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Sid.36 仲間のお姉さんと一緒だ

 とりあえずハンドルネームで連絡先の交換をすることに。三人に対して僕はまだ外様だし、もう少し馴染んでからにしたいってのもあった。長い付き合いになりそうなら本名の方がいいだろうけど。まだ分からないし。


「オフ会だけど」

「今度向こうに行ったあとは?」

「僕は時間的に少し無理が」

「いつなら大丈夫なんだ?」


 日曜日は翌日に備え冒険のあとは、しっかり休息を取ることにしている。まだまだ一年次ってことで単位取得に向け一つも落とす気はないし。

 二年次以降なら少しは余裕も出るだろうけど。


「火曜日か金曜日なら少し時間が取れます」


 三人が顔を見合わせ「じゃあ金曜日にしよう」となった。

 あ、そうだ。


「先に言っておきますが、お酒の席は禁止されているので」

「法律上はそうなってるよな。飲酒は禁止って」

「飲まなくても居酒屋とか許可されないの?」

「その場の雰囲気とか流れとか強要を警戒されてます」


 特に大学生くらいだと簡単に羽目を外し限度を超える。遵法意識の低さも目に余ると親は考えてるわけで。端から法律なんて考えもしない学生がほとんど。親から叱られたことすらなく、物事の良し悪しの基準すら持たない。ある意味、歳だけ食った無垢な乳幼児と同じ。全員とは言わないまでも多くは、ってことだろう。

 だから許可されない。


「そう親は考えてるみたいなので」

「信用されてないんだ」

「なんだか考え方に偏見がある気がする」

「成人してるのに自主性を認めないのか」


 何ら基準を持たない存在だとすれば、悪いことをしても悪いとは考えない。悪いことをした自覚が無いから反省もできない。でも叱らない教育はそれをもたらした。叱ると虐待扱いだからね。

 まさに無垢な乳幼児が大手を振って闊歩してるのが今。

 迷惑行為にしても何が迷惑になるか躾されてない。だから気付かないまま他人に迷惑を掛け続ける。我慢も躾けられてないから容易にキレる。

 そもそもの原因は過度な個の尊重。大切にされ過ぎた個は自重しないんだよ。自分が世界の中心に居る気になってしまう。

 他人の言葉なんかに耳を貸せるはずもないよね。結果、やりたい放題、諍いばかりが増加することに。


 こんなことは言っても仕方ないから口にはしない。僕は僕。他人は他人。各家庭の教育による差異はあって当然。あまり踏み込んで言うものじゃない。


「じゃあ場所はどうしよう」

「酒なんて飲食店のどこでも出すけどなあ」

「居酒屋とかお酒がメインの店でなければ」


 イタリアンやフレンチ、またはカフェやファミレスになりそうだ。

 ダイナーなんてヴィーラが口にしたけど、周りに居酒屋の形態だぞ、と言われてた。

 居酒屋もそうだけどカジュアルなレストラン、って意味もあるけどね。


「ダイナーでも大丈夫ですよ」

「そう?」

「じゃあダイナーでいいか」

「お酒も楽しめるしね」


 とりあえず会場は近隣のダイナーで。予約はマサが取っておくそうだ。

 これで今日は解散となった。


「都合が悪くなったら早めに連絡くれよな」

「あ、はい」


 カフェから少し歩いた先の鉄道駅で別れる。

 乗車する路線は各々まちまち、と思ったけどフラウは僕と同じ路線だった。


「あれ? 同じなんだ」

「偶然ですね」


 一番お姉さんのフラウだけどホームで電車を待つ間、僕を見て「大学ってどこに通ってるの?」と聞かれる。大学名を答えると「頭いいんだね」だって。

 頭の良さと学力は関係無いと思う。学校の勉強ってのは要領の良さの問題。まあ要領の良さも頭の良さの一部だろうけど。でもそれだけじゃ測れない。


「フラウさんは大卒ですか?」

「一応ね」


 大学くらい出てないと就職先に困るよね。


「勤め先って、どんな会社なんですか?」

「普通の企業で普通に事務だけど」


 普通って何?

 上場企業を頂点として下は何を指すのか。個人経営?


「給料安いのよねえ」

「はあ」

「雑用も多くてねえ」

「そうですか。大変そうです」


 駄目だ。会話が死ぬほどつまらない。社会人相手に会話が成立しない。

 電車がホームに流れ込むと、降車する人がドカッと出てきて、続いて乗車するけど混雑が半端ない。


「これ、毎日だとしんどそうですね」

「通勤地獄は解消されないんだよね」

「通学も大差ないですよ」

「だよねえ。一極集中でみんな集まるから」


 少子高齢化で地方が疲弊し自治体は存続のために合併。それでも消滅する自治体が幾つかあった。地方創生なんて言ってもねえ。多額の予算を注ぎ込んでも魅力がないんだから消滅するのも当然の帰結。

 人の手が入らない山林が増え自然火災も発生するし。野生動物は遠慮なく人里に進出して来る。結果、被害多発で生活すらままならない。

 これなら異世界の方が生きやすいかも。


「ねえ、シスターって可愛らしいけどヒロトは本気なの?」

「え」

「本気だとしても向こうで生活できないでしょ」


 転生ってのがあると言ってた。神に認められた存在だけが人の肉体を手に入れることができて、二拠点生活すらも可能にするらしいけど。ただ、生活基盤は向こうになる。今とは逆になるわけで。それができる、なんてのは今も眉唾だけど。

 これは内緒。


「考え中です」

「本気になるとつらいと思うけどなあ」


 僕の方が先に下車するようだ。


「あの、僕はここなので」

「じゃあまたね」

「あ、はい。また向こうで」


 車内から手を振るお姉さんが居た。アバターとは少し印象が異なるな。容姿じゃなくて雰囲気が。

 こっちだと大人な感じだし、向こうだと少し幼さを見せてた。どっちが本来の姿なんだろう。


 そして大学とバイトの生活が始まり、日々を忙しく過ごすと異世界に旅立つ日が来る。


 待機室が視界に入るとメンバーも同じタイミングだった。


「よっ! またレベリングに付き合ってくれよ」

「頼りにしてるからね」

「あんまり頼ると悪いでしょ」

「そこはあれだ、程々に」


 三人は本当に気さくな間柄なんだね。僕はまだ馴染みきれてないけど。

 待機室を出てカウンターに視線を向けると、アイナが居て笑顔を見せ手招きしてるし。そうなると僕だけ向かい、背中越しに揶揄いの言葉を投げられる。


「あの」

「会えない期間が長いんです」

「でも仕方ないと思います」

「早く決めちゃえばいいんですよ」


 無理だっての。人の体を手に入れるってことは、同時に死があるってことだし。今はこの体が壊れても向こうの僕は死なない。何度でも復活できる。

 そうじゃなくなったら、この世界で生きるには相当な覚悟が必要。明日にも死ぬかもしれないし。

 これで九十年も生きていれば、まだ開き直りも可能かもしれないけど。

 たった十八年だからね。死が身近な世界はハードルが高い。


「おーい。森に行きたいんだが」

「戻って来たら楽しめばいいんじゃない?」

「時間に限りがあるから」


 三人に視線を向け頷くとアイナに向き直り、そういうことなんで森に行きますと言ってカウンターから離れる。

 もっと話をしていたそうだったけど、きりが無いからね。

 一か月後くらいにはアイナのために時間を取るし、今暫く待っててもらうしかない。

 何せこっちに来るにも都度お金が掛かるし。


 揃ってギルドを出て門を抜けるけど、やっぱりセヴェリさんとトゥオモさんが声を掛けてくる。


「あのな、衛兵仲間にヒロトのことを言っておいたからな」

「え、何をです?」

「他の冒険者とは違うってな」

「差別をしない、偉ぶらない好印象の人だってな」


 何かあれば手を貸してやってくれ、とも言っているそうで。マリッカを助けるくらいには善人だとも伝えてるそうで。

 いい笑顔で送り出してくれた。


「なんか随分と親しげだな」


 どんな世界でも礼節があれば印象はいいでしょ。

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