Sid.47 一時間でも欲しい受付嬢
正確なマッピングができていれば、走って逃げても現在地を把握しやすい。
フラウの作成したマップを見て確認すると、最初の頃より正確性が増してるのが分かった。あとは効率よく作成して行ければ、二階層以降に進むことができると思う。
マッピングの際に一点、気を付けておきたいことも分かった。
「地形情報も詳細に記録しておくと、迷子にならずに済みます」
全部じゃなくていい。分岐点の情報が詳細であれば、現在地の確認をしやすくなる。要は目印となるものだ。左右に分かれる支洞なら、足元はどうか、壁の状態はどうかなど。
「仮にマーキングしても戦闘の際に消失する可能性が高いですし」
だから地形情報を詳細に記録しておく。と説明すると感心されるけど。
「ねえ」
「リーダーって」
「ヒロトか?」
三人の視線が集まり「リーダーは冷静沈着で分析できるヒロトが」とか言い出した。冷静沈着でもないし分析でもないし。学校の成績だけが拠り所だっただけで。
他に取り柄らしい取り柄も無い。そんな僕がリーダーとか無理だって。
そう言っても謙遜するなと言われて「戻ったらリーダー選挙だ」と言うマサが居る。フラウもヴィーラも同調してるし。
勘弁して。
残り時間も少なくなってきたことで戻ることに。
一応念のため、さっきの六人組には警戒しておく。鉢合わせになったら殺しに掛かってきそうだし。PK禁止、なんて言っても知性の無い存在には意味がない。
本能だけで行動する輩に規則は役立たないし。スズメバチみたいなものだ。敵と認識すると追い掛けてでも殺す。
洞窟を出て町へ戻ると杞憂だったようで、あの連中とは遭遇せずに済んだ。
ギルドに入るとアイナが手を振ってるし。カウンターに向かうと笑顔を見せる。
「なんです?」
「今日の成果は?」
「少しだけです」
「そうなんですか?」
主にマッピングに慣れることと、戦闘は僕以外でとしたから。
マサが来て「これが今日の成果」と言って、魔結晶を並べるけどいつもより少ない。
「少ないですね」
「戦闘が主目的じゃないからな」
「じゃあ何をしに行ったんです?」
「マッピングに慣れるのが目的」
慎重だと言われた。
「でも、そのくらいが良いと思います」
「だよなあ」
「ヒロトさんは、このあと」
「えっと、教会」
途端に不機嫌そうな顔を見せるけど「仕方ないんですよね」と諦めた感じだ。
「戻って来たら、あれですよ」
「あれ?」
「毎回してるじゃないですか」
キスだ。その先へ進みたいようだけど、今の体じゃどうにもならない。だからキスで我慢してるわけで。
隣でにやけるマサが居て、後ろに居たフラウとヴィーラもにやけてるし。
でもフラウは一瞬だけ違う表情を見せたような。
「あの、行ってきますので」
「長いんですか?」
「いえ、時間も無いので」
「あ、そうだ。俺たちも今日は行く」
邪魔するなって感じのフラウとヴィーラだけど、教会で祈りを捧げることで、万が一にも加護を授かれば儲けもんだと。
「いってらっしゃい」
アイナに見送られ四人で教会へ行くことに。
教会に着くと少し驚いた表情を見せるマリッカが居る。
「みなさまで祈りを?」
「そうみたいです」
「たまには神様に感謝しないとな」
「下心しかないけどね」
最初は下心でもいいだろ、と言うマサだ。いずれ信心深くなれば、なんて言ってるけど無理そうな気がする。
祭壇の前に立つと跪いて祈りを捧げ寄進する三人。各々銅貨二枚。僕もと思ったけど拒否され「必ずいらしてくだされば、それで充分なので」だそうで。
マリッカがそれを口にすると冷やかされるんだよね。さっさと結婚しろって。
今回フラウがマリッカに相談がある、と言い出した。
「なんだ? 相談って何をしたいんだ?」
「マサには内緒」
「なんだそれ」
僕を見てマリッカを見ると「少し時間を」と言って僕らには「先にギルドへ」と追い出す感じだ。
マリッカに視線を向けると「ヒロトさん。次回お待ちしてますね」と言って戻るよう促してきた。
フラウの表情から何かを感じ取ったのかな。電車の中でも何か考え込んでる感じだったし。この世界に関係することなんだろう。僕が知ってることを聞きたそうだったし。
「待機室で待ってるぞ」
「うん。終わったら行くから」
フラウを残し教会をあとにしギルドへ戻ると。
「早いですね。他の人が居て、あれ?」
「フラウさんはマリッカさんと話をしてます」
「え、そうなんですか」
じっと僕を見つめるアイナだ。
「気になることでもあったんですかね」
「たぶん」
「ヒロト。何か知ってるのか?」
「いえ。何となくです」
僕から言うことじゃない。直近の様子から気になることがある、とは思うけどね。
カウンターに身を乗り出し耳打ちして来るアイナだ。
「ヒロトさん、知らないんですか?」
「知らないですって」
「知ってそうな気がしたんですけど」
そういうところは鋭い。帰りの電車が一緒だから、何気に話をしてて何かしら考えることができた。そう思うけど聞く気はないし、本人が口にするまで聞かないことにしてる。
馴染めていることが羨ましい、とか言ってたのもね。自意識過剰かもしれないけど、僕を見ていて自分も馴染みたい、とか思ったのかもしれないし。
どうやって、この異質な世界に馴染めるか。その相談であれば僕の方がいいとは思うけど、僕が率先して話をしないから、か。だからマリッカに。
「アイナさんだとなあ」
「なんです?」
「あ、いや」
「あたしだと何です?」
追及してくるけどアイナだと相談って雰囲気じゃないな。教え導く仕事がシスターであれば、そっちに相談した方が欲しい解を得られやすそうだし。
「ヒロトさん。あたしだとなんなんですか?」
「えっと」
「あのさ、あんまり押すだけだと離れるぞ」
「え?」
マサが横から口を挟み「押すだけじゃなく、時には引くことも覚えた方がいい」なんて言ってるし。
違うんだけど助け船になってるから乗る。
「少し控えめな感じの方が」
愕然とした表情を見せるアイナだ。マサを見て僕を見ると「鬱陶しいってことですか?」とか言い出すし。違うってば。
マリッカは控え目ながらも押しの強さを見せる。アイナは押す一辺倒だから腰が引ける、と言うと。
「でも、これがあたしなんです」
「ですよねえ」
「それじゃ駄目なんですね」
「駄目じゃないですけど」
猪突猛進型のアイナ。僕との相性はたぶん悪くないとは思う。優柔不断だから決断力に優れる人の方が、とは思うし。
でもマリッカは安らぐ感じだし。アイナだと疲れるのもあるんだよね。
癒しの存在っていいなあ。
「ヒロトさん。さっさと帰りましょう」
「え」
「また今度、楽しみに待ってるんで」
「いや、そうじゃなくて」
行動が極端。振れ幅が大きいと疲れるってば。
「じゃあどうすれば」
「そのままで充分です」
「でも気にしてもらえないです」
「気にはしてます」
真剣に想いを寄せて本気で心配してくれる。気持ちの強さは充分感じ取れるから。
だからこそ決められずに居るわけで。でも七割マリッカだけどね。残り三割がアイナ。これはそう簡単に覆りそうにない。
もっとアイナを知れば、どう転ぶかは未知数。
「じゃあまた来ます」
「ヒロトさん。忘れものですよ」
あるんだ。
顔を近付けると頬を掴まれ強引に奪われる。体感三分くらいかなあ。
「先に待機室に行くからな」
「どうぞごゆっくりぃ」
マサとヴィーラは先に行くと言って、薄ら笑いを浮かべながら向かった。面白がってるよなあ。
唇が離れると見つめながら「あたしに一時間ください」と言うアイナだ。
「一時間?」
「ゆっくり話をする機会が無いんです」
いつもカウンター越し。




