Sid.40 洞窟内の探索に動き出す
話が半端だけど下車駅に着くと「また今度ね」と手を振るフラウだ。
何か悩みを抱え込んでいそうな、そんな風に見て取れたけど、そう見えただけかもしれない。仮に悩みがあっても生きていれば普通だよね。悩みの一切が無い人なんて早々居ないだろうから。
僕じゃ相談相手にはならないし、そこまで親密な間柄でもない。
翌日から大学とバイトの日々。
大学では相変わらず誰とも会話が無い。完全にぼっちのまま。すでに友人関係を構築してる人は多数居る。仲間ができて充実したキャンパスライフを送る人ばかり。
完全に出遅れたって言うか作る気すらなかったし。一人が気楽なのもある。
一年次は勉学オンリーでもいい。二年次以降サークルにでも入って、気の合う人を見つければいいだけ。
ただ、さすがに母さんが心配してるのか、夕飯の時に「大学に友人とか?」なんて聞いてくる。
「居ない」
「もう三か月も経ってるのに?」
高校の時もぼっち。中学でも半ばぼっち。友人の作り方なんて分かるわけもない。
大学だと話し掛けてくる人も居ない。高校や中学では話し掛けてくる人は居た。だから何となく意気投合すれば友人関係もできたんだろう。でも大学は違う。率先して行動しない限り何も得られない。大学だとクラスメイトなんてのは存在しないし。
「彼女とか」
「居ない」
「何も無いの?」
「無い」
呆れてるようだけど「友人の一人や二人は作っておいた方が」とか言ってるし。
向こうには好きな人が居るけどね。こっちには居ないなあ。マリッカ。もっと会って話もしたいしデートとかもしてみたい。
「勉強ばっかりでもねえ」
「そうさせたのは母さんと父さん」
「そうだけどねえ」
勉強だけして好成績であれば満足してたのが両親。大学に入って急にバイトしろとか言い出したからね。お金が必要ならと。
高校までは成績のみで判断してた。だからそれに応えていれば良かっただけ。他に何もしなくてもね。
今さらでしょ。
親の教育方針が僕を歪めた。
納得してないのか「もう少し人付き合いも」とか言ってるし。向こうの世界で知り合った人たちと参加者なら少しは付き合いもある。それで充分でしょ。
何も大学で無理に友人を作らなくてもね。面倒臭いし時間取られるし。
そして異世界に行く日が来た。
できれば洞窟にチャレンジしたいから四時間の枠を取ってる。詳細は現地で詰めるとして、まずは異世界に向かう。
視界はいつも通りの木造建築で椅子に腰掛けた状態。他の参加者が複数同じ状態で、次々動き出すと待機室を出て行く。
僕も鈍り気味の体を動かし待機室を出ると、メンバーがすでに集合していて、アイナと何か話してるようだ。
「あ、ヒロトさん」
真っ先に気付くのはアイナだ。カウンターに向かいメンバーと軽くあいさつを交わし、みんな揃って何を聞いていたのか問う。
「フェインカヴェルノのことを聞いてた」
「フェ?」
「ああ洞窟だよ。言ってたろ」
妖精の洞窟と言った意味があるらしいけど、実際に妖精が棲んでいるわけではないそうで。とは言え、内部には凶暴なモンスターが跋扈していて、危険度は高いらしい。
僕らが次に向かおうと思っていた洞窟とは違うようだ。
「前に言ってたのと違わないですか?」
アイナに問うと。
「もう少し難易度の低い洞窟があるんです」
「それがフェ何たらって洞窟ですか?」
「そうです。フェインカヴェルノです」
四人程度でも四階層程度までなら進めるとか。僕と同じレベルであれば七階層でも行けるそうだけど。
ただし、こまめなマッピングは必須で、迷子にならないようにする必要もあるそうだ。
「最初に言ってたのは?」
「四人じゃ無理です」
「何人なら行けるんです?」
「八人って以前も言いましたよ」
面倒だ。
メンバーを見るとフェインカヴェルノでも良さそうな。僕のレベルで向かうと他が苦労するのか。
じゃあ、それでいい。
「何か事前に用意した方がいいものって」
「フリクトですね」
「え、何です? それ」
「緊急時の帰還用アイテムです」
一回きりではあるが最大十人を地上に戻せるそうで。
高額だから資金力が無いと購入できないそうだ。スカラーDやCくらいだと、資金力に難があり普通は買えないのだと言う。スカラーAくらいで手にできる代物だそうで。
「ヒロトさんは毎回無茶して稼いで来るので」
金銭面では問題無いだろうと。
「フェインカヴェルノで慣れたら、カヴェルノ・デ・プロヴォイに行けばいいんです」
安全策とすればアイナの言う通りなんだろう。たくさんの冒険者を見てきてるわけだし。
まずは洞窟に慣れること。フェインカヴェルノはその点で都合がいいらしい。
慣れたら難易度の高い洞窟にチャレンジすればいいってことで。
「ヒロトさんが死にそうにならずに済みます」
まあ何度も見てるから心配になるんだろう。死にそうになっても元の体は死なないんだけど。それを言っても仕方ない。この世界の体は毎回ぼろぼろになってたし。
泣くほどに心配掛けたってのもあるしなあ。
「じゃあそこにします」
「フリクト、買っておいてください」
「あ、それもですね」
フリクトなる帰還用アイテムを準備するアイナだ。その間メンバーが「愛されてんなあ」とか「ヒロトの心配ばっかり」とか「もう結婚しちゃえば」なんて言ってるし。それを聞いてるアイナが頷きながら笑顔になってる。今は無いけどね。
揶揄われるけど準備ができたようだ。
直径六センチくらいの金属製らしき鈍色に輝く円盤。中央に怪しく光を放つ石。石を囲むように紋様が刻まれてる。
それを手に説明がされる。
「フリクトを中心に半径二メートルまでしかカバーしません」
そこからはみ出ていると帰還できないから注意すべしと。
使う際は中央の石を強く叩けば作動するそうだ。
「この石は魔結晶を元にした魔力の塊です」
円盤部分の紋様に魔力が流れ、紋様が作動し屋外に飛ばすそうだ。
「この紋様が魔術回路になってます」
強い衝撃で作動するからクッションの入った箱に保管する。使う時に取り出し叩けばいい。箱に入れずにポーチなどに仕舞うと、モンスターの攻撃やぶつけた衝撃で、作動してしまうらしい。
箱に収めると手渡される。
「二クルタです」
確かに高い。金貨二枚ってことだし日本円で三十二万円。ただ、みんなで出し合えれば、そこまで負担は大きくはない。
支払いは僕の当座預金口座からにしておいた。手形を振り出し金額を記載しアイナに渡す。
「出すけど?」
「ヒロトが全額負担しなくても」
洞窟で入手するであろう魔結晶の代金から、分けてもらえればいいとしておく。
そう言えば魔結晶の使い道が一つ分かった。帰還用アイテムに使ってるんだと。こんなの何に使うのかと疑問に感じてたからなあ。聞けばいいんだろうけど、ずっと放置してたわけで。
アイテムを入手し洞窟の場所を聞き移動することに。
「迷宮みたいなんだろ?」
「マッピングは必要みたいです」
「誰がやるの?」
「フラウだな」
普段は戦闘に参加しない。誰かが怪我しなければ、手持ち無沙汰なのが回復職だから、マッピングを任せるとなった。
僕はメインの戦力だから任せられないそうで。メンバー内で一番の火力。圧倒的だから細々したことはやらせないそうだ。
「薄暗いんだっけ」
「ヒロトの出番だし」
「あ、そうですね」
暗視が役立つのか。使いどころがあって良かった、と言えばいいのかな。
十五分程度だらだら歩くと洞窟があり、入り口の前に人が三人立っていて声を掛けて来た。
「お前らは冒険者か?」
「そうだ」
入るのは自己責任で中で何があっても救出はしない、と言われる。
当然だよね。




