Sid.54 受付嬢が復帰することに
洞窟の探索も少しは進み三階層へと足を踏み入れている。
マッピングも上達してきたのか、以前より正確で分かりやすいし、何より記す速度も上がっていた。
「やればできるんですよね」
「ヒロト君も頑張ってるから」
「だよなあ」
「責任感が強いよね」
責任感はアイナの件だろう。あれから三週間は経過したけど、今も早朝と夕刻以降に家に行って、いろいろ話をして過ごしてる。寝るまで傍で付き添い起きても居る状態。もう少しで大学が夏休みに入る。そうすれば時間的な制約が外れるから、もっと傍に居てあげられる時間も増える。傍に居る時間が増えるとアイナに情が移ってくる感じだ。好き、なんて気持ちと勘違いする。本命はマリッカのはずだけど。
マメに来ることで、すっかり母親も馴染んだようで文句も出ないし。腹の底でどう思ってるかは知らないけど。信用って月日を掛けて得るものだし。一朝一夕に得られるものじゃないから。
マサたちはレベルが三十になった。新たにスキルや扱える魔法や精霊が増えたらしい。僕は確認してないけど、モンスターが弱いし数も少ないことで上がってないと思う。
「もっと頑張れば追い付けそうだ」
「十階層くらいまで行けばレベル上がりそうだよね」
「返り討ちに遭うぞ」
「ヒロトが居るじゃん」
頼るなとマサに窘められてる。自分たちの力だけで対処しないと、難易度が上がった際に対処できないってことで。
でもレベル三十なら神殿攻略もできそうだけど。
「神殿、行ってみませんか?」
「え」
「神殿って」
「僕が死に損ねた場所です」
そんな怖いところに行きたくないと言う面々だ。
「でも僕はレベル二十五で行きました」
「ヒロトは特別だからだよ」
「そうだよねえ。加護持ちだし」
「他の人と比較できないでしょ」
じゃあ、少し難易度の上がる当初予定していた洞窟、と言うと。
「レベルが上がるなら行きたいとは思う」
「でも四人だと駄目って聞いたけど」
「臨時で仲間を募りましょう」
と言うことで戻ったら臨時で仲間を募集し、試しにカヴェルノ・デ・プロヴォイ攻略をすることに。
今居るフェインカヴェルノよりモンスターとの遭遇率が高い。ゆえに四人程度だと行き詰まりやすいわけで。
この場所は遭遇率が低く下に向かうにも構造が複雑。一向に先へ進めず少ないモンスターを倒し、少々の生命力を得る程度だからレベルが上がり難い。
ギルドに戻りアイナの代理で立ってる受付嬢に話をするけど。
「くっそ愛想悪い」
「常勤じゃないんでしょ」
「臨時だから仕方なくって感じ」
まあ嫌われ方が凄い。マサが申請したけど終始仏頂面。誰が行っても同じみたいで、スタッフも少し困り気味だった。
あまりの仏頂面ゆえにマサが僕に助けを求めたくらい。
でも僕が行っても同じなんだけどね。むしろ悪化する。アイナを死なせそうになったから、それもあって印象は最悪だと思うし。
それでも用紙を入手し掲示板に貼り出しておく。
「すぐ来るかな」
「時間掛かりますよ」
「そう?」
「みんなと出会えるまで結構待ちましたし」
それまではフェインカヴェルノを攻略することに。
「まあ、少しでも稼いでおくか」
「一時的だと集まりそうにない気がするけど」
「でも今以上にメンバー増やしたくないし」
「一人二人ならいいと思うけど」
あまり人数が増えても纏まりが悪くなる。せいぜい六人くらいだろうか。それでも何かと揉めそうだし。意見の対立があった時に纏める力が無いと。
僕にはそんなのない。マサにはありそうだけど、人数が増えた時に通じるか否か。
だったら増やさない方がいいと思う。
応募があるまではフェインカヴェルノの攻略を続ける。
進むスピードが上がって四階層まで来てるけど、モンスターの出現率が低くてマップだけ完成度が上がる。
「マップ作りのために来てるみたい」
「そう言うなよ」
「でも十五階層より下だと難易度高くなるんでしょ」
「出てくるモンスターが強くなるらしい」
三人が僕を見て「ヒロトがメインなら」なんて言ってるし。僕が特別強いわけじゃないと思うけどなあ。
こうして募集も無く一週間が経過する。
夏休みに入ってることもあり、毎日アイナの家に行ってる。
「どうです?」
「何がですか?」
「フラッシュバック」
「あ、そう言えば」
治ってきてるようだ。
最近は毎日僕と一緒に居ることで、フラッシュバックが起きないらしい。もう克服できたと思うけど、どこまで付き合えばいいのか。
ずっと健全な付き合いだし。プラトニックでも今は満足してるみたいだ。キスくらいはするけどね。
「そろそろ大丈夫かな」
そう言うと寂しげな表情を見せるけど、ずっとってわけにもいかないでしょ。
ギルドの受付業務に復帰してもらいたいし。今居る人、あまりに不愛想で、お金投げてくるんだよ。態度が悪いって他の冒険者からも言われてるし。
アイナは当初素っ気なかったけど、それでも業務はちゃんと熟してた。今の子はちょっと、さすがにあの態度だと反感を買うでしょ。
「それもあって」
「ヒロトさん」
「なんです?」
復帰するそうだ。
「守ってくださいね」
「僕が居る時は」
「居なくても」
「む、無理です」
困らせても仕方ないし、そろそろ仕事に戻らないと貯蓄が底を尽きると。
母親に負担を掛けてるのもあると言って「長い休みになりましたけど、ヒロトさんのお陰で元気を取り戻せました」と笑顔を見せる。
「結婚、諦めてませんから」
「えっと、それは追々」
「あたしにはヒロトさんしか居ないと分かったんです」
一緒にいる時間が長かったから、互いに情が移った面はあると思う。でも情が移るのと恋心は別だと思うけどね。
アイナの気持ちは本物だとしても、僕の気持ちは今もふらふらしてるわけだし。
そして翌日からギルドに復帰したアイナだ。
あの不愛想な受付嬢は居なくなったけど、どこに行ったのか聞くと。
「違う部署で仕事してます」
「違う部署って」
「会計課です」
ギルドの金銭管理をする部署が本来の職だったらしい。
アイナが来れなくなり急遽、受付に回され嫌がるも短期間、と言うことで納得してもらったとか。
受付業務には金銭のやり取りもある。銀行業務に近いこともやる。だからお金の扱いに慣れた人が良いと言うことで。
「筋金入りの冒険者嫌いですけど」
「だからなんですね」
「今はほっとしたって言ってました」
ついでに嫌味も言われたそうだ。
「あたしが休むから、嫌な奴らの相手をしなきゃならないって」
二度とご免だと言っていたらしい。でもアイナだって被害者なんだけどな。
それを言うと理解はしてるそうだ。だから裏方に居れば良かったんだとも。表に出れば危険もあるだろうって。
まあ嫌いなのを好きになれって言うのは無理だろうな。確かに冒険者は粗暴で態度も悪いし。
メンタルケアが終了するとフリーパスも無くなるのか。アイナの面倒を見ている間は、一切お金が掛からなかったけど、これからはまたお金に羽が生える。
と思ったら。
「本来はお客さまでしたが巻き込んでしまったので」
今後半年はフリーパスを有効とすると。それをアイナのメンタルケアの報酬にするそうだ。
フリーパスゆえに予約不要でいつもで利用可。
「当面はアイナさんのメンタルサポートをお願いします」
ただ条件付きだった。再発防止も兼ねているらしい。あとは守って欲しい、と言うアイナの希望も込みで。
来れる時だけでいいし、無理して来る必要もない。
多少でも楽にはなるのか。
少し解放されたけど時々はアイナの傍に居る必要がある。家に行くこともあるだろうし。まあいいけど。母親も僕を少しは受け入れてくれたみたいだし。




