Sid.2 異世界で戦闘訓練をする
目覚めると目の前におっさんが居る。周囲を見回すと他にも十数人居るようだ。
早速疑問が生じた。
その前に、この場所はどうやら冒険者ギルドの一室らしい。木造建築で木の壁に木の床に天井。ログハウスみたいな。そして自分は椅子に座っている状態。他の人も同様、二人を除いて椅子に座った状態だ。ということは立っているのが現地スタッフ。
服装がね、如何にも中世の人みたいな。チュニックと緩めのズボン。
自分もまた似たような恰好をしてるようだ。
「全員目覚めたようなので簡単に説明をします」
まず、意識が完全に覚醒しているか否かの確認。指を一本立てて動かすから目で追ってと言われ追う。眩暈や追いきれない、などが無ければ次は発声。
一人ずつニックネームを名乗る。これも事前に決めてあり各自が名乗り自分の番に。
「魔法剣士のヒロトです」
ニックネームはヒロト。ジョブは魔法剣士。
ヒロトってのは実は本名だったりする。VRMMOではハンドルネームを名乗るけど、ついいつもの癖でヒロトと入力してしまった。ゲームでも同じくヒロトだし。
まあ呼ばれた時に「誰?」とならないからいいや。
全員が名乗り終えると「椅子から立ち上がってみてください」と言われる。
指示され立ち上がろうとするとコケる人多数。
「最初は体が馴染んでいません。ゆっくり体と精神を馴染ませ、自分の体として使えるようにしましょう」
この体は元々は自分の体じゃない。だから思った通りには動かないわけで。
少しすれば馴染んで来るし、細かい動作は訓練すれば熟せるようになると言う。
「では失敗を経験したところで、腕を回し屈伸運動を」
腕をぶんぶん振り回し屈んで立ち上がって。体を捻って動かすことに慣れる。
「基本動作に支障が無ければ、この世界に関して説明します」
着席してください、と言われ腰を下ろすと説明が始まった。
今居る場所が冒険者ギルドの待機室。ここに居るのは僕らのように異世界から来た人たちだけ。現地の人は依頼受付窓口までしか入れない。
地下室があって、そこには棺桶と呼ぶ体の保管ボックスがある。スタッフが運び出して椅子に置くそうだ。リコールの際にはスタッフが担いで、棺桶に収納するらしい。
「ここには全部で五百体が保管されています」
大切な体なので丁寧に扱っていると言う。まあ言うなれば商品だし大切に扱わないとね。壊れて復活させると金取るくらいだから。
そしてここと同じく冒険者ギルドは各地にあって、各ギルドに最大で千人保管できる仕様だそうだ。ギルドって幾つあるんだろう。プレイヤーを収容できるだけの数、となれば千は下らないと思うけど。
日本だけでプレイヤー登録してる人は、五万人を超えるって話だし。人数は多くても毎日遊べる人は少ないんだな。
「この世界には魔法があります」
モンスターも魔法を使う種類が居て、魔族と呼ばれる存在が扱う魔法は、人族の使う魔法より遥かに高威力だそうだ。
僕らのような存在はレベルに応じて、魔法の威力が上がるから、いずれ太刀打ちできる状態にはなる。それまでは慎重な行動を。
「そのレベルですが」
モンスターを倒すことで生命力を吸収し、ある程度溜め込むとレベルが上がるそうだ。
レベル二十あれば、この世界であまり不自由なく行動できる。
レベル三十もあれば、大概のモンスターに対応できる。レベル四十を越えれば魔族相手に戦闘を熟せるらしい。ただし、下っ端だそうだ。
対話が可能な相手だから、必ずしも敵対する必要は無いとか。
「この世界の人族は強くてもレベル二十五相当です」
レベルは我々にのみ設定されていて、当地の生命体には存在しない。
「レベル八十もあれば魔王と対峙できますね」
魔族の頂点に君臨する魔王。まあフィクションの世界ではお馴染みの存在だ。レベル八十なんて軽く言うけど、どの程度活動すれば辿り着くのか。
「ここでの行動ですがソロはお勧めしません」
不測の事態に対処不能に陥る。魔法があると言うことは、魔法での攻撃や治療も可能な世界。前衛と後衛で最低四人で行動するのが良いと。
剣だけを手に敵に向かうのは無謀だそうだ。
そして、ジョブに応じた戦闘訓練をするそうで。剣や肉弾戦専門の人、魔法攻撃専門の人、飛び道具を使う人、支援系の人に分かれて訓練所に向かう。
「君は確か魔法剣士」
「はい」
今日この場に居るのは僕だけらしい。
武器の訓練と魔法の訓練を受ける必要があるそうだ。
「あまり成り手が居ないですね」
知らなかった。魔法剣士って前衛と後衛のいいとこ取り、と思ってたんだけど。
まあ人それぞれ考え方もあるでしょうだの、きっと活躍できる場もあるでしょうだって。
なんか不遇職みたいな言われようだ。VRMMOでは、そこそこ活躍できたけどなあ。この世界じゃ通用しないのか。
装備品を渡され訓練に参加するんだけど、まずは剣士として。
教官は現地人だそうだ。初心者は全員スタート時はレベル一。現地人でも指導くらいはできるわけで。
ギルドの建物を出ると町の中だとわかった。周囲に建物が多数ある。人の往来もそれなり。人々の格好は中世まんま。
ぞろぞろ歩いて向かう先はコロシアムみたいな。
「ここが訓練所です。各自、対応する教官に従ってください」
八人ほどの教官らしき存在。それぞれ対応する教官の下に集合し、コロシアムの中へ入って行く。通路を通り抜けると観客席の無いスタジアムだな。
僕はまず剣士としての訓練。
太マッチョが三人。細マッチョが八人。そして僕。一番細身で頼りなげな体格かもしれない。なるほど、大剣を扱う人が太マッチョ。ロングソードを使う人が細マッチョ。僕は魔法も使うことで体格はやや貧弱。
ジョブに応じた体格になってるんだ。
早々に訓練が始まるんだけど、剣を構え素振りをさせられる。
「まずは扱いに慣れてもらう」
剣が手に馴染むまで素振りを繰り返させられた。でも意外にも疲れはあまり感じない。アバターの基本スペックが高いんだろう。徐々に素振りのスピードが上がるけど、純粋な剣士に比べると遅い。剣士の剣筋は目で追えない程になってるし。
僕の場合は目で追える。明らかに初っ端から力量に差があるわけだ。
でも選んじゃった以上は仕方ない。黙々と素振りを繰り返す。
「馴染んだらゴーレム相手に実戦訓練をする」
え。
もう?
「レベル二相当のゴーレムだから、君たちなら攻撃を受けても怪我はしない」
怖がらず遠慮なく剣を振って倒してしまえと。
土くれ人形が人数分用意され、それぞれが対峙すると気の早い奴は、さっさと向かって剣を振っているし。
でも、そう簡単に倒せるものじゃないみたいで。敵も攻撃してくるから躱さないと殴られる。コケて尻餅つく人も居るし。
僕も、と思ったけどゴーレムの迫力に気圧される。土くれの分際で威圧して来るのか。
「痛みはあっても怪我はしない程度だ。さっさとやれ」
その言葉は僕に対してだよね。尻込みしてたから。
意を決して突っ込むとゴーレムの拳が目の前に。
顔面が相当痛いし空が見えるし。倒れちゃったんだ。
「倒れてないで起き上がれ。これが外なら死ぬぞ」
とんでもなくスパルタだ。こんな指導方法、今の日本じゃ考えられない。さすが原始的な世界だ。
起き上がり剣を構え直し立ち向かうけど、やっぱり殴られて転がる羽目に。
僕に剣士は向いてないな。魔法使いにでもなれば良かったかも。失敗した。
「そこの剣士。へっぴり腰じゃ倒されるだけだ。相手をよく見ろ」
頭で考えるのと実際の行動が一致しない。わかっててもね、腰が引けるし動作は遅れるし。
映像とは違う迫力がある。




