Sid.49 愛はより重く寵愛が近い
六人組はスタッフにより拘束され町へ連れられる。人数が多いことで町の衛兵も呼ばれ全員が運ばれた。
僕も町に戻るけど両側にスタッフが居て、反抗すれば即座に拘束されるようだ。特殊な魔法具を装備しているらしく、仮にレベルが百あっても太刀打ちできないらしい。逆らいようがないんだ。だったらもっと早く対処してよ、と思うけど。
スタッフには冒険者の行動を制限し、拘束し罰する権限があるらしい。
ギルドに着くとカウンターにアイナは居ない。代わりにスタッフらしき人が一人。
「アイナさんは?」
僕の両側に居るスタッフに問うと「待機室で安静にしてもらっています」だそうで。
「ヒロトさんを気に掛けていましたけどね」
会って安心させ慰めてやって欲しいと。震えていてショックを受けているようだから。
怖い思いをしてるよね。冒険者のような戦闘力は一切無いんだから。力の権化みたいな冒険者が力を見せ付ければ、恐れおののくのも当然だろうし。
つくづく後先考えない冒険者に腹が立つ。
待機室に入るとマサたちが居て、僕を見ると「まさか二度と来れないとか?」なんて言ってる。でもすかさず「今回も、ですが特例で二か月出禁で済ませます」と言われ安堵した感じだ。
今回「も」だよね。これで冒険者と揉めたのは三回目だし。ただ、いずれも住人を守るための行動。行き過ぎではあっても、放置すれば悲惨な結果をもたらした可能性もある。だから情状酌量の余地が大いにありと。
「ただの遊興や私怨であれば、こうは行きませんから」
スタッフから待機室の別室に案内された。
「こちらに」
別室にはベッドがありアイナが寝かせられている。
「では、よろしくお願いしますね」
そう言ってスタッフが立ち去り扉が閉じられると、アイナが僕を見て泣き出した。
傍に行くと震えながら起き上がり抱き着いてくる。頭を撫で、ごめんなさい、怖い思いをさせちゃってと言うと。
声を張り上げ泣きじゃくるアイナだ。
少しして落ち着いたようで「ヒロトさん」と口にしてる。
「怖かったですよね」
頷くけど僕を見つめ「ヒロトさん、急に出て行くんで」と、また揉め事で死んだりしないか心配になったそうだ。
ただ、同時に僕であれば返り討ちにするのだろうとも。
「ヒロトさん、あたしのために怒ってくれたんですよね」
「当然です」
怒りが収まらなかった。本気で殺すつもりで対峙したのだから。
抱き着いて僕の胸に顔を埋め「ありがとうございます」と言って、また泣いてるし。
今回は本当に紙一重で助かったに過ぎない。もっと注意していないと、次はアイナやマリッカが死んでしまう可能性もある。他の冒険者には注意が必要なんだろう。
何を仕出かすかわからないのだから。
僕が助けなければ誰も助けようとはしないだろう。マサたちは抵抗してくれるかもしれないけど、本気で戦闘になれば厳しいだろうし。
この世界に自分が居ないとアイナやマリッカを守れない。でも日本の生活は捨てきれないし。
居ない間に今回のようなことがあったら、悔やんでも悔やみきれない。
「アイナさん」
「は、はい」
僕から抱き締めると身を委ね「ヒロトさん、嬉しいです」と言ってる。
やっと安心できたのか「もう大丈夫です」と言って離れるようだ。
「本当に大丈夫ですか?」
「ヒロトさんの気持ちが伝わったので」
自分のために行動してくれた。それが何より嬉しく思うそうだ。
「仕事に戻らないと、ですね」
「無理しなくても」
「本当に、もう大丈夫です。ヒロトさんが居るので」
ベッドから出ると一緒に立ち上がり、抱き着いてきて顔を寄せてくる。これはあれだ。
唇を重ねてくるアイナが居て体感五分のキス。顔が離れると頬を赤らめ「ヒロトさんなしでは生きていけないです」なんて言い出した。
「え、いや、でも」
「もらってください」
「で、でも」
「あたしの身も心もヒロトさんのものです」
そう言われても。
扉がノックされ開けると「そろそろいいですか?」とスタッフに出るよう促された。
アイナは休んでいてもいい、と言われるが業務に戻るそうで。
部屋から出る際に僕の腕に絡むアイナが居る。離れたくないんだろうなあ。元より惚れられていたけど気持ちがさらに強くなっていそうだ。
「あ、ヒロト」
「なんか、いつも通りなんだね」
「危機的状況って聞いたけど」
マサたちが居てフラウもすでに戻っているようで、僕とアイナを見て呆れた表情をしてるし。
「結婚して一生傍に居てやれよ」
「そうだよね」
「目一杯祝福してあげるから」
そんな状況で水を差すのはスタッフだ。
「事情聴取が必要ですので」
アイナは業務に戻りマサたちはリコール。僕だけ居残りで事情を聴かれることに。アイナが業務に戻る際に「ヒロトさんはあたしのために行動したんです。悪くないはずです」とスタッフに詰め寄ってたけど。
そのアイナの証言もあることで、二か月間の出禁が一か月で済むことになった。洞窟内での出来事に関してもマサたちが証言し、僕に非が無いと理解してるそうで。
「これで三度目ですが」
「なんか絡まれるんです」
「嫉妬からでしょうけれど」
妬み嫉みや悪意が僕に向く。何かしら対策が必要かもしれないと。
それと僕に関しては情報を出さないことしたらしい。知るから嫉妬される。知らなければ他の冒険者と同じと看做すであろう。
元々僕の場合は活動が散発的。今は騒ぎになっても情報を出さなければ、いずれ鎮静化し忘れてくれることを期待するそうだ。
そう言えば、そんな奴も居たなあ程度が望ましい。
すでに時間が三十分ほどオーバーしてるようで。
「どうしますか?」
事情聴取の時間はプレイ時間に含まれない。少し時間があるから教会なり、アイナと少し話してきても良いと。
また一か月は来れないからマリッカにも説明しておこう。
「あの、教会とアイナに」
「では三十分だけですが」
と言うことで待機室を出てアイナには教会に行く、と伝えるけど「ヒロトさん。あたしにはヒロトさんしか居ません」とか言ってるし。重い。
「えっと一か月来れないんで」
「仕方ないですね。でもヒロトさんはあたしと、ですよ」
命の危機に曝されたし今はそう思っても仕方ないよね。熟考しておく、と言ってギルドを出て教会に向かうとマリッカがちょっと驚いてる。
「ヒロトさん?」
「あの、言っておくことが」
「え、なんでしょう?」
一か月来れないと伝えると「何かありましたか?」と聞かれ、ギルドで起こった一連のことを伝えると「ヒロト教信者が増えてしまいますね」って、何それ。
「私の身も心もヒロトさんと共にあります」
ここでも重い。
「ヒロトさん」
「え、はい」
「きっと神の寵愛を受けることでしょう」
その時には新たな体を得て新たな存在になるはずだと言う。またよく分からないことを。
日本から離れるのは無理なんだけど。マリッカと一緒に居たい気持ちはある。アイナも守ってあげたいし。でも日本の生活は捨てきれない。
「問題ありません」
単に今と逆になるだけだと。日本にある体が神の創造物に置き換わるだけ。こっちが本体になるから問題無いとか言ってるし。
誰が管理するのさ。まさかスタッフ?
僕の疑問に対する答えがね。
「いいえ、意識の無い間は私が管理します」
あれこれ楽しんじゃいますよ、なんて言ってるし。ねえ、何する気? ちょっと怖いんだけど。
「あれこれは冗談ですが、必ず選択を迫られる時が来ます」
それまでに腹を括っておいて欲しい、と言われてしまった。
神の寵愛を受ける条件を着々と満たしてきているらしい。それと同時に加護も強化されるはずだと。
逆に怖さを感じる。




