Sid.33 水すら油断できない存在
森の中に安全な場所があるのかどうか。泉から離れればイレクトリコスは出てこない。でもネブマデンドロやオクタプレブロは出てくるだろう。
と言うことで一人は見張りで三人が休憩。一人十分の見張りを交代で。都合四十分掛かるけど已む無しだな。なぜかヴィーラは疲れやすい。誰もが同じ性能の体を持っていると思っていたけど、ジョブによって体力に差はあるようだ。
僕とマサは疲れ知らず。フラウは幾らか疲れるようだけど、ヴィーラほどに疲れることはない。
「なんでヴィーラだけ疲れ方が激しいのかな」
「仕方ないじゃん。疲れちゃうんだから」
「召喚って体力使うんじゃないのか?」
ステータス表示なんて無いからね。召喚は魔力を大量に消費するとか、精神力を奪うとか一切が不明なまま。ゲームのような表示があれば分かるんだろうけど。
基礎体力が少ないとかジョブの特性かもしれない。
「ヒロトは疲れないのか?」
「全然疲れないです」
「タフなんだね」
これも不思議と言えば不思議。魔法も今のところ好き放題放てるし。威力が低いならまだ納得する面はあった。でも威力が増してるのに同じ感覚で使える。
それでも僕の場合は神の加護の効果、なんて考えることもできなくはないか。
休憩中も一応周囲には気を配っておくけど、物音を一切立てず近付く存在が居るんだよね。
「何かが近付いてきてます」
「分かるの?」
「気配が」
僕の言葉で警戒するメンバーだけど、視界には何も入って来ない。でも確実に接近してくる何かだ。速いわけじゃない。ゆっくり僕らを窺うように近付く。
魔族とかなら問答無用で攻撃するだろう。だから接近する相手が魔族ではないと思う。むしろ知能を持った獣のような。
来てる。すぐ傍まで。周囲を見回すも姿は見えず。
「来てるんですけど姿が見えません」
「方向は?」
「南東だと思うんですが」
緊張感が走る。
次の瞬間、木の陰から姿を現すそれは、木の枝に糸を絡ませ移動する蜘蛛のような。
「蜘蛛?」
脚は確かに八本あるけど鎧を纏った蜘蛛のようだ。
「サラマンドラ!」
真っ先にヴィーラが精霊を召喚し攻撃させるけど、糸は燃えるも本体は無傷。糸が燃えたせいで地面に着地すると、飛び跳ねて腹から糸を放出し絡め取ろうとしてる。
エルドクロットで燃やすと後退し、こっちの動きを窺っているような。
他のモンスターと違って知能がありそうだ。
「近付いてこないぞ」
「攻撃手段って糸だけかな」
「だったら対処の仕様はある」
「違ったら?」
手に負えない相手かもしれないと言うマサだ。腹を上に向け糸を放出し体を持ち上げた。枝にぶら下がる状態になると、体を揺すり腹を曲げ糸を放出して来る。
「スタートヴォーグ!」
森の中で響く衝撃音。魔法を使うと宙ぶらりんの蜘蛛は、そのまま弾き飛ばされ木の幹に激突。体勢を崩し地面に落下すると立ち上がろうとするようだ。メンバーも衝撃を少し食らったようだけど、すぐ持ち直した。
蜘蛛もダメージを食らって、ふらふらしている。と思ったら何かを吐き出してきた。
「うわっ」
「何これ」
「毒だと思う」
寸前で落下してるけど触れたらどうなるかは、地面を見て理解した面々だ。
「地面に穴開いてる」
「溶解液かよ」
「浴びたら洒落にならない」
これも僕が倒す方が良さそうだ。倒せずとも麻痺させてしまえば、あとは何とかなるだろう。
「ジーベンス」
轟音と閃光により一瞬でケリが付いた。蜘蛛は成す術もなく感電し溶けるように消滅。
魔結晶は回収しておく。
「なんだかなあ」
「楽に倒してるし」
楽にってわけじゃないしジーベンスはアイテム頼りの魔法だし。魔族からもらわなければ苦戦してたかもしれない。凄く役立つアイテムだよね。魔法をなかなか習得できない僕にとって。
休憩は中断されたけど、そのまま森を進むことに。
暫く進むと流れる水の音が聞こえてきた。
「川が近くにあるのかな」
「行ってみるか」
「またなんか出てくるんじゃないの」
「倒せばレベルが上がるだろ」
厄介な相手じゃなければいいな、と口にするフラウとヴィーラだ。この森に出現するモンスターはマサたちには、少しだけ荷が勝つ感じだからだね。でもだからこそレベルも上がりやすいと思う。しかも死にそうになるリスクは低いし。僕なんて死にそうになったからね。
先へ進むと確かに小川がある。川幅一メートル程度。流れは遅いし水深も浅そうだ。川底が良く見えて透明度の高い水に見える。
「きれいな水だね」
「飲めるのかな」
「飲む必要無いよな」
「それ、つまんないよね」
飲食が必要無いってのは、生物じゃないと思わされるんだよね。
フラウが川の水に手を付けて「冷たい」とか言ってる。続いてヴィーラも試してるようだけど。
「良く冷えてる」
「飲んだら美味しそう」
「飲むなよぉ」
「飲まないってば」
消化器を持たないから飲んでも流し込めない。飲み込めないから結局吐き出してしまう。食道は存在せず下咽頭より下には気管しかないから。
どうせなら呼吸も不要だったら良かったのに。何で呼吸器が存在するのか。推測だけど魔素を取り込んでるのかも。魔素が活動に必要なものだとすればだけど。
あ、でもあれか、声を出すには声帯が必要だし。それもあるのか。
少し気が緩んでいたようで、フラウとヴィーラが声を上げ川岸から落ちた。
「何して……だ、大丈夫か!」
落下した二人だけど川の水が纏わりついてるのか、川から上がれず溺れているような状態に。
「何が!?」
慌てて川から引き揚げようとするマサだけど、引き摺り込まれるような状態で叫ぶ二人が居る。
僕も手を貸すけど無理がある。凄い勢いで引き込まれていて水自体がモンスターのような。
「マサさん。少し離れて」
「え」
「衝撃波を使ってみるから」
「わ、分かった」
手をかざし二人にも衝撃が行くと思うけど、今はこれ以外に考えが無い。まさかエルドクロットやジーベンスなんて使えないし。試して駄目なら全力で水から引き上げる。
「スタートヴォーグ!」
二人に絡む水に向け魔法を使うと爆発音と共に、二人に纏わり付いていた水が弾け飛ぶ。それと同時に二人も川から弾き出されたようだ。
川岸に転がる二人だけど衝撃波を食らったせいか、意識を喪失していそうな感じだ。駆け寄るマサが二人に声を掛けてる。
「フラウ! ヴィーラ!」
僕も容体を確認すべく、まずはフラウの肩を揺すってみると、水を吐き出しむせる状態に。
少ししてヴィーラも気付いたようだ。
呼吸を整え落ち着くと。
「お腹にズドンって来た」
「凄く重い衝撃だったけど」
体は痛いけど助かったと。
二人とも吹っ飛んだくらいだし相応の衝撃はあったと思う。
フラウがまず自分を回復しヴィーラの回復も済ませると、川を見て「水のモンスター?」と疑問を抱いているようだ。
二人とも濡れ鼠だな。服を掴んで絞ってるけど、あんまり意味は無さそうな。
全員で顔を見合わせる。
「水がモンスターだとしたら、なんでもありだな」
「凄い力で逃れられなかった」
「絡み付いてくるし水なのに硬いし」
体の中に入り込もうとする感じもあったそうだ。
確かめるべく川岸に立ち衝撃波を放とうとすると、流れが止まり盛り上がると襲い掛かろうとしてくる。間違いなくモンスターだ。
「スタートヴォーグ」
衝撃により弾け飛ぶと辺り一面に散らばる。少しすると消えて魔結晶を残した。
「やっぱりモンスターなんだ」
もし飲もうとしていたら引き摺り込まれ、溺死させられたのかもしれない。でも、まさか水がモンスターだなんて考えないよねえ。
マサが川面を見て「これ全部か?」と言ってる。
「分からないです」




