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Sid.51 受付嬢の自宅を訪問する

 ギルドを出て暫し歩くとマリッカの居る教会を通り過ぎる。

 先導するスタッフが教会を見ながら話し掛けてきた。


「ここのシスターとも仲が良いのですよね」

「え、まあ、そうです」

「以前に助けたのですよね」

「あ、はい」


 返事をすると黙々と歩く。何かないの?

 暫し歩き続けると木造三階建てのアパートだろうか。アパートとは言っても日本で見るものとは違う。ハーフティンバー様式で柱が外壁に露出したものだ。それ自体はヨーロッパでも多く見られるし、日本でも真似て作られた家屋はあるけど。

 建物の一階部分中央に出入り口があり、ガラスの嵌った格子戸となっている扉を開け中へ入るスタッフだ。


「こちらです」


 外で見ていた僕に気付いて声を掛け入るよう促してきた。

 スタッフに続いて建物内に足を踏み入れると、内廊下で階段室が目の前にあり二階へと上がる。

 階段を上がり二階踊り場に出ると右に進む。

 左右に延びる内廊下は部屋に挟まれ照明が照らす。廊下の先に窓があり幾らかの外光を取り込めるようになってるのか。

 照明? この光源って。


「あの」

「なんですか?」

「ここの照明器具」

「ああ、存じてないのですね」


 冒険者がせっせとモンスターを倒し入手してくる魔結晶。それの使い道はエネルギー源としてと説明された。


「定期的に交換は必要ですが使いやすさは電気に勝るとも劣りません」


 要は蓄電池のようなものだそうで。

 小さなものは、こうして住宅に使用される。


「あの、じゃあ」

「電球ですね」

「向こうと同じものですか?」

「少し違いますが概ね」


 廊下を進み部屋の前に立つと扉をノックするスタッフだ。

 コンコンコンと三回。木製の扉には部屋番号があるだけ。少しして扉が開くとアイナ、ではない違う女性が顔を出してる。


「ギルドスタッフのカレヴァです」


 スタッフの名前を初めて知った。あいさつに続いて用件を切り出すけど、顔を出した女性の表情は少し険しい感じだ。睨むように見てるけど歳はいってそうな。もしかして母親?


「娘さんの要望により連れてきたのですが」

「そう。じゃあ入って」

「失礼いたします」


 母親だ。娘と言っていたから。

 僕に視線を向ける母親だけど歓迎されてる気はしない。冒険者の諍いに巻き込まれたのだから印象が最悪なのだとは思う。どの面下げて来やがった、とか思われてそう。でもアイナが希望するから已む無く、なんだろうなあ。

 頭を下げ「この度は争いに巻き込み、大変申し訳ありませんでした」と言ってみるけど。


「謝るくらいなら最初から巻き込まないで欲しいものね」


 機嫌が悪そうだ。謝罪は逆効果だったかもしれない。

 室内に入るとリビングのようで部屋の中央にソファやテーブル。壁には飾り棚や食器棚がある。ドライフラワーも多く壁に下がっていて窓には薄手のカーテン。

 床にはセンターラグ。天井を見ると照明器具は無い。代わりにスタンド照明が複数。


「アイナさんの様子は如何でしょうか」

「呼ぶから待ってて」


 リビングの両側に扉が二つずつ。左窓側の扉をノックし開ける母親。

 ぼそぼそと会話を済ませると、ドタバタと音がして母親を押し退け、慌てて出てきたのはアイナだった。


「ヒロトさん!」

「あ、お邪魔してます」


 勢い向かってくると抱き着いて「ヒロトさん、嬉しいです」と喜んでるようだ。

 あの、急に抱き着かれても。スタッフと母親の視線が痛い。


「では、私は失礼いたします。あとはヒロトさんにお任せしますので」

「え、帰るんですか?」

「要望はヒロトさんを連れてくること、でしたので」


 そう言うと引き上げてしまうスタッフがいて、残された僕は母親に睨まれながら、アイナの抱擁に身を任せる状態に。

 居心地が悪い。心労を患わせた原因は僕だし。

 胸元に顔を埋めていたアイナだけど、顔を上げると「ごめんなさい。迷惑でしたよね」なんて言ってる。迷惑って言うか困惑。


「いえ。僕のせいなんで」

「そんなことないです」

「ちょっと目立ちすぎたんで」


 母親はソファに腰を下ろし腕組みして「アイナがどうしてもって言うから、こんな粗暴な奴を入れたけど」なんて文句言ってるし。

 抱き着いたまま顔だけ母親に向け「ヒロトさんは粗暴じゃない」と言ってる。


「冒険者なんて粗野で下品で迷惑にしかなってないじゃないの」

「そうだけど、でもヒロトさんは違うから」

「ちょっと優しくされて舞い上がってるだけでしょ」

「違うから。凄く強くても腰が低いし、言葉遣いも丁寧だし」


 で、延々と僕の良いところを主観でだらだらと演説してた。

 聞いてた母親も辟易とした表情だったけど。


「所詮作り物でしょ」


 やっぱそうだよね。人じゃないし。

 体は作り物。神の創造物ではあるようだけど。


「今は。でも近い将来ちゃんと人になるから」

「違う世界の存在でしょ。この世界に馴染めるわけ無いじゃない」

「ヒロトさんなら大丈夫」


 ですよね? なんて僕を見て言うけど、今も悩み中なんだってば。

 それにしても元気だ。僕が来たからかもしれないけど、PTSDを患ってても元気なものなの?

 僕が居なくなると、あの瞬間の記憶がフラッシュバックするのかもしれないけど。


「なんで冒険者なんかに」


 そう言って悲嘆に暮れる感じの母親だけど、改めて僕に視線を向け「責任取りなさいよ」だって。

 責任って、何をどうすればいいのか僕には分からない。結婚すればいいの?

 アイナを見ると「ヒロトさん、今はあんまり真剣に考えなくていいです」と言ってくれる。


「でも、あたしと結婚してくれることを願ってます」


 だよね。

 本命はマリッカ。次点でアイナ。優柔不断な僕に決断ができるのかどうか。


「結婚なんて認める気はないんだけどね」


 母親は反対。当然だと思う。素性どころか得体の知れない存在だし。人の体を得ても余所者には変わりないわけで。

 普通に考えても受け入れるのは無理だと思う。日本で異世界人をとなれば、大騒ぎになるだろうし興味が勝るだろう。受け入れるのも難しくはないかもしれない。既にフィクションで下地ができてる面もあるから。

 でも、この世界ではモンスターと大差ない狼藉者でしかない。受け入れるのは無理だろうなあ。


「ヒロトさん、気にしなくていいです」


 すでに少しずつではあれ、町の人も僕を認めてきていると言う。

 いずれ僕に関しては誰もが認めるだろうと。神もきっと認めると言ってる。まあ、神様が認めてるから加護を得てるんだろうけど。


「あ、そうですよ。加護持ちだし」

「そうみたいね」

「神様も認めてる」

「神様も間違うことはあるのね」


 違うと言ってるし。創造の神が間違うわけがないと。不敬だとまで言って母親を責めるけど、さすがに母親も「主に対して失礼だった」と手を合わせ天を仰ぎ「申し訳ございません。創造主よ」なんて言ってる。

 信仰心はあるんだ。


 深いため息を吐く母親だけど「神様が認めているのであれば、気に入らないけど仕方ないのかねえ」なんて諦め口調だ。

 母親だからこそ娘の幸せが第一なのは分かる。得体の知れない物体如きに娘が絆された、なんてのは嘆きしかないよね。

 ここでソファから立ち上がり僕とアイナの前に立つと。


「娘のためにありがとう」


 そう言って「娘の目が覚めることを願うけど、今はこれ以上何も言わないから」と言ってソファに腰を下ろした。

 アイナを見ると微笑んでる。母親もさっきのような不機嫌さはない。


「やっと感謝の言葉を口にした」

「あの、感謝されるようなことは」

「したんです。あたしのために」


 スタッフから聞かされているそうで。僕が六人組に対してやったことを。

 よくやってくれたと。母親もその点は評価してるらしい。

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