Sid.60 母親にも事の顛末を説明
電車が来て乗車し揺られること暫し。
互いに無言だけど時々フラウの視線を感じる。僕より七つくらい上のお姉さん。もう少し若ければ惚れたかもとか、さすがにそれは無いでしょ。二十歳くらいだったらとか考えてもねえ。
向こうの僕は確かに強い部類だとは思う。だからアイナやマリッカに好意を寄せられた。
でもこっちの僕は成績以外に取り柄の無い凡人。体力も並みレベルだしスポーツは不得意。趣味も結局、今なお勉強くらいしかない。
異世界に行くのが趣味、と言えるのかどうか。
「あの、また今度」
「またね。あとね、今回のことはヒロト君が悪いわけじゃないから」
気にせずマサが回復次第、声を掛ければいいと言われ下車した。
車窓から手を振るフラウが居て、軽く会釈しておく僕だ。
気にするなと言われても、巻き込んだ責任って無いのかな。マサには復帰次第、謝っておかないと。
帰宅すると「少し遅いみたいだけど」と母さんに言われる。
「ちょっとトラブルがあって」
「何?」
「向こうで揉めた」
「喧嘩?」
まあ喧嘩と言えば喧嘩か。実態は殺し合いだけどね。殺伐とし過ぎて事実を言いにくい。総勢十三人を葬った、なんて言えないし。ついでに自分も死んだとか。
どう言い繕うか考えても事実から離れた回答は良くない。
「絡まれて行き過ぎた結果になった」
「行き過ぎたって、怪我させたの?」
「まあ」
「本当のことを言いなさい」
嘘は吐けないなあ。僕のことを見てないようで見てる。その辺は親なんだよ。
「殺し合い」
目を丸くして暫し無言になっていたけど「何それ、どういうこと?」となり、問い詰められて事の顛末を説明する羽目になった。
さすがに殺し合いが発生するようなものを、ゲームと呼んで良いのかと口にする母さんだ。
「でもサバゲーも結局は殺し合いだけど」
「あれはルールがあるでしょ」
「でも模擬的な殺し合い」
「そうだけど……もう、そんなものを誰が流行らせたのよ」
真剣な表情で「今すぐやめて、と言いたいけど」と言ってる。
「やめる気無いんでしょ」
「今は」
「ねえ、向こうで戦争でもしてるの?」
「戦争じゃなくて絡まれたから返り討ち」
今回は自分も倒されたけど、それまでの三回は余裕で相手を倒してる。少し慢心があったかもしれない。人数が多く取り囲まれると無理が来るな。それと暗視を使用中だったことで、容易に視界を奪われたのが不味かった。視界が真っ白になったし。
「絡まれるって、なんでそんなことに」
「チート持ちだって思われて嫉妬されてる」
「チート?」
「ちょっと他の人より有利な条件」
神の加護。それがあることで何度も生還できてる。ぼろぼろになるけどね。魔族からもらった指輪も他にはない威力だし。魔法の種類は少なくても進化し続けてる。
それをチートと言ってしまえばそうだろうけど。
レベルの上がり方も半端無かった。コツコツ戦闘を熟しレベルアップに励む連中から見れば、ずるしてる、と思われても仕方ないんだろう。
じゃあ説明すれば納得するのか、と言えばするわけもない。
あらかじめ自分たちの中にある解と整合性が取れない限りはね。
「有利なの?」
「まあ少しは」
悩んでるような。
「あ、でも、運営の人たちは気遣ってくれてる」
「そりゃお客さんだからでしょ」
「客でも現地のルールを無視すれば排除される」
運用自体は厳しめに設定されてるから、あとは個人がそれを順守できるか否かだけ。そして現実はルールを逸脱する存在が多い。
「多くの人が羽目を外し過ぎるからだと思う」
旅の恥は掻き捨て、みたいなものでしょ。そこだけでのことなら、いちいち気にせず好きにやる。ましてやこっちの世界で罰せられることも無いのだから。
現実に影響が及ばないなら箍も外れて当然だと思う。
向こうで殺人を犯せば罰せられるとなれば、最低限ルールを守ろうとするでしょ。多少逸脱はしても。
「今はまだ手探りなんだと思う」
ため息吐いて「まだ毒された感じじゃないけど」と言って「もう少し様子を見るけど、もし歪んできてると判断したら禁止するから」だそうで。
今後、向こうの世界の為政者と協議して、こっちと同じように殺人に対して罰則ができれば、無謀なことをする人は減ると思う。
向こうの人だって現状を良しとしてないのだから。統治する人も居るだろうし、口を挟んでくれば大事になる。戦争となれば個々の力で冒険者が有利ではあっても、数を前に有利で居られるわけもない。とは言え元の体が死なないってのがね。現地の人は死んだら復活できないし。
まあいずれ神が審判を下すと思うけど。きちんと選別してくれるといいな。
「いずれ対策を取ると思う」
呆れた感じだけど「物騒な世界に好き好んで行くなんて」だって。
「じゃあ僕は明日早いから」
「なんで?」
「午前五時には向こうに行きたいから」
凄い深いため息を吐いて「行かせたく無いけど行くんでしょ」と言って諦めた感じだ。
止められても行くけどね。アイナとかマリッカにも説明しておきたいし。ギルドに戻って来ないってことで心配してそうだから。
あとは装備の回収だけど無い可能性はあるんだよね。まあその辺は適当に。
何時頃に戻るのか聞かれ十一時には戻る、と言っておいた。
早めの就寝。
目覚めると四時半だ。寝すぎた。慌てて準備しアーススパイアホールへ向かう。
四時台の始発電車は間に合わなかったけど、五時台の電車には間に合い乗車し暫し揺られ、最寄り駅で下車すると急ぎ足で向かった。
アーススパイアホールって二十四時間営業なんだよね。現地は夜間活動する人は居ないけど、洞窟やら迷宮に時間は関係ないから。ギルドは夜間、運営側のスタッフが常駐してる。
入り口でパスを提示し中へ入り、指定された個室に向かうと「おはようございます」と声を掛けられ「いってらっしゃい」と送り出される。
待機室に視界が移るとスタッフに「無くなっていることを前提に」と言われた。
あとマップが無い。
「貸しますよ」
「え、あるんですか」
普段は貸さない。運営スタッフが体の回収に向かう際に利用するものだそうで。
必ず返却してくださいと言われ預かり早々に洞窟へ向かう。僕ならソロでも一階層程度は楽勝だろうと。ボス戦も難なく対処できてるし。
装備の類もないんだよね。初期の村人みたいな服装だし。
「あの、服とか装備」
「購入してください」
さすがに初期装備は貸すとか無料で、とは行かないようだ。武器屋から仕入れているそうで。初回だけは初期装備を無料で提供する。要は初心者向け。
ギルドで僕が初期に使っていた剣だけあればいい。
「それで大丈夫ですか?」
「一階層なら攻撃受けないんで」
「さすがですね」
スタッフに見送られ町を出るけど門衛の人が違う。
「早朝からご苦労なこった」
なんか嫌味っぽく言われるけど仕方ない。セヴェリさんとトゥオモさんは顔見知りだけど、他の人ってほとんど知らないし。
でも何か気付いたのか「あんた、噂のあれか?」と聞かれた。
「セヴェリが言ってた奴か?」
「ヒロトです」
暫しの間。
「そうかそうか。あんたが」
そう言って肩をバシバシ。「いい奴なんだって聞いてるぞ。トゥオモを助けたって」と急に愛想が良くなってるし。
朝早くから何をしに行くのか聞かれ回収と言うと「ほとんど無くなってるそうだが、それでも行くのか」と言われる。
「一応自分の目で確認しておきたいので」
「まあ無駄骨だとは思うが」
一人で行って帰って来れる力量はあるのだろうけど、充分注意して行けよと送り出された。
少しずつだろうけど確かに僕の評価は上がっているようだ。
少し嬉しくなるな。




