Sid.59 無事に戻ることができた
気付くとアーススパイアホールの個室だった。ちゃんと戻ってこれたんだ。
マリッカが言ってたっけ。強い悪意を向けられることで加護を打ち破られると。相当な悪意ってことだよね。恨みを晴らしたい奴らと人を殺したい奴ら。がっつり噛み合ったんだろう。まさに悪意の塊が僕を襲った。マサたちは巻き込まれたに過ぎない。あとで謝っておかないと。許してくれるかは分からない。許されなくても仕方ないか。
「体に異変はありませんか?」
スタッフが覗き込んでる。頭の上で警告音を鳴らしていたモニターは、スタッフが停止したようだけど。
「心拍の急上昇に伴い血圧も上昇し、呼吸も荒くなっていましたが」
何があったのかと。もしかしてPKなのかと問われ頷く。
PKであれば向こうの体は無償で復活させられる。僕が破壊した体はのちのち廃棄処分らしいけど。そして僕らを殺害した連中は二度と向こうへは行けない。
誰ってのは運営側で把握できるから。
起き上がり少し考えを整理、あ、そうだ。
「あの、僕の仲間は」
確認してきます、と言って部屋をあとにするスタッフだ。
暫くして戻ってくると「全員帰還して無事を確認していますが」と少し言葉を濁す。
「あの、仲間の誰かが」
「一人、少々動揺が激しく精神が不安定になっています」
「誰ですか?」
もしかしてヴィーラかな。マサも追い込まれていたけど。フラウは何も分からない内に気付いたら、ここに居たって感じだとは思う。
「ハンドルネームはマサとなっていますね」
マサは追い込まれてたから。でも最後の瞬間「すまん」って言ってた。悔しそうだったな。PTSDになったりしないかな。でも精神的に強いと思うから、たぶん大丈夫だろうとは思う。甘いかな? 二度と行けない、なんてことになったら申し訳なさすぎる。
フラウは問題無いと思うけどヴィーラはどうだろう。怖いと思っただろうし。
マサに関してはカウンセリングで様子を見るらしい。
「今日はどうしますか?」
「えっと、家に帰ります」
「では体の方は次回までに用意しておきますので」
壊されたし。装備にお金に魔結晶とか勿体無いなあ。まだあの場所に残ってるんだろうか。
確認しに行きたいけど体が無いんだっけ。時刻を確認してみると。
「十七時二十八分か」
スタッフに最速で体を得られるのは、どのくらいか尋ねてみた。
「十二時間です」
無理だ。午前五時とか。あ、でも、アイナの時はその時間に向こうに居たんだっけ。アイナのためにメンタルケアが必要ってことで。
家に帰って母さんに言って出直すか。
「あの、最速で用意してもらえますか?」
「装備や金品の回収ですか?」
「そうです」
少し考えてるようだけど頷くと「では十二時間以内に」となった。ただ、残っているかどうかは不明らしい。モンスターが湧いてくることで、体も徹底的に破壊されてしまう。食いはしないが装備や金品の類も、その時に破壊されたり紛失することもあるそうで。他の冒険者が持って帰ってしまうこともある。
その時は仕方ない。
明日の早朝に出直すことにして個室を出る。
あ。
すぐに個室のスタッフに声を掛け、ヴィーラやフラウはと聞く。
「会っておくのですか?」
「そうです」
「では、待ち合わせ場所を指定して頂ければ」
施設出入り口を指定すると個室を出て行くスタッフだ。戻ってくると「連絡はしておきました」だそうで。
身支度を整え出入り口まで向かうと、二人が居て僕を見ると駆け寄ってくる。
「あいつら許せないんだけど」
「いきなり殺された」
マサは大丈夫なのかと聞かれ、少しカウンセリングが必要らしい、と言うと。
「頑張ったんだよね」
「ねえ、あいつらどうなったの?」
「僕が倒しました」
さすがだ、とは言うものの「ヒロトも倒されちゃったの?」と聞かれ、頷くと「ヒロトでも相打ちになっちゃうんだ」と項垂れ「それだとマサは厳しいよね」となった。
マサに会えないのか聞かれるけど、それは聞いてなかった。
「じゃあスタッフに聞いてみようよ」
「そうですね」
出入り口から中へ入りスタッフを掴まえ尋ねると「暫く安静が必要ですので、こちらで処置を施してからになります」と言われてしまう。
「相当状態が悪いのかな」
「たぶんですけど、施設側の責任問題になるので」
問題がないと判断できるまで、メンタルのサポートをするのだろう。
そう言うと。
「じゃあ、あとで連絡してみるね」
ヴィーラがそう言って「帰ろうか」となった。
「あの、ヴィーラさんは怖くなかったんですか?」
「怖いって言うか、訳分かんない内に死んでたから」
「あたしもそう」
フラウはそうだよね。ヴィーラもそうだったのか。だったら問題は無いのか。
「ヒロトはどうなの?」
「僕はもう慣れっこです」
「ああ、そうだよねえ」
何度も質の悪い冒険者に絡まれ都度排除してきてたからと。
そうだ、忘れない内に。
「あの、ヴィーラさんにフラウさん」
「何?」
「どうしたの?」
「ごめんなさい」
頭を下げて謝罪するけど「なんで謝ってるの?」と言われてしまった。
今回の一件は僕に巻き込まれたことで起こった、と言うと。
「仕方ないでしょ」
「逆恨みする方が悪い」
「でも、僕が他の冒険者と争わなければ」
「助けるためでしょ」
正当な理由があってのこと。だったら胸を張れ、だって。向こうの世界の人を助けている。私怨や享楽で排除したわけじゃない。それを逆恨みして殺人集団に依頼した。そいつらが圧倒的に悪いのだから、自分が悪いなどと考えなくていいそうだ。
「あたしに助ける力はないけど、ヒロトにはあるんだから」
「そうね。向こうのヒロト君には力がある」
現地の人のために取った行動。何ら責任を感じる必要はないと言われた。
これからも狼藉者が居れば片っ端から排除すればいい、だって。いいのかなあ、そんなんで。
話が済むと途中でヴィーラとは別れフラウと電車待ちになる。
駅のホーム上で隣に立ち僕を見てる。
「ヒロト君って責任感が強いのね」
「え、そうでもないです」
「愛する人を助けるなんて口では言ってもね」
いざ、その時に行動できる人は少ないのではと言う。
「実はね」
何か口にしだすフラウが居る。
「あたしも過去に怖い思いしてる」
「え」
「暴漢に襲われて」
彼氏と一緒に横浜の山下公園に居た時、ガラの悪い連中に絡まれたそうだ。その時に付き合ってた彼氏を情けないと思ってしまった。
フラウを置いて逃げてしまったらしい。逃げ足の速さに驚いたそうだ。結局は周囲に居たカップルが通報し事なきを得たらしい。
後日連絡はあったが別れを切り出すと、情けない言い訳を並べていたそうで。それが凄く嫌になり二度と連絡するなと。
「でもね、今はそう思わない」
「どうしてですか?」
「だって、誰だって自分の身が可愛いから」
暴漢に絡まれれば多くは逃げ出す。相当腕に自信があれば別だろうけど、多くの人は相手の数を前に腰が引けて当然。もし凶器を持っていたら命も危うい。
愛する人を置き去りにしても仕方ないだろうと。自分の命と他人の命、秤に掛ければ自分に傾くのも当然。
世の中幾ら綺麗事を並べても、それでは済まない。助けない奴は情けない、なんて言ったところで、同じ状況で言うだけのことができるのか。
フィクションとは違うと言う。
「ヒロト君は敵う相手と知って立ち向かったの?」
「え、いえ」
「勇気があって責任感もある」
自分がもう少し若ければ惚れてしまったかもって。い、いやいや、ないでしょ。
現実の僕は情けない程に軟弱だし。向こうの世界じゃ死なないことが分かってる。だから無理もできる。
でも現実なら無理。
「ないです」




