Sid.38 プレイヤーキルが増加中
門の前に数人の冒険者と待機室に居たスタッフ。少し離れて門衛のセヴェリさんやトゥオモさんも居る。他にも見慣れない人たちと、城壁の上から様子を窺う衛兵も居た。
近付くとセヴェリさんが気付いたようだ。右手を突き出し向かおうとする僕らを制止してる。首を横に振り来るなと言っているような。
「なあ、門衛が止めてる感じだけど」
「来るなと言ってますね」
「なんで?」
「揉めてるのと関係あるのかな」
それと気付いたのは冒険者から離れた場所に、倒れている人が二人居るようだ。身形からすれば冒険者のようだけど、動きが全くないから、まさかとは思うけど。
あとはあれだ、倒れている部分には血だまりができてる。つまり死んでる。
「なんで冒険者が倒れてるんだ?」
「分からないですけど、何かにやられたのかも」
「町のすぐ傍までモンスターが来たのかな」
「でも冒険者を倒せるほどのモンスターが?」
町の近隣に出てくるモンスターは強くない。初めての冒険者でも複数人居れば対処できる。初期の僕ですら何とかできたくらいだし。
倒されてしまうのであれば、少し強めのモンスターが徘徊していたか、現れてしまったか。とにかく離れていると状況は掴めず。暫し立ち止まり様子を見ていると。
「あ」
「あの冒険者」
剣を抜いてスタッフに斬り掛かろうとしてる。当然だけどスタッフも素人では無いようだ。即座に回避し制圧行動を取るようで。剣を素手で叩き落とし手枷を付けようとしてる。やたらと動きがいいなあ。レベル幾つなんだろう。
それにしても、運営側に対する暴挙に及ぼうとする時点で、この世界に来ることは疎か利用すらできなくなると思うけど。
少しして制圧される暴挙に及んだ冒険者。他に仲間も居るようだけど、敵わないと悟ったのかおとなしくなってる。
と思ったのも束の間。
「こいつをぶっ殺されたくなけりゃ、仲間を解放しろ。お前は殺すけどな」
一人がトゥオモさんを羽交い絞めにし抵抗を試みるようだ。ヤバいな。人質を取られると対処が難しいだろうし。
でも、スタッフを倒して地球にどうやって帰るつもりなんだろう。自分も倒されれば帰れるけど、その気は無さそうだし。なんか後先考えてない。
「無駄な足掻きはやめなさい」
「無駄じゃねえんだよ」
へらへらする冒険者。拘束された冒険者も不敵な笑みを浮かべてる。
「どうやって帰るつもりですか?」
「どうもこうもねえ。帰る気はねえからな」
え、でも。元の体はどうするんだろ。
「なんか無茶苦茶言ってないか?」
「帰らないって、向こうの体、どうするんだろうね」
「やけくそにしか見えないけど」
本当にそう思うけど何かあるのかもしれない。この世界で肉体を得られれば元の世界の肉体は不要になるとか。でも神が認めなければ肉体は得られない。
じゃあどうして、こんな無謀なことを。
スタッフも少々困り気味だし、羽交い絞めにされたトゥオモさんは、逃れようとしても逃れられない。焦りも見えるしセヴェリさんも手が出せず、だ。
これ、介入してもいいよね。あの連中のレベルは分からないけど、動きから見て高レベルじゃなさそうだし。
手をかざすとマサが「何する気だ?」と言って驚いてる。フラウもヴィーラも驚いてるけどトゥオモさんは助けないと。
「ジーベンス」
狙いは冒険者。他の人には当てない。器用なことをしなければならないけど、たぶんできると踏んでる。
火炎弾も念じれば曲がるし追尾するから。ジーベンスも同じく狙えば、対象だけを攻撃できると思う。万が一失敗したらなんて考えない。トゥオモさんやセヴェリさんにはお世話になってる。何より助けたいから。
一瞬の閃光と轟音が響くと瞬時に冒険者を直撃。トゥオモさんを拘束してた冒険者の頭を狙った。他の冒険者は心臓付近を狙い倒す。
やっぱりコントロールが利く。トゥオモさんは少し痺れたようだけど、無傷で解放され冒険者は全員意識を失った。
スタッフとセヴェリさんにトゥオモさんが気付いて、こっちを見てる。
呆気に取られるメンバーと、まだ事態を飲み込めないセヴェリさんとトゥオモさん。でもスタッフだけは理解したようで、やれやれって感じでため息吐いてるし。
手招きされ傍まで行くと。
「ヒロトさんでしたね」
「あ、はい。余計なことしました」
「緊急でしたので已む無しですが」
もし万が一、門衛まで巻き込んだらどうするのか、と言われてしまう。
確かにそうだけど自信はあったんだよね。
それを言うと。
「結果的には、ですが今後は控えてください」
で、倒れてる連中を連行すべく、一旦、衛兵たちを集めギルドまで運ぶようだ。
それと殺された冒険者の体も引き上げるようで。
その間、見てるだけなんだけど、トゥオモさんとセヴェリさんから礼を言われる。
「助かったよ。ありがとう」
「今回の件で何か不利なことがあれば助力は惜しまん」
「遠慮なく頼ってくれよな」
手を差し出してきて握手された。感謝感激してるような。
マサたちが僕を見て「ヒロトも大概無茶だよな」とか言ってるし。
「でも助けたからなあ」
「一撃で倒しちゃうんだもん」
「巻き添えの心配はなかったの?」
「成功するイメージしかなかったんで」
これまで魔法を使っていて、イメージ次第で如何様にも扱える、そう思っていた。
ゲーム世界の魔法のようにプログラミングされたものとは違う。自分の意思次第で様々な効果や結果を得ると分かった。
たった数種類の魔法しか使えないけど、工夫次第で使い方は無限に広がるってことも。
門衛と別れギルドに向かうとアイナが「あの、何があったんですか」と聞いてくる。
多数の衛兵が冒険者を担いで来た。門の外が騒がしいのは分かっていたが、モンスターが現れて対処してるのかと思っていたそうで。
「えっと、冒険者が暴れたみたいで」
「え、またですか?」
「まあそうです」
苛立ってそうな。機嫌の悪そうな雰囲気だけど「ヒロトさん。守ってくださいね」だって。
絶対守るけど、それは僕が居る時だけ。居ない時はどうにもできない。
待機室に向かうとスタッフが「全員レベル三十七あったんですが」と言う。
「そんなにあったんですか?」
「ですがね」
椅子に拘束され座らされている暴漢だけど、スタッフが視線を向けると、ため息を吐きながら「全員即死状態です」ってまじで?
たった一発の威力が強過ぎる。これでよく門衛が死ななかったと。
「この威力ですよ。並の人間は死にます」
並みじゃないレベル三十七でも死んでしまう。
「使いどころは慎重に」
だそうで。
今回のことに関して軽く説明もされた。
「喧嘩の末に殺害に至ったようです」
門衛の証言では街道を歩いている時点で、冒険者同士で揉めていたらしい。門の前に来ても揉めていて目の前で殺害されたようだ。門衛が咎めると剣を向けて来たことで、スタッフが呼ばれたらしい。
そこで理由を問うと各々別グループで、今回洞窟探索に行き、方針の違いから口論となりカッとなって殺したそうだ。
「まあ、冒険者は凶器になるものを持っていますし」
感情を抑えきれなければ、このようなことも想定できた。
最近、他にもプレイヤー同士の殺害が増加傾向にあるそうで。
「PKは禁止なのですがね」
PKをした存在は二度とこの世界に来れない。それでも少なからずあるそうだ。
もちろん、この世界の住人を殺害しても同様。
「プレイヤーに何が起こっているのか」
一様に帰還する必要はない、とする冒険者が増えているらしい。
帰還しなければ元の体の生命維持は施設ではできない。それを伝えても構わないと言う。
「自殺願望でもあるのでしょうかねえ」




