Sid.48 魔族の言葉を試すことに
以前、三十分程度は時間を取ると言ったまま放置してたんだっけ。まあ夏休みに入ってからの予定だったんだけど。
アイナも本気みたいだし、その分も含めての一時間は已む無しか。
僕の何が良くてと思わなくもない。それを言ったらマリッカもそうだけどね。
「じゃあ、もう少ししたら余裕ができるんで」
「一時間ですよ」
「ギルドの仕事はいいんですか?」
「休憩時間ありますよ」
そういうことね。
「じゃあ、僕も戻りますんで」
カウンターから離れようとしたら、ギルドの入り口付近から大声がした。アイナと僕が視線を向けると。
「居るじゃねえか」
「逃げやがって」
「ちゃんと話をしようぜ」
洞窟内で撒いた冒険者連中だ。揃いも揃って敵意剥き出し。
「あ、あの、ヒロトさん」
「ちょっと揉めてたんでスタッフを呼んでもらえます?」
「あ、すぐ呼びますね」
アイナがカウンター後方の扉を開けようとした瞬間、アイナの頭を掠めるように氷の矢が壁に突き刺さった。
「ひっ!」
「アイナ!」
咄嗟にカウンターを飛び越え怪我の有無を確認。
驚いて腰が抜けたのか、しゃがみ込むと震えているのが分かる。一歩間違えればアイナに当たっていたかもしれない。ふざけたことをする奴らだ。本気でこの世界の住人の生死を問わないのか。
怒りが沸々と湧き上がってくる。こんな奴らを野放しにしていいはずがない。
「あっぶねえ」
「もうちょっとで脳天直撃だったな」
「それはそれでおもしれえけどな」
笑いながら話をする六人組だ。
手が怒りに震えてる。冒険者の中には住人を人と思っていない奴らが多い。ただのNPCくらいの認識なんだろう。
でも彼ら彼女らは、この世界で間違いなく生きている。僕らの世界とは違う理ではあっても、決してプログラムされたキャラクターじゃない。
カウンターを出て六人組に向かうと「お、なんだ? 怒っちゃった?」と軽くせせら笑いながら言ってる。
「表に」
「は?」
「表に出てください」
「はあ?」
中で暴れたらアイナが巻き添えになるし建物が損壊する。
「表に出てください。僕が話を聞くので」
六人組が入り口を塞いでいるけど、お構いなしにぶつかって突っ切ると怒声が飛んだ。
「おいこら!」
「ぶつかってんだろ」
全員殺す。こんな奴ら二度とこの世界に来させない。
無視して外に出ると、ぞろぞろと追って出てくる単純な奴らだ。こっちが一人ってことで完全に舐めてるんだろう。
全員が外に出るのを確認して走る。決して逃げ切るためじゃない。街中で被害をもたらさないためだ。
案の定、単細胞生物レベルの脳しか持たないクズが追い掛けてくる。
「てめえ逃げてんじゃねえよ」
「ぶち殺してやるからおとなしく捕まれや」
追い掛けてくる六人組の足は速くない。むしろ遅く感じる。
レベルが高いわけでもないのか。それとも。
追って来るのを確認しながら進むと、氷の矢が複数飛んでくるから、極小サイズの爆炎弾で排除しておく。
練習しておいてよかった。周囲に被害を出さずに済む。
門まで進むとセヴェリさんとトゥオモさんが目を丸くしてる。
傍を通り抜けると「ヒロト、どうした?」なんて言ってるから、門から離れて追ってくる奴らを通してください、と言っておくけど。
「どういうことだ?」
「言った通りにしてください。巻き添え食らいます」
「い、いや意味が」
バタバタと追ってくる六人組に気付いたようで「追われてるのか?」と。
「手を出さず通してください」
「わ、分からんが、ヒロトがそう言うなら」
門から離れ走ると少し距離を取る門衛二人。勢い怒声を張り上げ追ってくる六人組。
「くっそ、意外と足が速い」
「逃げ足だけで生き延びて来たんじゃね?」
「攻撃力はさっきのあれで分かった」
「あのちっせえ炎の玉程度だ」
ぶち殺してやるから止まれとか言ってるし。逆だっての。僕がお前らを殺すんだから。
町から少し離れると炎の玉や氷の槍が飛んでくる。追い付けないから魔法で足止めしようとしてるんだろう。適当に躱し立ち止まり振り向くと。
「やっと止まりやがった」
「死ぬ覚悟ができたってか?」
「すぐには殺さねえからな」
「甚振ってじわじわ殺してやる」
物騒なことを口にする連中だけど、それをするのは僕だ。魔族のあの人が言っていた。指を一本ずつ捥いでじわじわ甚振る。恐怖を植え込み二度とこの世界に来たい、と思わせないようにするのだと。
レベル差がどの程度あるかは分からない。でも強力な魔法を使わないってことは、大したレベルじゃないと思う。
全員が追い付き対峙すると指先を六人組に向ける。
「何差してんだよ」
「こいつ」
「なんかむかつく奴だな」
「ジーベンス!」
細い針の如き雷撃。六人同時に攻撃すると、発動と同時に感電し全員が麻痺したようだ。死ななかったようで充分加減ができた。
倒れて身動きが取れないようで、足掻こうとするも声すら真面に出ていない。
近付くと怒りに満ちた目で見てくるけど、幾ら威嚇しても無力でしょ。
一人の傍にしゃがみ込み指を掴む。
「さっきあなたたちが言ってたこと」
実行してみるから耐えて、と言ってみる。そして掴んだ指を手の甲側に逸らす。そのまま勢いよく音がするまで逸らすと。
悶絶する冒険者だ。この程度じゃ捥げない。捻って引っ張って回して最後に勢い引き抜く。
涙を流して悶絶してるようだ。
続いてもう一本も同じように。
片手五本を全部引っこ抜くと、鼻水も涎も涙も流し懇願する目付きになってる。
「や、や、め」
血塗れになる手だけど、ここで遠慮していたら体を治して仕返しに来るだろう。もう片手も同じように指を引っこ抜く。さらに足だ。
どうやら僕の行動を見ていた連中も恐怖で表情が歪んでる。
睨むと目を剥き全員が懇願してるような。でも容赦はしない。アイナに向けて魔法を放ち、あまつさえ死んでもと笑いながらそれもまた面白い、などと言っていたのだから。
一人ずつじっくり嬲る。
全員の手足の指を捥ぎ終える頃には、絶望的な表情を見せる連中が居た。
相変わらず痺れから回復しないようで。
「次は皮を剥ぐから」
腕の皮。足の皮。切り込みを入れてベリベリと剥ぐ。脆いんだな。この仮初の肉体ってのも。
皮を剥ぐと皮下の血管が露になり掴んでぶち切る。
気を失う奴も居るようだけど、電気ショックレベルにしたジーベンスで叩き起こした。
全員同じように腕と足の皮を剥ぐと、町の方から駆けてくる存在が三人。
「ヒロトさん! もうやめてください」
「それ以上やると、こちらも相応の処罰が必要になります」
運営の人たちだ。
とっくに冷静になっていたんだけど、とりあえず狂気を装っておくべく睨むけど。
二人が僕を取り押さえようとするから、狂気はやめて冷静だと告げることに。
「魔族の人が言っていました」
「何を?」
「心を折るのだと」
惨状を目の当たりにして「やり過ぎです」とは言ってるけど、六人組がアイナに攻撃した事実があることで、僕に対して二か月間出入り禁止の処置で済ませるそうだ。
「それとギルド職員を攻撃したので、彼らは全員出禁とします」
本来であれば冒険者の助けになる存在。この世界の窓口でもあるわけで。それを殺害しようとした以上は、厳しい処分を下さざるを得ないそうだ。
この世界で僕らが活動する上で、ギルド職員の身の安全は地球側が保証する。絶対に危害を加えられないようにすることで、ギルド職員は安全に行動できるらしい。
それが脅かされたわけで。
「それにしても」
「この連中、レベル四十以上はあるんですがね」
「つくづくヒロトさんは」
大物食いだそうで。しかも圧倒した上で制圧してしまう。強過ぎるそうだ。




