Sid.50 運営側から呼び出される
マリッカに伝えギルドに戻る際に武器屋にも顔を出しておく。
「調子はどうだ?」
「仲間ができたので」
「そうか。そいつらは信用できるのか?」
「できそうです」
そりゃ良かったとは言ってるけど。
「ここにマサさんは来てますか?」
「マサ?」
「えっと、重騎士の黒い髪と黒い瞳で、少し体格ががっちりした」
「あ、ああ来たな」
その人が仲間だと言うと「まあ悪い奴じゃないんだろうけどなあ」と少し引っ掛かる感じだ。
何か気になることでもあるのか聞くと「口数が少なく何を考えてるのか分からん」だそうで。口数少ないんだ。普段はそうでもないのに。仲間以外とはあまりしゃべらないのかもしれない。
僕以外の冒険者って、やっぱり住人とあまり接しないのかも。
「見下したり?」
「それは、ないな」
僕みたいな口調ではないが横柄でもない。用件だけ伝えて居なくなるそうで。金払いが悪いわけじゃないから、自分から話し掛けることもないそうだ。
「まあ、冒険者でヒロトみたいな奴は見たことが無いな」
「そうですか」
「腰が低い。言葉も丁寧だ。そして実力が桁違いだしな」
自分より上位の敵に立ち向かう強さ。無理して挑んでも死なずに帰還してくる。
レベル以上の強さがありながら少しも驕った部分が無い。だから信用できるそうで。
ちょっと照れてくる。
「まあ、また何かあれば遠慮なく声を掛けてくれ」
できる限り応えるようにすると言ってくれた。
武器屋をあとにしセヴェリさんとトゥオモさんにも伝えておく。
一か月は来れないことを。
「ヒロトは悪くないだろ」
「少々度を越した面はあってもな」
「いえ、確かに少しやり過ぎた感じは」
「他の冒険者の方が余程酷いぞ」
トゥオモさんも被害を受けてるから。
「ヒロトのお陰で助かったけどな」
「俺らからも言っておいてやるよ」
僕に罰を下すくらいなら他の冒険者を何とかしろと。現時点で信用に足る冒険者は僕しか居ないとも。
そんな状況で罰を下すなんてあり得ないそうだ。
徐々にだけど町での評判も良くなってるそうで。ただし僕だけ。他の冒険者に対しては誰もが嫌っているそうだ。僕と行動を共にする三人に対しては、多少ましだとは思うそうだけど。ただ、町の人たちはそうは思っていないらしい。
「だからな、仲間であってもヒロトが注意してくれ」
「あ、はい」
「ちゃんと人として接してくれるのがなあ」
僕しか居ない。だからこそ、それを変えて欲しいと願うそうだ。
なんか期待されても難しいとは思う。所詮はゲームと認識する連中が圧倒的多数。ゲームじゃないと理解してくれないと、どうにもならないよね。
そして簡単に人の命を奪おうとする冒険者。地球でそれをやればどうなるか。
この世界なら好きにできる、そう勘違いした人が多過ぎるんだよ。もっと基本的な部分から教育しないと駄目なんだと思う。
門衛の二人と別れるけど「もっと力を付けて有無を言わせない活躍、期待してるぞ」だって。
あんまり差が付いても疎まれそうだけど。嫉妬も凄いし。
ギルドに戻るとアイナの表情が一変した。
僕に気付く前の表情は沈んでたけど、見た瞬間、華やいだような笑顔になったし。放置できないから傍に行くと「もう帰るんですか?」と悲しげだ。
「ずっとは居られないし」
「居て欲しいです」
「まだ無理だから」
抱き締めて欲しい、と言われカウンター内に招かれ抱き締めるけど。これやるとギルド内に少なからず居る冒険者が呆れるんだよね。
周りの目を気にしても仕方ないんだけど。
僕の腕の中で安らぐアイナが居る。今日はさすがに恐怖心を抱いただろうから、まあこれも仕方ないと思う。頼れる存在を欲してるだろうから。
「あの、時間なんで」
「もっと一緒に居たいです」
「えっと、今度来たら」
寂しそうだけど今は無理だし。
離れてキスを軽くすると「一か月は長いです」だって。
縋りたそうなアイナと別れ待機室に行き、リコールを済ませるけど「予約に関しては二週間前まで取れません」だそうだ。
いつもなら帰ると同時に予約してたけど、今回は二週間の懲罰的インターバルがあるらしい。仕方ない。
それと六人組は二度とこの世界に来れないことで、部分損壊した肉体は分解廃棄処分したそうだ。新たに作られることもない。
今後のこととしてアーススパイアホールでは、ギルド職員への武力行使や威嚇行為等を行った場合、大きなペナルティがあることを周知するらしい。
二度と今回のような事例が発生しないよう徹底させるそうだ。
言っても無理だと思うけど。そもそもゲームとしか認識しないんだもん。この世界の人を人と認識できてない。
根本から認識を改めさせないと。有効な方法はないけどね。
リコールを済ませ日本に戻ると、しんどい日常が始まる。
でもそれは唐突に終わりを告げた。
スマホにメッセージが入っていて「至急、最寄りの施設にお越しください」と運営側から連絡が来た。
意味が分からないし。
でも呼び出されているようだから、授業を終えた時点で向かうことに。
もしかして二度と向こうに行けないとか。処罰が軽すぎたから重くするとか。でもそれなら呼び出す必要は無いか。
いつも行くアーススパイアホールに向かい、受付でメッセージをもらった件を伝えると「こちらへどうぞ」と案内される。
どこに、と思っていると個室だ。ソウルシフトするための。
「あの、用件ってなんでしょうか」
「現地で話がありますのでソウルシフトしてください」
「え」
「今日は短時間で済むはずです」
い、いやいや。だって一か月行けないって。と言っても無駄なようで、機械のセッティングを済ませ「では、いってらっしゃい」と送り出されてしまった。
視界が見慣れた待機室だ。
周囲を見るとスタッフが二人居て「重要な仕事になるので」と訳が分からない。
「あの、重要な仕事って」
咳払いをするスタッフが居て、居住まいを正すと「受付嬢の件なのですが」と言う。アイナがどうかしたのだろうか。
「PTSDに似た症状を見せているので」
「こちらでもカウンセリングをしたのですが」
依存が激しい状態で手に負えなくなっている。精神的に不安定になっていて、打開策として僕が呼ばれたという。
カウンセラー程度では改善せず悪化するばかり。業務にも支障が出て、さりとて冒険者が原因である以上、運営側が下手に出るしかない。
「それと当事者の要求もありまして」
僕を寄越せと。居ないことで不安感が増大し、あの瞬間を思い出して寝ることもできないそうだ。
頭が痛い。でも本当に精神面で不安定になってて、僕が必要なのであれば協力するしか無いのか。
「あの、僕は大学とかバイトもあるんですが」
「ずっとではありませんし、一日一時間から二時間でも」
余裕のある時に来て欲しいそうだ。一応目安としては改善が見られる程度まで。
今回は現地の住人からの要請、と言うことで代金は一切発生せず。住人のメンタルサポート名目で来れる日に数時間。できれば毎日。昼夜問わず。
アイナをクビにして代わりを、と言うわけにもいかないようだ。精神的な負担を掛けたのは地球から来た冒険者。迎え入れた責任を取らざるを得ない。
「えっと、アイナさんは?」
「今は自宅待機中です」
「ヒロトさんは我々と一緒に」
と言うことでスタッフ一名と共にアイナの自宅へ。
ギルドを出る際にカウンターを見ると、別の女性が居て僕と目が合う。
「あの人は?」
「臨時雇用した受付です」
「睨まれた気がしたんですが」
「気のせいです」
僕のことは教えてあるそうだ。
でも睨まれた気がしたけどなあ。アイナを情緒不安定にした、そう思われてそうだし。




