Sid.26 心配を掛け過ぎたようだ
アイナに心配掛けたけど冒険者だし本体は死なないし。
とは言え、泣くほどにつらい想いをさせるなら、もう少し考えて行動した方がいいのか。
アイナが僕を見つめて「もう無茶しないでください」だって。
仲間を募り無理のない範囲で冒険して欲しいそうだ。担ぎ込まれるのを見ると痛々しくて胸が張り裂けそうだと。愛されてるのかなあ。
「でも仲間って」
「待っててもらいました」
「じゃあ」
「ただ、タイミングが合わないので」
僕が来るタイミングと応募してきた人たちと、上手くタイミングが合わないから、顔合わせやメンバー登録ができないそうだ。
ああでも、僕も来月までは来れないな。今回向こうで余計な出費があったし。
「来月の第一日曜日の午後二時なら」
「そう伝えればいいんですね」
「お願いします」
伝言しておくそうだ。
因みに全員レベル二十だから、無理をさせないよう森の探索に留めろと。
神殿はレベル二十五以上で揃ってからだそうだ。それと中ボス戦はレベル三十まで控えるようにとも言われた。
僕の能力と一般のレベル二十五は違い過ぎるそうで。これも神の加護のお陰か。
「あとですね、前回の分ですが」
大量の金貨と銀貨。十ベリキと二十スレブロだけ受け取り、あとは全額当座預金に預けておく。
このあと武器屋で新調したいし。前回の戦闘で防具が破損してるから。ぼっこぼこになって、これだと役に立たないでしょ。
さて、残り四十分程度。まずは武器屋に行き装備を入手し、教会へ行ってマリッカに会っておきたい。
「教会に行くんですか?」
「あ、えっと、そう」
「あたしじゃ駄目なんですか?」
「駄目じゃないですけど」
アイナも充分魅力はあると思う。でもマリッカはそれ以上なんだけど、それは口にはしない。
誰であれプラトニックな関係性しか持てないし。
あ、でも転生とか言ってたっけ。仮にできるとしても、する気はないけどね。文明レベルに差があり過ぎる。
「生涯プラトニックでもいいんですか?」
「キスとか触れ合うくらいはできます」
なんか欲求不満になりそうだ。
「あれ、無いんですけど」
「転生」
「眉唾なんですよね」
「ヒロトさんなら大丈夫です」
何それ。神に認められたから?
とにかく、その話はいずれ、としてギルドをあとにする前に。
「アイナさん。手をここに」
カウンターに手を置いて、と言うと素直に応じ手を置いた。
そこに僕の手を重ね指を絡めると「ヒロトさん、ずるいです」だって。暫し指の絡め合いをしていたけど、時間が無いからってことでギルドを出た。
なんかアイナも可愛らしいなあ。
先に武器屋へ行くと「もう壊したのか」と言われた。
手形を振り出し防具を新調。後日取りに来ることに。すぐに武器屋を出て教会へ向かうけど、残り時間は十五分程度しかない。
教会に行くとマリッカが祭壇の前に居た。僕に気付くと駆け寄ってきて「聞きました。酷い状態だったのですよね」と言いながら抱き締められてるし。
マリッカの感触が伝わってくる。いいなあこれ。
「ヒロトさん。あまり無理はしないでくださいね」
「でもこうして戻って来てます」
「それでもです。痛みはあるのでしょう?」
「今回はかなり酷かったです」
幾ら神の加護があると言っても、限界はあるのだから無理せず、分相応な冒険を心掛けてくださいと言われてしまった。
レベルの上昇に伴い加護も高度なものになるそうだけど。
「あとですね、お話が」
「えっと、すみません。今日は時間が無いんです」
眉尻を下げてがっかり感が凄いな。
「次はいつ来られますか?」
「えっと、来月の第一日曜日」
「仕方ないとは言え待つしかないのですね」
「ごめんなさい。次はしっかり時間取るので」
抱き締められていたけど離れると「寄進は不要です」と先に言われた。
するつもり満々だったんだけど。
「あの、じゃあ二スレブロだけでも」
困ったような表情を見せるけど、手を取り小銀貨二枚を載せると「神の寵愛を受けられますように」と違う言葉を言われた。
神の加護はすでにある前提なんだ。
「ではお時間も限られているようですので」
そう言って顔を近付けると、またも僕の唇にマリッカの唇が覆い被さった。
きっと本気で僕を好きなんだろう。僕もその気になっちゃう。でもこの体じゃなあ。
先は無いんだよね。今はこれでもいいけど、先々これだと煩悩の塊みたいな僕にとって、ちょっとつらいかも。
「ヒロトさん」
「はい」
「次回、必ずお話ししましょう」
「分かりました」
教会の外まで見送られギルドに戻る。
ちょっと浮足立つって言うか、やっぱり好かれてると嬉しいなあ。
ギルドに戻ると残り時間は五分を切ってた。
アイナにあいさつだけして待機室へ。そこでリコールし日本に戻る。
来月まで長いなあ。
バイト代、早く欲しいし夏休みが待ち遠しい。
大学に行くけど友だちって、高校までと違って簡単にできない。高校でも友だちと呼べる人は居なかったけど、輪を掛けてぼっちだ。入学して以降、誰とも会話してない。まさか四年間、ずっとこんな状態ってのもなあ。やっぱあれかな、サークルとか入らないと難しそうだ。
でも入ったら入ったで時間を取られるし、費用もそれなりに掛かるだろうし。
いいや、今は考えない。
大学とバイトで暫し過ごすと待ちに待った日曜日が訪れる。
玄関で靴を履き母さんに「いってきます」と告げると。
「帰りに牛乳と納豆と大根買って来てね」
また買い物頼まれたし。まあいいけどね。バックパックを背負い家をあとにする。
アーススパイアホールに到着し異世界へ旅立つ。
いつものスタッフが居て「レベルの確認はしますか?」と聞かれた。
神殿に行ってからレベルの確認してなかった。
「お願いします」
「ではこちらへ」
久しぶりだなあ、この感覚。
「凄いですね。ぼろ雑巾のようになって担ぎ込まれて、もうこれですか」
レベル三十だって。中ボスをソロで倒したからレベルの上昇が凄いんだ。
それと新しい魔法を習得できる。受付でガチャを試してください、だって。前回は使えない魔法を習得したと思ったけど、レベルの上昇で巨大な石像を転がせるほどの威力だった。
意外と使える魔法になるってことが分かったし。
「優れた魔法を習得できると良いですね」
あまり期待はしないでおこう。どうせレベル次第だろうから。
待機室を出て受付に行くとアイナの様子が。
「なんか怒り気味ですね」
「怒ります、当然です」
「心当たりが無いんですが」
「あるはずですよ」
唇を尖らせ「したんですよね、マリッカと」と言われる。なんで?
「あんまりにもマリッカが浮かれてるんで問い詰めました」
執念深いなあ。
「あたしともしてください」
「いや、あの」
「さあ、ブチューっと」
そう言いながらカウンターに身を乗り出して、唇を突き出し求めてくるアイナが居る。なんか怖い。
「ここだと人目が」
「知りません構いません遠慮は要りません」
「い、いや、あのですね」
「あたしとはできないんですか?」
散々心配掛けて残業までして待って、愛する気持ちは本物なのに、扱いに差があり過ぎると文句を言ってるし。
これはしないと収まりがつかないかも。でもなあ、節操がないと思うんだよね。
「早くしてください」
唇を尖らせて目を瞑り待ってるよ。
軽く触れる程度でもいいか。と思って唇を重ねると僕の頬を手で押さえ、濃厚なキスになってしまった。体感で二分くらいは重なっていたような。
少しして背中越しに「お盛んなんですね」と誰かに言われた。
振り向くと女性が二人と男性が一人、呆れた感じで見てる。
アイナも気付いて、ばつが悪そうだけど「応募してきた人」だって。




