で弱いジョブなのだそうだ。
神の加護は様々に作用し唯一無二の存在になった。
「レベル以上の強さもそうです」
低いレベルで上位のモンスターや冒険者を相手にできる。
神の奇跡だって。




