Sid.39 祈りを捧げる人が増えた
自殺願望じゃなくて、何らかの方法で体を得るのかも。何にしても分からないことが、まだまだあるようで。
死んだ冒険者はPKに及んだことで、ここにある体は破棄されるそうだ。地球にある体が死んだかどうかは、現時点では不明。何かあれば知らされるそうだけど。
地球とここの通信手段があるわけではない。向こうのスタッフが連絡係として訪れるそうだ。
とりあえずマサたちのレベルを確認することに。
結果は全員レベル二十八になっていた。喜ぶ面々だけど僕はと言えば。
「えっと。レベル三十五」
「レベル差があんまり縮まらないなあ」
「ヒロトの活躍のせいかもね」
「あたしたちより倒してるし」
ただ、これで全員が神殿にチャレンジできる。その前に洞窟も試してみたいと思うけど。
戻ったら話し合うことに。
「少しなら時間も取れるだろ」
「少しです」
「戻り次第、この前のカフェで」
今日はこれで終わることに。
あ、でも僕はマリッカに会っておきたい。時間はまだ残ってるし。
「あの、僕は」
「例のあの子か」
「愛しのシスター」
「行ってきなよ」
カフェで合流な、と言われ三人ともリコールしてしまった。
待機室を出るとアイナが呼ぶし。
「ヒロトさん。他の人は?」
「帰りましたよ」
「ヒロトさんは……はぁ。マリッカ」
ため息を吐き「ヒロトさんの心があたしから離れてるぅ」とか言って、カウンターに突っ伏してるし。離れたことは無いけどね、第一印象悪かったせいで最初から離れ気味だった。今は逆に少し近付いてる。
伏せったまま「愛が欲しいのに」だって。
顔を上げると「キスしてください」って、これからマリッカに会うのに。
「嫌ですか?」
「嫌じゃないですけど」
「じゃあいいじゃないですか」
と言うことでキスされた。毎回だけど顔を掴んで体感二分程度。実際は数秒だと思うけど濃厚だなあ。
なんか僕を見る目が、その先を期待してそうだけど。腹を括る必要があるし簡単に結論は得られない。こっちの生活環境がねえ。馴染めないと思うから。
「行くんですよね。マリッカの下に」
「そうです」
「あたしと濃厚なキスをしたのに」
「奪われてるだけです」
縋るアイナを振り切りギルドをあとにし教会に行くと、笑顔で出迎えてくれるマリッカが居る。
「ヒロトさん。こんにちは」
「こ、こんにちは」
「今日も祈りを捧げに来られたのですね」
「そうです。それとマリッカさんに会いに」
微笑んで「では一緒に祈りましょう」と言って、僕の手を取り祭壇まで進むと跪き祈りを捧げた。
寄進しようとするけど拒まれるし。
「ヒロトさんがいらしてくれるだけで良いのです」
「でも」
「最近、冒険者からの寄進が増えているのですよ」
「え」
僕のレベルが爆上がりってことで、ご利益があると冒険者の間で広まった。結果、ぼちぼち訪れて祈り寄進する人が増えていると。
しかもレベルに合わない強さ。期待して来るそうだ。
「でも、そんな欲丸出しだと」
「何も授かりません」
「言わないんですか?」
「祈りの際に欲は捨てるよう進言しています」
とは言え訪れる目的がご利益であれば、話半分で欲望丸出しの祈りが捧げられる。
「そのうち気付けば良いのですが」
「無理だと思います」
日本人は信仰心が薄くゲン担ぎ程度。キリスト教徒やイスラム教徒は熱心ではあるけど、この世界の神様を本気で信仰はしないでしょ。崇め奉るべき神が居るのだから。日本人なら節操なく、どんな神様仏様でも祈るけどね。まあ神社仏閣もそれで良しとしてるし。
いずれ何も授からないと知れれば、期待する人も居なくなるんだろう。その時は僕が教会とマリッカを支えればいいよね。
「あの、そろそろ」
「ヒロトさん」
抱き着かれて、ここでもやっぱりキスされる。
でもマリッカだと心地良さがあるんだよね。気持ちの問題だろうなあ。
離れると何やら口にするマリッカだ。
「ヒロトさん次第で脱会しますので」
「脱会って」
「シスターは人を愛することを求められますが」
婚姻は認められず。異性との恋愛や交際も認められず。当然だけど性的な行為も禁止。それらを成す時は脱会する必要があるそうだ。
脱会したからと言って、神への祈りを捧げることまでは禁じられていない。
これまで通り信仰心は持ち続けられるそうだ。
「教会で奉献活動ができないだけですので」
なんかそれもどうかと思う。婚姻とか交際って神が定めたんじゃなく、たぶん教会の権力者が決めたことだと思うし。カトリックが似た感じかも。
まあでも違う世界のことだし、他所者が口を挟む余地はないよね。
日本に戻ることにして教会をあとにするけど、やっぱり見送りに出てくるマリッカだった。
見送る笑顔に癒される。
ギルドに戻るとアイナがねえ。
「楽しんで来たんですか?」
「別に祈りを捧げただけです」
「してるんですよね」
アイナもでしょ。濃厚な奴を。
遠い目をして「あたしにも機会を」なんて言ってるし。何の機会かは知らないけど。
僕を見て「レベル上がったんですよね」と言い出した。
「まあ」
「頼りになるんです」
「そうですか」
「門衛の人も助けたんですよね」
トゥオモさんだ。
「ヒロトさんの優しさは罪です」
「そう言われても」
「だから惚れちゃうんです」
「ありがたく受け止めておきます」
だったら付き合え、じゃないって。マリッカが本命なんだから。
きりが無いから、また今度と言って待機室へ向かった。
アーススパイアホールに戻ると、待ち合わせのカフェへ向かう。
仲間と合流し次回の予定を決め帰宅するけど、フラウと途中まで一緒なんだよね。お姉さんって強く感じさせるけど、向こうでは幼さを見せる。
電車に乗ると「ヒロトって向こうの方がしっかり者」だそうで。フラウとは逆かもしれない。
「強さかなあ」
単純な力が必要な世界。そこで力を得れば自信も得られるのだろうと。でも現実世界では普通以下の男子。途端に頼りなさが出てしまう。
向こうの自信を持った僕なら、こっちでも女子から好かれるのでは、と言う。
「背中丸めないで堂々としてればねえ」
無理です。こっちの世界ではせいぜい学力が高いだけ。その程度じゃ自信には繋がらない。だって学力の高い人なんて幾らでも居るし。他に実績を得ないと容易に自信なんて得られないでしょ。
何も実績が無いのに自信だけあったら自信過剰の変な奴だし。嫌われるだけの存在になりかねない。
「まあいずれ、かな」
今は仕方ないにしても就職する際に背中が丸まっていたら、幾ら良い大学を出ていても内定は得られないそうだ。
今後、ゼミやサークル活動で実績を作ればいい、と言うフラウだ。
まあそうなんだろうね。
「フラウさんは何で実績を作ったんです?」
「サークル活動かなあ」
「何やってたんです?」
「ボランティアがメイン」
人の助けになることを四年間続け、災害発生後に現地入りして活動をした。それらは良い経験になったそうだ。
「じゃあ回復職を選んだのも」
「そう。表立って目立たないけど必要でしょ」
裏から仲間を支えることで力になる。決して戦闘職だけを花形とは見ないそうだ。
派手に活躍するから耳目を集めはする。でも裏で支える存在が居てこそ輝けるものなのだそうだ。
「まあ、マサはまだ頼りないけどね」
「そうですか?」
「ヒロトの方が圧倒的に頼れる」
向こうでは、の話しだそうだ。それもそうだよね。
そうだ、疑問を解消したい。
「あの、フラウさんって向こうだと」
「頼りない?」
「いえ、少し子供っぽさが」
「演じてるだけ」
童心に返って異世界を楽しんでるだけだそうだ。
「でもねえ、最近少し考えちゃって」
当初ゲーム感覚だった。しかし今は違う。




