Sid.3 練習するだけで終わった
殴られて、腹に沁み入る痛みかな。
じゃない。全然まともに攻撃できない。いくら怪我はしないと言われても、やっぱり何度も打撃を食らうと腫れてくる。
気持ち的には攻撃してるけど、空振りばかりで掠りもしないし。
他の人を見ると次々課題をクリアしてるようだ。僕だけゴーレムに翻弄される有様。動きが素早いんだよ、土くれ人形の癖に。
「お前、剣士特性が低過ぎないか?」
指導教官に問われるも、それが理由かどうかは分からない。
所謂ゲームのように「ステータスオープン」なんて言って、様々な数値が表示されるわけじゃないから。そもそも数値なんて存在しない。唯一目安としてレベルだけがある。
HPやMPなんて数字すらも無い。現地人と比較して魔素でできた体は少し頑丈なくらいだ。
HPがゼロにならない限り死なない、なんてご都合主義は存在しない。
そこはゲームとは異なる部分だ。
「経験はないのか?」
ゴーレムの動きを停止させると、傍に寄ってきて「幾つか型を学んでからだな、こりゃ」などと言ってる。
「剣士以前に基礎がないんじゃ、どうにもならん」
ということで僕だけ特別指導になった。
「まずは、そのへっぴり腰をなんとかしてからだ」
剣を構える際に腰が引けている。姿勢が駄目ということで矯正させられ、再び素振りをするけど、これもただ振り回しているだけと言われる。
「剣は腕だけで振るな」
全身が出鱈目な動きだと指摘されると、まずは基本となるステップ、つまり足さばきを教えられ、剣の持ち方から振り方まで教えてくれた。
「肩幅程度に足を開き爪先を相手に向け、後ろ足は九十度横に向ける」
交互に前後の足を入れ替える。これを何度も練習することに。
ある程度形になると型を教えられた。
「お前らの世界で言う西洋剣術になるが」
左右の肩の上か上段に剣を構える、西洋剣術で言うところのフォンターク。
頭の横に剣を構え切っ先を相手に向けるオックス。腰のあたりに剣を構え切っ先は相手に向けるプフルーク。下段に構え切っ先は地面に向けるアルバー。
この四種類の型を元に振り方を叩き込まれることに。
「腰を回すんだよ。手だけで振るな。剣の重さを利用しろ」
散々注意を受けるけど確かに、子供がおもちゃの剣を振るのに等しいようだ。
三十分くらい振り続けると体が覚えてくるのか、最初の頃より剣筋が安定してきたようだ。
ついでに汗も流れてるし。
「少しは良くなったな」
次はガードとダッキングと呼ばれる防御を学ぶ。
「剣で相手の攻撃を弾く、相手の攻撃を避けカウンター狙いだ」
指導教官を相手に何度も練習させられた。
これもまた三十分くらい繰り返し、終わる頃には膝がガクガクに。
他の人たちはすでにこの場に居ないし、みんな次の課程に進んだようだ。僕だけ一人居残り練習をさせられる。
「よし、ある程度は形になったな。ゴーレムを相手にしてみろ」
まだ疲労感が抜けてない。膝が笑い気味なんだけど。
それでも容赦なくゴーレムの相手をさせられ、初っ端は殴られはしたものの、何とかゴーレムを倒すことができた。
しんどすぎる。VRMMOとは違いすぎるし。これに比べると、あんなの子供騙しのお遊びだ。
「剣はここまで」
次は魔法の練習だそうで。
別の指導教官が来たけど、白人女性のようで見るからに魔法使い風。ローブを羽織り手には杖を持ってる。若そうだけど僕より三つか四つ年上か。
手招きされ「じゃあ早速だけど」と練習をするけど。
剣の鍛錬と違い魔法の練習は剣より遥かに楽だった。
「魔法剣士の場合は剣の切っ先を向けて、魔法名を唱えれば発動するから」
物腰はさっきの教官と違って柔らかい。女性だからかな。
「えっと、僕の場合どんな魔法を使えますか」
「君は炎系と氷系かな」
「二種類だけですか」
「今はそうね。レベル上昇で今後覚えると思うけど」
二種類だけ使えるようだ。
「ひとつはエルドクロットね」
剣の切っ先を向け対象となる的に向け「エルドクロット」と口にする。
「あれ?」
「イメージしないと」
「イメージ?」
「飛んで行く火の玉をね」
何も出て来ず空振り。
長ったらしい呪文を唱える必要がない代わりに、頭の中で火の玉をイメージしないと、魔法として発動しないらしい。
今度は火の玉が飛んで行くのをイメージして唱える。
剣先からポンって感じで火の玉が飛んで行くけど。
「あの」
「最初だからね」
「これ、倒せるんですか?」
「最弱モンスター相手なら」
最弱モンスターってのは地べたを這う、不定形軟体モンスターのことだそうで。いわゆるスライムみたいな奴。
それより強い相手だと一発では無理だそうだ。
「じゃあもうひとつの魔法。イースピラレって言って」
地面から氷の柱が生えることをイメージしろと。よく分からないけど氷の柱を思い浮かべ唱えると。
「えっと、これって霜柱」
「そうとも言うね」
「モンスター倒せますか」
「無理ね」
役に立たない。
魔法は現時点で使い物にならなさそうだ。当面は剣士として魔法は牽制程度。
魔法剣士って、やっぱり使えないジョブなんだろうか。
「一発の威力は低いけど連続して放てば効果はあると思うよ」
と言うことで最大で十連発放てるよう練習することに。
最初のうちは放つ間隔が長く連発、といった感じじゃなかったけど、これも二十分程度続けると十連発ができるようになった。速度も時速二百キロくらいで秒間二発放てる。レベル上昇と練習次第で秒間六発、速度も五百キロ程度まで可能らしい。
魔法を放つのに限界は無いのか、と質問すると「大規模な魔法は制限があるけど、君の使う魔法程度なら一万発でも放てるから」だそうで。
威力は低いが燃費も良いってことか。
「はい合格。これで次に行けるからね」
一人だけ一時間半を費やしての訓練。他の人とは大きく差がある。でも、他の人たちって、どこで技とか身につけたんだろう。元の世界で何かしらやってたのかな。
魔法使いのお姉さんに見送られ訓練所を後にする。ギルドに戻りそこで改めて町の周辺に出没するモンスターの説明や、モンスターを倒した際のドロップ品の扱いを説明された。
当然だけど僕一人だけ。他の人はすでに冒険に出たようだ。
「ドロップ品は、この世界では有用な資源です」
この世界の貨幣と交換できる。ギルドで受け付けるから持参するようにと。
今後、装備品を充実させる際に金は必要だと。初回だけはギルド側で用意するけど、装備品は消耗品だから使えば壊れる。
この世界の貨幣を入手し以降は自力で装備を整えるそうだ。
「さて、ヒロトさん。時間が来てしまいましたが」
「え」
「ワンプレイ二時間なので続きは次回に」
まじ?
「ここまで練習に時間を要した人は」
過去に類を見なかったそうで。魔法剣士ってことで剣と魔法、両方を学ぶ必要があった。仕方のない面はあれどプレイできる時間は決められている。
後続のプレイヤーが待っている以上は、一度戻る必要があるわけだ。入れ替え制だから。
「次回から冒険しましょう」
と言うことでリコールさせられることに。
初日は冒険が始まらず練習だけ。当日予約は無理だそうで、次回都合の良い日時を帰還して押さえた方が良いと。
已む無し。
なんか、凄く損した気分だ。町の外にすら出られなかったし。
「それではアバターは大切に保管します」
椅子に腰掛け「リコール」と唱えると意識が飛ぶ。
気付くと狭く薄暗い室内が視界に入った。
「お疲れさまでした。如何でしたか?」
如何も何も練習だけで終わってるし。練習は別にしてもらえればなあ。
電極やヘッドギアを外されベッドから起き上がる。
部屋を出てスマホを操作し次回予約を入れた。




