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Sid.44 シスターが天啓を授かる

 なんかぶつぶつ言いながら教会をあとにする冒険者たちだ。主に僕に対する猜疑心の類だ。チートとか口にする人も居たからね。明らかに嫉妬も混ざってる。

 レベルに合わない強さとか加護とか、確かにチートっぽいけど、望んでそうなったわけじゃない。

 マリッカが傍に来て「気にする必要はありません」と言ってる。


「あ、別に気にしてませんよ」

「嫉妬心は誰にでもありますから」

「仕方ないですよね」


 嫉妬や欲望があるうちは神の加護は授からない。彼らがそれに気付けるか否か、と言えば無理だろうとマリッカは言う。


「私もまた嫉妬してしまいます」

「え」

「ヒロトさんは分け隔てしない方なので」


 アイナに気持ちが傾かないか気になるそうで。今のところ問題無いんだけど。ただ、二人とも本気だとすれば僕も揺れるわけで。

 ああ、やっぱり優柔不断。これ程に好意を向けられた経験が無いからだ。

 じっと見つめてくるけど、先に祈りを捧げるってことで。


「では祭壇の前に」


 跪き祈りを捧げるんだけどマリッカの様子が少し変だ。

 祈りながら涙を流し震えてる。祈り終えると僕を見て「天啓を授かりました」と言って僕の手を取り「ヒロトさんの身に」って言ってる。

 天啓? 僕の身にって何?


「あの、それって」

「ヒロトさんに近い将来厄災が訪れると告げられました」

「え、厄災?」

「はい。加護を凌駕してしまう悪意」


 人の負の感情が集まると時に加護を上回る。何か良からぬ存在が接近する可能性があり、充分に注意して欲しいそうだ。

 それにしても天啓を授かるって、本当に神様って居るんだね。加護も授かってるなら居て当然か。

 でも。


「その、良からぬ存在って」

「分かりません」


 何かあるんだろうけど。まあ注意するに越したことはないのか。モンスターとかじゃないんだろうな。悪意って言うことなら人なんだろう。もしかして逆恨みされてるとか、嫉妬心から貶めるとかあるのかも。

 プレイヤーキルも増えてきてるらしいし。


「気を付けてみます」

「中途半端でごめんなさい」

「い、いやいや、気にしないでください。充分ですから」

「ヒロトさん」


 またも抱き締められて「ヒロトさん、必要な時は形振り構わず逃げてください」と言われる。

 少し震えるマリッカだ。


「あの」

「はい」

「天啓って聞こえるんですか? それとも見えるとか」


 真剣な表情をするマリッカだけど「ぼんやりと、その、瞬間が見えるのです」だそうで。

 その瞬間って何かと問うけど、悲惨な状況が一瞬、脳裏に浮かぶ感じなのだとか。

 悲惨ってことは、この体に何かしら悲劇がってことかも。死ぬのかも。だから震えてるのかもしれない。


「充分注意します」

「はい。ヒロトさんは大切な方なので」

「でも、この体なら復活できますよ」

「存じてます。ですが怖いのです」


 抱き着いていたマリッカだけど離れると「こちらへ」とヴェストリーへ案内された。前にも来たけど準備室って奴だ。時間は大丈夫か問われ十分程度ならと。

 椅子に腰掛けてと言われ腰を下ろすと、対面に腰を下ろし「多くの冒険者や職員の方も存じていないことなので、内密にして欲しいのですが」と真剣な表情のマリッカが居る。


「異界の方の肉体は失っても復活できます」

「あ、はい」

「ですが、変質してしまいます」

「え」


 変質って何だろう。

 内密ってのも気になるけど。


「完全に同じとはなりません」


 テーブルの上に手を置き、じっと見つめてる。口にしづらいことなのかもしれないけど。

 無言で居られると、どうすればいいのか。


「実は」


 マリッカの口から凡そ考えられないことを告げられた。そんなリスクは運営から聞かされてない。それをマリッカに言うと「ですから存じていないのです」と。


「あの、それって神様が?」

「魂、と言えば分かりますか?」

「えっと、運営は精神体って」

「変質してしまいます」


 マリッカには特殊な能力があると言う。誰にも公言せず黙っていたそうだ。


「特殊な能力って」

「魂を見ることができます」

「え」

「肉体に宿る魂です。ヒロトさんが精神体と呼ぶものです」


 一度でも強制的に分離すると変質してしまうと言う。


「ヒロトさんが訪れる際に利用する施設は、安全な設計を施されています」


 しかし施設以外で魂が分離すると、形質に変化が起こってしまい、同じとは行かなくなるのだと。

 どういうことなのか分からないけど、とにかく元の状態ではないらしい。


「人の魂は本来真球であり、仄かに淡い白色をしています」


 しかし、罪を犯す毎に歪になり色も濁って行く。多くの人は無意識に罪を犯すこともある。ゆえに真球を維持することは難しい。大きな罪を犯していなければ、ほぼ球体を保つものだそうだ。


「色も多少濁りはありますが、淡い白色と言って差し支えないです」


 大罪を犯せば魂は黒く染まる。


「強制的に排除された魂は歪な形状と灰色になってしまうのです」


 つまり犯罪者と似たようなものになると言う。


「えっと、それって罪なんですか?」

「おそらくですが、命を軽く考えてはいけないのだと」


 アバターであれば死んでも復活できる。それこそ回数に制限がない、となれば命を軽く考えてしまうだろう。ゆえに大切に扱う意味でも魂に刻むのだろうと。

 神があえて、そうなるようにしているでは、とマリッカは考えるそうだ。

 神が定めたのかどうかは分からないとは言う。でも魂が見えると言うことは、人を導きなさいと言っているのだろうと考えるそうで。


「えっと変質すると、どうなるんです」

「性格も変化します」

「それって悪い方ってことですよね」

「そうです」


 悪事に対して抵抗感が薄れてしまう。悪いことだと自覚できなくなる。

 無自覚の悪意をもたらすとなれば、人にとって害悪にしかならない。人だけに非ず。社会に対して自然や他の生物に対しても。


「あの、それって一回だけでも?」

「それは私にも分かりません」


 これまで見て来た冒険者からの推測だそうだ。前回マリッカを連れ出そうとした連中の魂は半分黒く染まっていた。元より犯罪者気質の持ち主だったのだろうと。

 復活した人の魂は灰色に染まり形が歪。それで気付けたらしい。性格にも支障があったようだと。


「元に戻す方法って無いんですか?」

「犯罪であれば懺悔することで神の救済があります」


 犯罪者ではないから不明。この世界の住人は犯罪により魂が変質すると、神への懺悔を繰り返し神の元に届けば真球に戻るらしい。


「試す価値はあると思いますが、結果は分かりませんので」


 それと素直に言うことを聞ける状態なのかどうか。

 これまでも灰色の魂を持つ冒険者に祈りを、と言っても一人残らず断られていたそうだ。

 侮辱や差別を露にし暴力行為にまで及び、この世界の住人の言葉に耳を貸さない。


「最初からじゃなかったんですか?」

「はい。多くの方は来た時から差別していますが」


 それ以上に酷くなるそうだ。

 ゆえに、この世界の住人は異界の冒険者を嫌悪する。


「ヒロトさんが素直に応じていただけるのか」


 この世界の住人に優しい異界の人だからこそ、変質してしまうと取り返しがつかないのでは、と考えるようだ。

 知らなかった。

 運営サイドも知らないのかもしれない。技術は発展したけど魂を見られるわけじゃないし。ただ精神体だけが次元の壁を越え移動できる。それを発見して実用化しただけのことで。

 体は神が用意したものを量産しただけ。


 えっと、もしかして僕が誰かに殺される?


「そういうことですか?」

「それも含めてです。詳細は分かりません」


 やっぱり誰かに恨まれてるとか、何かの切っ掛けってことかも。

 心当たり。あ。


「連れ出そうとした人」

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