Sid.58 襲い掛かる悪意に倒れる
硬質化にも限度があると思うけど。剣を弾くほどに硬くなる粘体モンスターだ。
片栗粉もダイラタンシー現象で硬くなる。物質に力を加えると液体の状態から個体へと変化する奴だ。
たぶん同じなんだろう。
「ゆっくり差し込めば」
「ゆっくり?」
「片栗粉です」
「あ? ああそう言うことか」
勢い付けて斬ろうとしても弾かれる。でも普段は液体に近いゲル状のようだし、力を抜いて差し込んで斬って行けば。
思った通り慌てずゆっくり動作をすることで、しっかり二つに分離する粘体モンスター。バシャッと崩れ落ち、ただの水のようになって床に染み込んでいく。
「倒せた」
「すぐ見抜くヒロトって」
「優秀だよね」
なんか褒められてる。みんな焦って忘れてただけだよね。小学生でも知ってることだし。
粘体モンスターを倒し先へと進むけど、床が濡れていることもあり足元が滑りやすい。マッピングをしながら慎重に歩みを進めると、またも扉が三つあり進む先を決めることに。
「右」
挙手無し。
「左」
挙手無し。
「分かってたけどさ。真ん中だろ」
頷くと真ん中の扉を押し開け中へ入る。
「急に広くなったな」
「少し明るさもあるみたい」
「へえ、洞窟の中に広い空間」
神殿と同じく中ボス部屋とかじゃないよね?
危機的状況になればモルディストと共闘することになるだろうけど。手を貸してくれるかどうかは不明。離れて移動してるだけで、これまで何もしてないから。
アドバイスの一つも無いし。完全にお客様状態だ。
空間内を見回すけど洞窟の中にも広い場所はある。中ボス部屋じゃないことを祈ろう。
「床が平らなのはなんでだ?」
「綺麗に均されてる」
壁を照らすフラウだけど「燭台がある」と言ってる。見ると確かに等間隔に燭台があり、四人が完全に踏み込むと後方の扉が閉じてしまった。
「え」
「ドアが」
「ねえ、モルディストの連中は?」
「居ねえ」
全員が扉側に振り向きモルディストの連中が居ないのを確認する。
「なあ、もしかして」
「嵌められたとか」
「あの連中、やっぱり信用ならない」
閉じ込めたんじゃなく中ボス部屋だから、倒すまで出られないじゃないかな。距離を取って移動してたから分断された。でもモルディストの連中は知ってたはず。
淡い期待は即座に打ち破られ、空間の奥を見据えると居るし。
「あの、閉じ込めたんじゃなく閉じ込められたんです」
「あいつらに?」
「違います。ボス部屋ですよ、ここ」
「え」
全員が僕の指さす方向を見ると、壁の燭台に火が灯り空間が明るくなった。
そして気付く巨大な存在。とは言え神殿に居た石像ほどじゃない。四メートルくらいで、全身が鱗に覆われ頭が三つで足が八本。腕は四本あるドラゴンのようなモンスター。
「ドラゴン?」
「でも頭とか足とか」
「羽は無いみたいだけど」
三つあるうちの中央の頭を上げると口を開く。同時に咆哮が発せられ左右の頭も口を開いた。
口腔内が発光し収束するような。
「攻撃が来ます!」
左右の頭から発射される光弾。慌てて盾を構え防御姿勢を取るマサだ。その後方にフラウが居て僕も咄嗟に氷の壁を発生させる。僕の後ろに控えるのはヴィーラだ。間一髪間に合い光弾を防げたけど、やっぱり一発受けるだけで破壊されてしまう。
マサも受け止めはしたけど、かなり後退りしてる。相当押し込まれフラウが倒れてるし。
「ちょ、ちょっと。もう少し踏ん張ってよ」
「無理だっての」
第二射が来る。
「今はそれどころじゃないです」
マサの態勢が整うのを待っていると被弾する。氷の壁を張り攻撃を防ぐけど一発しか持たないし。
でも一発防いだことで態勢を整えた。
「ヒロトが居なかったら」
「やられてたかもな」
「ジーベンス!」
効くかどうかは分からない。でも麻痺してくれればと発動させる。威力は現時点で最大を想定した。
耳をつんざく轟音と閃光が走りモンスターを直撃。
「なあ」
「倒れてる」
神殿の石像は麻痺した程度だったけど、洞窟のモンスターは死ぬんだ。レベルが違うからか。
一撃必殺は気持ちいいけど、さすがに弱すぎると思う。でも怪我も無く倒せたなら御の字ってことで。
「ヒロト」
「はい」
「普通はもっと苦戦するんじゃないのか?」
「だと思います」
やたら頭や足の数が多いドラゴン擬きを倒すと、床に吸い込まれるように消滅し魔結晶を残す。大きなものだ。僕のポーチに仕舞い込むことになった。倒したのが僕ってことで。
魔結晶を拾うと入って来た時の扉が開き、またドラゴンの居た場所の奥にも扉が出現。扉が開くとモルディストのメンバーが入ってきて「滅茶苦茶早いな」と言ってる。
「何をした?」
「魔法で」
「そんな強力な魔法を使えるのか?」
「まあ一応」
僕を見る面々だけど「噂は本当なのか」とか言ってるし。
適当に答えるマサだけど扉を見てるようで。
「先へ進めるのか」
まだ進むかどうか確認を取るマサだ。
「その先は二階層だ」
モルディストの面々が言う。
「じゃああれがフロアボス」
「そういうことだな」
壁の明かりが消えて暗くなると松明を掲げるフラウだ。
「進むの?」
「そうだな」
モルディストの一人の影が揺らぐ。それと同時にフラウの背中から血が噴き出した。
「フラウ!?」
松明を落として無言で倒れるフラウだ。
ヤバい。こいつらやっぱり。慌てて周囲を警戒するマサだけど、続いてヴィーラの背中も裂けて血が噴き出し倒れてしまう。
「ヴィ、ヴィーラ!」
駆け寄るもすでに事切れている。マサも気付いたようで「貴様ら何をしやがった」と怒り心頭だ。
でもモルディストの連中は無言で攻撃を仕掛けて来た。
応戦するマサだけど多勢に無勢で、しかもどこから湧いてきたのか人数が増えてる。
「くっそ、こいつら」
盾で防ぎ剣で応戦するも遊ばれているようだ。魔法攻撃が掠め剣も掠め少しずつ追い込まれる。
僕もまた新手に攻撃され氷の壁で防ぐ。
薄暗い中でマサは見えづらいせいもあり、有効な攻撃を加えられず翻弄されてる。
僕は見えてるから躱すことも容易だけど、それでも人数が多くマサに対して五人。僕には八人掛かりで襲い掛かって来てる。
「悪いな。直接の恨みはないが」
「頼まれたんでな」
「俺らを恨むなら倒した奴らを恨めよ」
理解した。
以前、出禁にされた連中が仕返しを頼んだんだ。
「ジーベンス!」
空間内に広がる轟音と閃光。同時に五人が倒れた。全員を倒せなかったのは、マサも巻き込みかねないから加減したせいだ。
敵を減らさないと確実に倒されるから少し焦りもあった。
「ちっ」
「くそ」
「なんだこいつ」
マサを相手にしてる連中に声を掛け「さっさとそいつを倒して手を貸せ」とか言ってる。
魔法攻撃を何度も食らわされ「すまんヒロト」と言って、倒されてしまうマサだった。
残った全員で僕を倒そうとしてるけど、かなり警戒してるようだ。
「こいつ、雷を使うぞ」
「厄介だな」
「どうする?」
「相手が悪い」
睨み合う状態が続くけど「あれを使う」と言う魔法使いだろう。即座に「リサンデキュロー」と唱えると、空間内に強い光が発生した。
やられた。暗がりで放たれる強烈な光は、一時的に視界を奪い体に突き刺さる感覚。胸元から刃が生えてる。
「やったか?」
声が出にくい。でも。
「ジーべン、ス」
血が口から溢れ出て来るも魔法は発動できた。
拡散する雷撃が周囲に居た連中に直撃し、揺らぐ視界の中バタバタと倒れるモルディストのメンバーだ。
ああ、モルディストの意味って英語のマーダーだ。
全員倒してから言葉の意味に気付けた。頼まれたってことは、プレイヤーキルを専門にしてるんだろう。
今さら気付いても遅かった。
徐々に遠退く意識。死だ。




