Sid.31 二股男は決断を下せない
マリッカに見送られ教会をあとにするけど、やはりこの世界の理は地球とは違うし、神が存在する世界でもあるんだ。ただし、地球で崇められる神ではないな。
地球、と言うか僕らの居る宇宙には神は居ないと思う。居なくなった、とも言えそうだけどね。生物の進化や構造に物理法則とか、僕らの体も元を辿れば素粒子まで行き着く。そして地球上に発生した生物だってそうだ。極めて不思議だと思うし、これこそが神の御業とすれば腑に落ちる。
意思を持ち思考することができるまでに至った。奇跡的な話だ。
ただの物質の寄せ集めが、だよ。そこに精神、魂が宿っているのであれば、なるほど神は居ると推定できる。
ギルドに着くとメンバーたちはラウンジで寛いでるし。
僕に気付くと「お愉しみは済んだのか」なんて言ってるし。違うんだけどね。もっと真剣な話だったんだから。
今は言わないけど。わざわざ僕だけ残して話をしたってことは、まだ多くの人には内緒ってことだろうし。
カウンターに目を向けるとアイナが手招きしてる。
メンバーに目を向けカウンターに向かうと、アイナが「あの件を話してましたか?」と聞いてくる。一応頷くけど。
「あたしが言ったとか口に」
「してないですよ」
「バレたら一日説教なんですよ」
それは大変だ。どんな説教になるのか興味はあるけど。
結局、どうするのかと問われるも結論は得られていない。行き来ができる、とは言っていたけど死ぬと生き返りがない、となればね。遊び感覚で来ることもできないし。
この世界に骨を埋める覚悟をしないと。いつ死ぬかも分からない世界だ。
地球でも同じと言えば同じだけど。リスクの高さは比較にならないでしょ。モンスターなんてのが居るって時点で。町から町への移動ですらリスクがあるんだし。
「結論は?」
「まだ」
「ですよね」
さて、話をしていると何も進まない。
今日の稼ぎが幾らになったか聞いて、分配された分を受け取るけど預けておく。
「メンバーと話をするから」
「ヒロトさん」
「なんです?」
「あたしは期待して待ってます」
期待されてもなあ。決断した際にはマリッカの下へ行きたいけど。今の時点で好きなのはマリッカだし。アイナもいいとは思うけど微妙に違う感じがして。
これも気が変わることもあるかもしれないし。今はこのままで。
メンバーと話をするけど、どうやらレベルが上がったようだ。
全員レベル二十一になったそうで。この調子で上がれば近い内に神殿攻略もできるかも。
それと次回の予定も決めておく。
「ヒロトの都合は?」
「僕は月に二回か三回しか来れないです」
「金の問題か」
「そうです」
バイト代はまだだし。夏休みで稼げば、もう少し頻度を上げられる。それまでは我慢。
次回の予定を決めてリコールすることに。
とりあえず次回は四時間ってことで森で鍛えて、次はアイナが言っていた洞窟攻略を考えよう。二十階層までなら僕が居ることで、何とかなるだろうし。
去り際にアイナには手を振っておいた。寂しげな表情を見せられると、名残惜しくなるけど、いつまでも居られないし。
全員で待機室に行きリコールをすると、視界が狭い小部屋に切り替わる。
予約を入れ買い物をして帰宅。
また大学とバイト生活が暫く続く。
学食で食事をしていると僕の居るテーブルに、男子二人が椅子一つ分空けて腰を下ろしてる。
どうしても昼は混雑して相席になっちゃうんだよね。
食事をしながら聞こえてくるのは、ビヨンド・ザ・バウンダリーの話しだ。
「やっと行けたんだよ」
「へえ。どうだった異世界?」
「全部が本物だった」
「モンスターと戦うのか?」
初心者だ。
「最初に戦闘訓練するんだけどさあ」
とんでもないスパルタで叱咤が凄まじいし、つくづく原始的な世界だとか言ってる。僕も思った。根性論がまかり通る世界だろうし。日本と同じ感覚だと面食らうよね。
「ジョブは何にしたんだ?」
「騎士」
「似合わねえ」
「いいんだよ。華麗な剣技を披露してやるんだから」
騎士はレベル一から四までは騎士見習い。レベル五から初級騎士になるそうだ。レベル二十で正式な騎士になると言ってる。レベル十九までは初級なんだ。
スキルも複数覚えるらしく、レベルが上がると広範囲攻撃や、一撃必殺の技も覚えるらしい。
「自爆技まであるんだよ」
「なんだそれ」
「自分の命と引き換えに敵を倒す」
「要らねえ」
僕もそんなの要らない。
「お前もやってみれば」
「そんな金ねえよ」
一回二時間八千円ってのは気軽に使える額じゃない。学生にとって。
月に一回でも行ければいい方。僕みたいに月に数回でも相当恵まれてる。でもマサとかヴィーラは僕以上に恵まれてそうだ。学年が上だからバイトで稼いでるかもしれないけど。フラウは社会人だから少しは余裕があるのかな。
食事が済んで次の教室へ移動する。
そして襲い来る睡魔と戦いながら授業を終えた。
バイトに入る日。
コンビニのバイトって意外と大変だった。仕事に楽なものなんて無いとは分かってても、最低賃金なのに大変なんだもんなあ。待遇が良ければ耐えられる面はあるだろうけど。とかく客商売はストレスを抱える。
高齢者と中年は少しでも気に入らないとすぐキレるし、若い人はスマホにイヤホンで見てない聞こえてない。カウンターに商品投げて決済方法を言わないし。決済方法を聞くと「見れば分かんだろ」なんて言い出す始末だ。
相手するのも嫌だと思う。倉庫内作業にでもしておけば良かったかも。
やっと異世界に行ける日が来た。
今回は四時間ってことで少し長めに居られる。でも次回は再来週になるんだけどね。
間が空くからマリッカに会えない。もっと傍に居たいなんて。ヤバいな、本気で惚れたかもしれない。
待機室から出るとアイナが呼ぶんだよね。日本に居る時はマリッカが気になるけど、アイナを見ると悪くないなあなんて思ったり。気が多いのかな。
「こんにちは」
声を掛けると驚いてるし。
「え、あの、どうしたんです?」
「あいさつですけど」
普通はするんだよ。でも今までしてなかったっけ。だから驚かれたのか。
髪を指先でいじりながら「ヒロトさん。腹括ってくださいよ」とか言ってるし。まだ一週間しか経ってないでしょ。そんな簡単に決められないって。
「今日はどこに行くんですか?」
「森ですけど」
「鍛えるんですね。新しいお仲間」
「その予定です」
ラウンジを見るとすでに揃っていて、僕を見てにやにやしてるし。
「じゃあ、集まってるんで」
「あたしにも時間ください」
「えっと」
「マリッカとは親密じゃないですか」
三十分でいいから二人きりの時間が欲しいとか言ってるし。三十分って気軽に言うけど金額に換算すると二千円。バイトの時給より高い。
縋るような目つきで見てくるから、二か月後くらいに時間を取る、と言ってしまった。これって浮気になるのかなあ。まあでも肉体的な繋がりは持てないからね。あくまでアイナの気持ちを優先した結果。じゃない。こんな言い訳を考えるのが駄目なんだよ。
アイナを見ると「もっと早くてもいいんですよ」とか言ってるし。無理。
「じゃあ行ってきます」
「無事に帰ってきてくださいね」
「森なら大丈夫です」
「過信は禁物ですよ」
油断大敵ってことだよね。何が出てくるかは分からないわけだし。プログラムされたゲームとは違うし想定外の事態もあるだろうから。
頷いて仲間と合流するけど冷やかされるんだよ。
「どっちが本命?」
「それとも二股?」
「いいなあ、青春してるなあ」
現状二股。いずれどっちか、って言うかマリッカが本命だし。
こんなこと口外する気はないけどね。




