Sid.55 教会でまたも諍いになる
朝晩の異世界通いは終わった。とは言ってもアイナのために当面週に三回は四時間枠で行く。
夏休み中ってこともあり時間に余裕はあるからね。
それとバイト代も入ってる。すでに十万円ほど貯金もできていて、フリーパスが切れても通うことは可能だ。まあ四時間枠で週に一回程度にはなるけどね。
日常を取り戻したアイナは今日も元気に受付業務だ。すっかり良くなったようで一安心ってところかな。
「ヒロトさん。今夜来ませんか?」
「えっと、今日は無理です」
「明日はどうですか?」
「あの、そう毎日毎日は行けないです」
残念だと言ってるけど、憔悴した表情を見せることはない。
フラッシュバックも無くなり睡眠の質は向上してるようだ。夜は僕が居なくても寝られるようだし。以前とは大違いだな。夜中にうなされ起きていた頃は、本当につらそうだったから。
「あ、ヒロトさん。臨時メンバー募集してましたよね」
「してましたけど」
「応募ありましたよ」
六人組で実力のあるグループらしい。ただ、僕らと違い一般的な冒険者だと言う。
「一般的ってなんです?」
「粗暴で横柄で見下す人たちです」
それが一般的なんだ。あれから運営も注意喚起や教育云々言ってたけど、今も改善される感じじゃないんだな。
人の意識なんて、そう簡単に変わるものじゃないけど、この世界の住人を人と認める気はないんだろう。彼らはあくまでプレイヤーであって、この世界は冒険フィールド。そこに居る人たちはNPCとしてしか認識しない。これの改善に必要なことって何だろうか。
「会ってみますか?」
「会うだけ会ってみます」
「じゃあ調整しますね」
後日、顔合わせすることに。態度に問題があるようだし期待しないでおこう。
ギルドを出ると教会へ向かう。アイナの嫉妬は相変わらずだけど、出る際に「あたしが正妻でマリッカが愛人ですね」なんて言ってた。愛人は許すんだ。
教会に着くと祈りを捧げる冒険者が数人。揉め事にはなっていないようで、おとなしく祈ってるようで。
僕に気付くマリッカだけど笑顔を見せ、近くで待つよう指示してるようだ。
冒険者の方は五人組で装備が充実してるなあ。立派過ぎる大盾持ちが居て、フルプレートアーマーが居て、全身黒装束の魔法使いかな。全身白装束も居るし、緑色で統一した人まで居る。RPGのキャラまんまだ。
形から入る人なのかもしれない。
祈りが終わったようで全員立ち上がってるけど、僕に気付いたようで視線を向けられてる。一人はクローズヘルムを被ってから僕を見てるし。視線が分からないけど顔の向きで判断した。
「あいつって確か」
「ああ、あれだろ。受付の子の」
貨幣をマリッカに渡すと何か言う前に全員が向かって来る。貨幣を手に困惑した表情をするマリッカだ。
僕の前に立つと黒装束が「これが受付の女に付き纏う奴?」とか言い出す。
すると他の連中が口々に「受付の女が付き纏ってるって聞いたぞ」とか「意味ねえじゃん。なんもできねえし」とか言ってるし。
なんかイラっとする。
大盾持ちが顔を近付けてきて睨むと。
「なあ、お前。この世界の女を惚れさせて何がしたいんだ?」
別に惚れさせてるわけじゃない。
それにしても体が大きいなあ。大盾を持つから体格がいいんだろうけど、動きは鈍そうな気もする。
黒装束も何やら詰め寄ってくるし。この人は女性のようだけど目付き悪いなあ。しかも背が高いから上から見下ろされる。
「しょっちゅう受付の女の家に出入りしてたんでしょ」
乳繰り合ってたのか、なんて言い出す。会話とキスはしたけど、それ以上のことはしてないし。
ああ、そういうことか。僕が毎日のようにアイナの家に出入りしてて、それが噂になったんだ。スタッフに話を聞けば理由が分かると思うけど、それはしないで噂話に尾ひれを付けて広めてるんだろう。
なんか面倒臭い。こんなの相手にしても意味がないし。
避けてマリッカの下へ向かうと。
「なんだこいつ」
「俺らと話す価値はねえってか」
マリッカの傍まで行き「祈りを捧げに来ました」と言うとガヤが煩い。
「こっちにも手を出してんのかよ」
「現実世界じゃ相手にされなさそうだしね」
「だからこっちでってか」
「僕ちゃん、女を相手にするには経験不足ですよぉ」
煩いなあ。お前らに関係ないだろうに、なんでいちいち絡んでくるんだろ。
マリッカが「あの、ヒロトさん。気持ちを落ち着けてくださいね」って、少し狼狽えた感じだけど。
「大丈夫です。相手にしませんから」
祭壇の前に跪き手を合わせ祈ろうとすると、こっちに向かって来て「無視すんなよ、僕ちゃん」とか言って肩に手を掛けてくる大盾持ちだ。
なんか、しつこい。
「あの、祈りを捧げるんで邪魔しないでください」
「受付の女とできますようにってか」
「アレが生えますようにって祈りたい?」
「頭ん中、エロで染まってんなあ」
それはお前らじゃん。
まだ肩に手を置く大盾持ちだけど、いい加減鬱陶しい。
「あの、祈りを妨げないようにお願います」
マリッカがそう言うと。
「へいへい。シスターちゃんも、こんな奴にご執心なわけだ」
「趣味悪い」
「シスターちゃんよお、どうせなら俺とどうだ?」
「お断りします」
マリッカに断られると声を掛けた奴を四人が指さして笑ってるし。実に煩い。
「生意気に断るってか?」
「剥けばおとなしくなるだろ」
「ああでもなあ、ここ神聖な場所だしなあ」
「不敬であるぞ。ぎゃはははは!」
バカだ。救いようがない程に。
仕方ない。立ち上がり煩い連中に向き直る。
「邪魔なんで用が済んだら立ち去ってください」
「は?」
「なんだって?」
「こいつ、カッコつけてんのか」
堪忍袋の緒が切れた。できる限り揉め事は起こさない、そのつもりだったけど。
我慢にも限度ってのがあるでしょ。スタッフを呼びに行くのも難しいし。実力行使で排除するしかないくらい、しつこく絡んでくるんだから。
大盾持ちが持つ盾に手を当てる。
「てめえ、俺の大事な盾に触れんじゃねえよ」
「スタートヴォーグ」
凄まじい衝撃音と共に大盾持ちの盾が吹き飛び、ついでに大盾持ちも吹っ飛んだ。さらに衝撃の余波は周りに居た冒険者をも吹き飛ばす。
四方八方に吹き飛んだ冒険者だけど、何が起こったのか理解しきれてないようで。
「いってえ」
「今のってなんだよ」
ふらふらと立ち上がる大盾持ちとフルプレートアーマー。黒装束と白装束に緑は立ち上がれず呻いてる状態だ。
「てめえか」
「くっそ。ぶち殺す」
「こ、ここではやめてください!」
「るせえんだよ! クソアマ」
立ち向かってくる二人だけど教会の外に向けて走ると、あとを追ってくる二人が居る。防御力の低い三人は一発で動けないようで。
ガチャガチャ音を立てるフルプレートと、大盾を引き摺って向かって来る奴。
外に出ると「勝負しろや。ぶち殺してやるから」と言って、剣を抜き向かって来た。
「ジーベンス」
指を差して魔法を行使すると瞬時に感電する二人。膝から崩れ落ち地面に伏した。
死んでないよね?
傍に行き確認すると生きてるようだ。教会からマリッカが出てきて「ヒロトさん! 倒してしまったのですか?」と言って倒れてる奴を見てる。
「死んではいないです」
「例え命を奪ったとしても主は赦しを与えますよ」
「いや、神様はそうかもですがスタッフが」
建物の中に入り倒れてる三人にもジーベンスで痺れておいてもらう。
「あの、人を呼んできますから」
「この冒険者たちは?」
「暫く動けないはずです」
一緒に、となりマリッカと共にギルドに向かうとアイナが少し驚いてる。
「スタッフを」
「ヒロトさん」
「はい」
「何を?」




