Sid.35 仲間と日本で会うことに
フラウとヴィーラを伴い教会に行くと「決断しましたか」と、マリッカにいきなり聞かれる。
「まだです」
やっぱり残念そうな表情を見せるけど、すぐに「待ちます」と言って笑顔を見せた。僕に対する気持ちは強いんだろうな。自惚れじゃなければ、だけど。
マリッカにしてもアイナにしても日本を知らない。モンスターなんてものは存在せず、安全と言えば安全な世界だ。ただ、国家間の争いは絶えないし、犯罪も発生し時に命を奪われるけど。それを考えれば大差ないとは思う。
この世界が人同士で争わないのも、人類に対する明確な敵が居るからだろう。敵が居るから人同士では争わない。一致団結する必要があるだろうし。
どっちが生きて行く上でいいのか。
現時点で答えは出ないなあ。便利さに浸りきった僕だと、この世界じゃ暇を持て余しかねない。それにいろいろ不便だし。
やっぱ無理かも。日本に絶望したら別だけどね。
「あの、祈りを」
「ではこちらへ」
祭壇を前に跪き僕は正式な祈りを捧げ、フラウとヴィーラは簡易型の祈りを捧げる。
二人が神の加護を授かるかは不明だけどね。加護を授かる条件は信仰心じゃないと思うし。
「あの、これ」
「充分です」
「でも気持ちですし」
寄進しようとしても一度は断られる。なんか日本人的だけどフラウとヴィーラからはしっかり受け取るんだよね。そして「神のご加護を授かりますように」と。
僕に対しては「神の寵愛を受けられますように」だから。
フラウが「なんでヒロトは神の寵愛なの?」と聞かれるけど、マリッカが「ヒロトさんには神のご加護があります」と言い、すでに次の段階に居るのだそうだ。
二人が僕を見て何やら言ってる。
「神の加護かあ」
「神様を信じて崇めてるからかなあ」
「いいえ。信仰ではなく愛です」
「え」
すかさず口を挟むマリッカの言葉に理解の及ばない二人が居る。
そして始まるマリッカの説法だろうか、暫し愛とは何ぞやから始まり人類愛を説く。
「神は人同士愛し愛されることを望んでおられます」
この世界に来る冒険者は、この世界の人を愛さない。虐げる差別するなどぞんざいな扱いが多く、神は嘆いておられるのだと。
そして僕を見て手を取り「ヒロトさんは愛されています。この世界の人を愛したからです」と言ってなぜか自慢げだ。
「つまり相思相愛ってこと?」
「でも受付嬢とも仲いいよね」
「人類愛です。ですが最後は私に決めていただきます」
やっぱそうだよね。二股でいいわけがない。
え、私って言ったよね。選択肢はマリッカのみってこと?
でも、自分の気持ちはマリッカに向いてるし、そこは異論を挟む余地は無いけど。悲しむアイナの姿は見たくないなあ。
ああ、だから優柔不断なんだ。
じゃない。人類愛が個別の愛になってるし。それにこの世界の人を愛した、って言ってもマリッカだけ。門衛の二人とか武器屋のおじさんとか、打ち解けはしたけど世界と言うには狭すぎる。
にやにやしながら僕を見るフラウとヴィーラだ。
「骨埋めたら?」
「結婚すれば?」
決断できません。
残り時間が少なくなり今日は帰るとなった。別れを惜しむ感じのマリッカだけど、手を握ったまま。潤んだ瞳で見つめてきて顔が近いってば。
「キスするの?」
「じゃあ先に出てるね」
気を利かせなくても。
二人が出ると抱き締められて唇が重ね合わされた。
離れると。
「ヒロトさん。私は聖職者失格です。養ってくださいね」
重い。と言うか、やっぱりシスターに戒律はあるんだ。色恋沙汰は禁止なんだろう。
それにしても急に現実が襲ってきた。養うのは男の役目で女は家で待つ。昔の日本と似たような価値観かも。現代日本だと一方に寄り掛かるのは無い。男女平等を謳ってるから男も女も働くし家事もする。
この世界はまだ途上だからだろう、家父長制みたいなものってあるのかな。
マリッカに見送られ教会をあとにするけど、フラウとヴィーラに揶揄われるし。
「もう一人はどうするの?」
「待ってるよねえ」
「どっちかに決めないと」
「優柔不断は駄目だよ」
面白がってるでしょ。
「でも、ヒロト的にはシスターでしょ」
「見てれば分かるって言うか分かりやすい」
そういう話しは遠慮してください。
ギルドに着くとアイナの視線が刺さる。手招きしてるし。時間無いんだけどフラウとヴィーラが「あいさつは必要だよ」と言って背中を押すし。ねえ、どっちかに決めろって言ったよね。これだと優柔不断が加速するんだけど。
カウンターの前に立つと身を乗り出し「してますよね」と。
「えっと」
唇を尖らせ顔を近付けるアイナだ。周りを見るとフラウとヴィーラが見てるけど、イケイケって感じで楽しんでる。
他の人たちは我関せずって感じだけど。
「ヒロトさん、ここですよ、ここ」
そう言って唇を指さすアイナだし。
ごめん、と内心でマリッカに謝りアイナに顔を近付けると、またも顔を挟まれ濃厚なキスをされてしまった。
体感で三分。でも実際は数秒程度だと思うけど。
顔が離れると見つめてくるアイナが居て、少し離れた位置から嫌な笑みを浮かべる二人が居る。
「じゃあ帰りますから」
ここでも名残惜しむ姿を見せられるけど、こればかりは仕方ない。僕の生活は日本が中心だし、この世界に骨を埋める覚悟もできてない。
後ろ髪を引かれる、じゃなくてアイナに引っ張られる感覚を得ながら、待機室に移動するとマサが居た。
「モテてんなあ」
にやにやして面白がってるし。
「二人だけですよ」
「だけ、なんて贅沢だっての」
「だよねえ」
「モテる男は言うことが違うね」
揶揄われるだけだから、さっさとリコールしよう。
次回の予定を決めリコールする。それとオフ会をやろうってことで日本に戻り次第、アーススパイアホールで会うことに。
オフ会の予定日や連絡先の交換をするそうだ。
戻ると小部屋から出て集合場所とした施設出入り口に向かう。
男性が一人と女性が一人立ってる。互いに面識があるようで話をしてるけど、もう一人はまだ来てないのかな。
たぶんあの二人だと思うんだけど。
僕と目が合うと男性が近付いて来て「ヒロト?」と聞いてきた。
「あ、はい。マサさんですか」
「初めまして、になるのかな」
もう一人の女性も近付いて来て「ヴィーラだけど」と名乗って来た。
各々自己紹介をすることにしたけど、フラウが来てからにしようとなる。
「来ないですね」
「いつもだよ」
「四時間だから」
容易に口にはしないけど、たぶんそういうことなんだろう。済ませることがあって時間が掛かると。
少しして向かってくる女性が居る。僕から見ると大人のお姉さんだ。
「待たせてごめんね。そっちの子がヒロト?」
「あ、はい」
全員揃ったところで場所を移動し近隣のカフェに向かう。
三人とも僕より年上。振る舞い方が大人っぽい。僕はと言えば、なんか一人幼い感じがする。
誰も気にしてないとは思うけど。
マサは気さくな青年って雰囲気で、イケメンってほどでは無いけど悪くはないと思う。
ヴィーラは少し大人びた女性って雰囲気。背は低いけどね。
フラウは大人って感じ。パンツ姿が余計にそう見せるのかな。
最寄りのカフェに入ると各々ドリンクを注文し、受け取ると店内を移動し着席する。
落ち着くと「どうする? 本名を名乗り合ってもいいし、ハンドルで通すでもいいし」と言う。ハンドルネームなら自己紹介は不要だろう。本名なら改めて自己紹介が必要になると思うけど。
三人の視線が集まる。
「あの、三人は互いの本名を知ってるんですか?」
「付き合いもそれなりに長いからね」
知ってるんだ。どんな関係性かな。
マサとヴィーラは歳も近いけど。




