Sid.41 洞窟での戦闘は実に面倒
洞窟に入るのは自己責任。何かあっても誰も救助には向かわない。だから帰還アイテムがあるわけだ。
そして内部は薄暗いからと洞窟の前に立つ人が。
「一本で二スレブロだ。どうせ必要になるから買った方がいい」
そう言って松明らしきものを差し出してくる。燃焼時間は一本凡そ二時間くらいで、予備を一本持っていれば落とした時や、失った際にも困らずに済むと言う。
照度は四十八ルクス程度らしい。少し暗めな屋内の非常階段レベルの明るさかも。それでも洞窟内なら七メートル程度までは照らせるそうだ。七メートル先だと薄ら見える程度だけどね。
なんで照度なんて知ってるのかと思ったら、その知識は異界人がもたらしたものだそうで。そうなると照度計とかあるのかな。
それはさておき、マサを見ると「ヒロトは不要だろうけど」と言って、続いてマッピングするフラウを見ると「あたしには必要かも」だそうで。
「じゃあ三本ください」
ヴィーラが一本持ってフラウのサポート。マサが一本持つ。それと予備で一本。
僕が持つと咄嗟の時に動けない。邪魔になるし。たぶん暗視で見えるんだろうから。
暗視を使ってどの程度持続するか不明。だから洞窟内で試すことに。
代金はマサが払ってた。
「いいんですか?」
「必要な奴が払うもんだ」
僕だけなくても支障がないなら、そうかもしれないけど。
松明を受け取り点火して洞窟に入ると、松明があっても僕らにとっては暗い。明るさに慣れてるせいだ。日本の夜は明るすぎるし、室内も海外に比べると異様に明るい。その明るさに慣れた目で見ると暗く感じてしまう。
試しに暗視を使ってみよう。
「モルケシーエンデ」
ぼそっと口にすると視界が急に開けた感じになる。可視光線が増幅されるのか。赤外線暗視とは違う。でも少しノイズが混ざった感じだ。ざらっとした視界だし。
ISO感度で八一九二〇〇相当はありそうな。目がカラー暗視カメラみたい。この目で松明を見ると眩し過ぎて視界が白飛びするけど、自動で感度を下げるように調整されるようだ。一瞬、視界が奪われる感じだけど調整が早い。
「見えるのか?」
「見えますね」
「あとは持続時間か」
「このまま様子を見てみます」
マッピングをしながら洞窟内を進むけど、慣れない作業のせいか空間認識能力のせいなのか。単純に地図が読めない人が地図を描くと、失敗するってパターンなのかも。
「これだと方角が分からないぞ」
「だって、あたしも分からないし」
「どこがどこ?」
かと言ってマサや僕がマッピングすると、いざと言う時に咄嗟に態勢を整えられない。
慣れてもらうしかないようで。
「慣れてくれ」
オートマッピングがあればなあ。
進行速度が極端に遅くなってる。都度、フラウがヴィーラやマサに確認してるから。
洞窟内は手掘りの如く凹凸が激しく、床も平らじゃないから足を取られやすい。天井は高さがあるけど、時々低くなったりで移動にも難儀する。
そして支洞が多く記し損ねると、自分たちの居場所が分からなくなる。
暫く進むとモンスターと遭遇した。
僕の目にははっきり見えてるけど、他のメンバーにはぼんやり見える程度のようだ。
相変わらず、この世界のモンスターは脚の数が多いんだね。蜘蛛っぽい胴体に極端に長い腕を持ち脚も長い。脚だけで二十本はありそうだ。後ろから順に前に向かって動く脚。
見てると気色悪いけど、長い腕を振り上げて攻撃する体勢に入った、と思う。
魔法、何を使うか。爆炎弾は狭い洞窟内だと惨劇をもたらしそうだし。
「ジーベンス!」
狭い場所ゆえ耳が壊れそうな轟音に視界も奪われる。ついでに全員軽く痺れる状態。発生源から離れないと影響を受ける。でも必ず当たる魔法だし。
少しして視界が回復すると消えて無くなってた。魔結晶はしっかりある。
「耳が」
「痛いし痺れたし」
「何も聞こえない」
耳がキーンとなっていて聞こえないようだ。僕もだけど。
フラウが回復魔法で聴力の回復を試みると、無事に回復したようだけど。
「ヒロト。その雷ヤバいよ」
「ヒロトの魔法って他はあれだろ」
炎と氷の壁と衝撃波。
「炎だと洞窟内の温度が」
「だよなあ」
「氷は?」
「あれは凍らせる効果は無くて」
壁を作るだけ。つまり一時的に攻撃を防ぐものでしかない。もしくは鎮火。
かなり不便だけどマサが常に突進して、となると負担が大きくなり過ぎる。モンスターの攻撃力も不明なままだとリスクばかりだし。
「仕方ないのか」
「衝撃波も煩いしねえ」
あれは洞窟内で使えないでしょ。自分たちにも衝撃が来ると思うし。そうなるとみんな吹き飛ぶ。逃げ場のない場所で使うものじゃない。
やっぱり不便だ。もう少し使い勝手の良い魔法があれば。
そこは魔法使いじゃないから仕方ないのかもしれないけど。
「精霊魔法がどこまで通じるか次に試してみる」
とりあえずヴィーラに戦闘を任せることに。
僕の魔法は仲間にもダメージがあるから。
再びゆっくり進むとモンスターと遭遇。見た感じ十本足のナメクジだ。気持ち悪い。
「シルフィ」
風の精霊を呼び出したけど攻撃力は衝撃波に比べて弱い。地べたを這う相手だと無理があるんじゃ?
見てるとシルフィを引っ込めてサラマンドラを呼び出してる。
こっちは効果覿面のようだ。体から水分が蒸発し干物状態になっていた。ただし、洞窟内の温度はやっぱりね。
「あっつい!」
「火は駄目でしょ」
「だって、風だと」
水の精霊は水が近くに無いと効果が半減するそうで。逆に水場なら効果が倍増するそうだ。周囲の状況に左右されるのか。
「土の精霊はどうなんです?」
「攻撃力がほとんど無いから」
無いんだ。そう言えば前に見た時は、石礫を投擲してたんだっけ。代わりに土の壁で物理防御ができて、麻痺や毒の回復ができるそうで。
支援系か。
それにしても精霊も使いどころが難しいみたい。僕の魔法も不便だし。やっぱり魔法使いを入れた方がいいのかも。
帰ったら提案してみよう。
再び進むことにしたけど、全然先へ進めない。
「マッピングがネックか」
「仕方ないでしょ。あたし地図は不得意だし」
「じゃあヴィーラは?」
「あたしも無理」
お手上げ状態のマサが居る。僕なら書けるけど攻撃の要、としてるからマッピングに気を取られると厳しい。
マサでもいいんだけど。
「マサさんは?」
「いや、フラウに慣れてもらう」
「じゃあ我慢してね」
結局フラウにお任せとなり進行速度は犠牲に。
ゆっくりと洞窟内を進むと、今度は何?
「あの、土の中に」
「え」
「どこ?」
「土の中らしいぞ」
土中を移動するとなるとモグラとかミミズ?
確かに移動する音がしてるけど、音のイメージからすればミミズ。ファンタジーでもよく登場する。
右上を移動してるような。
視線を向け見ていると壁に穴が開き巨大な丸い口が迫って来た。しっかり牙が並んで生えてるし、噛まれると言うより飲み込まれそうな。
「ジーベンス!」
耳をつんざく轟音と視界を奪う閃光。そして電撃による痺れがあるも、ミミズの化け物はしっかり倒すことができた。
全員が耳に手を当て痛いとか言ってる。
視界が復帰するとフラウに回復してもらい、全員が頭を抱えることに。
「ヒロトの魔法は凄いけどなあ」
「これ、毎回だと」
「こっちが先に倒れそう」
狭い場所には向かない。でも自分だけなら遠慮なく使う。ジーベンスを手に入れてから使い続けてるし。魔法を放っても自分にはダメージが少ないから。
剣で対処しようにもモンスターのサイズがね。
僕の剣士としての能力は低い。何かしらスキルを得ないと使えないから。やっぱあれかな、戦闘で剣を使わないと何も得ないとか。




