Sid.4 冒険者は嫌われ者らしい
翌日の予約はすでに一杯になっていて、二日後の予約になってしまった。
日が空くことで異世界について少し予習をすることに。何も知らないことからネットを漁りプレイヤーたちの報告を見る。
多くは誰かと組んで冒険しているようだ。やっぱりソロは極めて少ない。
僕も誰かを探さないと厳しいんだろうな。剣は下手くそで魔法は低威力。とても異世界で活動できる感じじゃない。
でも記事によってはソロでも町周辺であれば活動可能だと。
森や山、谷なんかもあるけど、その手の場所には強敵が潜んでいる。単身向かえば死にに行くのと同じだと。またダンジョンもあって四人以上で挑まないと、確実に倒されてしまうらしい。時間も掛かるから、あらかじめ四時間の最大枠を取るべきとも。
ダンジョンかあ。いつかは行ってみたい。
仲間が見つかるまでは当面、町の周辺をうろうろするしかないか。
異世界へ渡る当日。
時間は前回と同じく午後二時から。出掛ける準備をしていると母さんが「出掛けるの?」と聞いてくる。頷くと「帰りに卵と牛乳買ってきて」と、お使いまで頼まれてしまった。
自分で行く気は無いのか。専業主婦だよ、今どき。僕に手が掛からなくなって、時間的余裕はありそうだけどな。
外に出てアーススパイアホールまで向かう。
今日は天気がいい。春らしい陽気で風が強めだけどね。
施設に着くと前回同様にブリーフィングルームへ。二回目の人は主に質問を受け付ける。
事前に予習してるから質問は特にないな。
個室に案内され前回同様手足に電極、頭にヘッドギアを装着されると異世界へ。
見覚えのある顔が視界に入った。
「こんにちは。今日から冒険しますか?」
頷くと「先に準備運動した方が良いですよ」と言われ、体と精神を馴染ませるべくストレッチをする。
馴染むと「質問はありませんか」と聞いてくるけど、まだ外に出てないから分からない。とりあえず一度町の外をうろついて、疑問が生じたら聞くとしておいた。
「では、充実した冒険を」
ギルドで見送られ街中へ移動し、町の外に出るべく進むと、頑丈そうな門と城壁がある。
門の前には門衛らしき存在が二人居て、近付くと「見ない顔だな。新人冒険者か?」と問われた。頷くと「お前ら気楽だよな」だの「死なないんだろ」と。
確かに元の体は早々死ぬことはない。アバターが死んでも復活はできるし。でも死ぬ際の苦しみはたぶんあるんだろう。
死ぬ気で来たわけじゃない、と言うと「こっちはいつでも真剣勝負なんだがな」と、ゲーム感覚で訪れる地球人に辟易した感じだ。
「何かあったんですか?」
辟易するのも理由があってのことだろう。疑問を生じたから聞いてみると。
「この町じゃないけどな、他所の町だとお前らみたいなのが暴れて」
町の住人を殺害したらしい。諍いが生じた末に住人を殺害し、結果、そいつらは来なくなった。この世界の法では裁けないが、元の世界では何か罪に問われないのかと。
聞いたことはないな。
「いえ。知らないです」
「お咎めなしかよ」
「だから気楽に人を殺せるんだよ」
迷惑千万。本心では来て欲しくないらしい。それでもこの国と管理者間で条約が結ばれてる。資源となるモンスターのドロップ品を納品し、国の発展や安全性に寄与する代わりに冒険者を受け入れることを。
冒険者の責務として脅威となるモンスターの排除。
少々町の治安は悪化しても、町から町への移動のリスクは減少する。多少のことは目を瞑ってもらうことになっているそうだ。
そんなの説明されなかった。
僕らはゲーム感覚で訪れる。
でも僕らの自由を担保するための条件はあったんだ。
「なんかすみません」
「まあ、新人冒険者に言っても仕方ないけどな」
「腹立ったからって殺すなよ」
「あ、はい」
自分たちは異世界から来た人と違い、特殊な能力を得ていないし弱いのだと。
守るべき存在だと言うこと忘れるな、だそうだ。住人を守る代わりに自由が保障される。そこを理解しない冒険者が多い。腹立たしい、と怒っていた。
「じゃあ通っていいぞ」
「どのくらいで戻るんだ?」
「えっと、一時間くらい」
「まあ、新人じゃその程度だな」
因みに、この世界の住人に僕らを助ける義理は無いそうだ。原則放置。外で死んだところで精神は元の世界に戻るからだ。助けに向かい現地人が死んでは意味がない。
自己責任だから誰も救助に向かわないぞ、と言われ送り出された。
殺害か。ゲームだと思ってるんだろうな。この世界の人は生きていると理解しない。ゲームのNPCくらいに思ってそうだ。
でも生きていて生活を営んでいる。命を持った人だと理解しないと。
外に出ると門が閉じられる。
振り向くと城壁の上に見張りが二人居るようだ。こっちを見てる。手を振ってみたり。
いや、やめておこう。バカにしてるのかと思われそうだし。
門に繋がる未舗装だけど均された地面。これが他の町へ向かう街道なんだろう。轍があることで馬車とか何かしら移動手段はありそうだ。
周囲を草原が取り囲む未舗装の街道を歩き、暫く進むと草がざわめき何かが近付いてくる。
モンスターかも。
不定形軟体モンスターなら今の僕でも倒せるのか。
草を掻き分け飛び出し向かって来る存在が居た。
咄嗟に剣を抜いて構えるけど、視界に収める頃には僕に体当たりされる。相当な勢いがあるのか僕が弱すぎるのか、押し倒され一瞬だけど呼吸もできず。
仰向けに倒れると上から落ちてくる何か。いや、スライムみたいな奴だ。
最弱モンスターに追い込まれる冒険者って。
「くっそ」
落ちてくるスライムを躱し起き上がると、剣先を向け魔法を発動させる。
ポンって感じで火の玉が飛んで行くけど、向かって来た相手に直撃し弾け飛んだようだ。
「倒せた?」
どうやら倒せたようで。飛び散った液体が地面に染み込んでいく。
何かドロップしたのかと思って見るけど。
「何にもない」
必ずドロップするわけじゃないのか。
ため息を吐き体勢を立て直し再び歩く。この道がどこに向かうのか分からないけど、町の城壁が見える範囲をうろつくことに。
あんまり離れて凶悪な奴と遭遇したら命取りだし。
進むとまたも草がざわめき、今度は二匹のスライムが出現した。
もう慌てない。剣で攻撃しようにも、扱いに慣れないことで空振りする。最初から魔法で倒せばいい。何発でも放てるならね。
エルドクロットを連発すると二匹とも爆ぜたようだ。
ドロップ品は無し。
こんなの相手にしてても稼げないか。それでも慣れるにはいいのか。
ほんの少し強い相手なら、何か落とすかもしれないけど。
またも進むと右手に森が見える。あそこには強いモンスターが潜んでたり。今の僕だと瞬殺されるかもね。仲間も居ないし何かあっても助けも呼べない。
レベル一でリスクを負う必要はないな。
森を横目に街道を進むと、またも遭遇する。
「今度は何?」
勢い付けて走って向かって来るのは、手に棍棒を持った猿のような存在だ。奇声を上げてるし。しかも三体も居る。
殴られる前に魔法で牽制して怯ませるしかない。
「エルドクロット!」
秒間二発の火の玉が向かって来るエテ公に当たった。バカだ。勢い付けてくるから、自ら火の玉に当たりに行くようなもので。
知能は低いと判断できる。一匹に三発くらい当たって、先頭に居た奴は計四発食らって弾け飛んだようだ。残った奴もよろよろと歩く感じに。
駆け寄って剣を一振りすると、しっかり斬られてくれて倒れると、地面に沈み込むように消えた。棍棒も消えるし。何も残らないのかよ。
思わず盛大なため息が漏れるし。
「ドロップ品って雑魚じゃ出て来ないのか」




