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Sid.25 異世界で見る満天の星空

 こんな場所で死んだら稼ぎもレベルも装備まで無駄になる。絶対に町へ戻る。

 鋼の意思を見せろ。

 立ち上がるけど全身に重い痛みが走り、視界が歪んで来るけど耐えるしかない。ソロゆえに誰の手助けも無いのだから。

 でも、四キロもの距離を歩いて、となると無理かもしれない。詰んでる。

 廊下の先、入って来た場所まで辿り着くと、座り込んでしまい体も言うことを聞かなくなった。


 無理だ。

 まとめていろいろ失うのか。勿体無いなあ。


 暫くぼうっとしていると、少し呼吸が楽になって来た。痛みも当初より減ってきて、もしかしたら動けるかもしれない。

 回復してるのかなあ。自己治癒はあっても時間が掛かるはずだし。

 でも痛いには痛い。


 もう少し休めば歩けるようになるかも。

 と言うことで暫し休息。

 やることはないし何か考えるのも面倒だし。でもマリッカの笑顔を思い浮かべれば、町に帰る気力に繋がりそうだ。あの笑顔には癒されるからなあ。そして僕の手を取り胸の辺りに宛がうし。触れそうな距離だけど触れない絶妙さ。

 触れてみたい、とか思ったり。結局、どれだけ親密になっても、先へ進むことは無いんだけどね。作り物だし。


 少し楽になってきたこともあり、立ち上がるとさっきほどではない。

 ゆっくり足を動かし扉に手を掛け引き開けると、五十畳くらいの部屋。二回目の石像が居た場所だ。すぐ倒せたけど。

 また出てきたりしないよね。もう戦闘をするだけの気力はさすがにない。

 部屋の中を進み扉を引き開けると、石柱が並ぶ場所に出た。ここも石像とカマドウマが出て来たけど。


 出るんだ。

 でも帰ると決めてるから倒すしかない。

 指先で魔法を発動すると、眩暈を生じながらも雷が発生。三体の石像はしっかり麻痺して、エルドクロットで止めを刺せた。

 でも眩暈が酷い。体調によって魔法に制限が掛かるのか、それとも他に理由があるのか。魔法を使うと酷い眩暈を生じる。


 もう少しで出口。

 出た。カマドウマ。


 これもジーベンスで麻痺させエルドクロットで燃やす尽くす。

 目は回るし倒れそうだし吐きそうだし。気分は最悪だ。


 そしてやっと外に出られた。

 とりあえず一旦休憩。眩暈が酷いのと吐き気も酷い。それに動いたせいか痛みも復活してるし。鈍く重い痛みが全身を襲う。

 石柱を背に体を預け暫し休む。日が傾いてるから、そろそろ夕刻なんだろう。

 ここから四キロ。歩くと思うと気が重い。


 どのくらい時間が経過していたのだろう。

 空が赤く染まってる。日が沈む前に町へ戻りたいんだけどな。

 立ち上がり歩き始めると腹の辺りや背中がね、鈍く重い痛みでスムーズに歩みを進められない。

 それでも歩く。

 もう気力だけで動いてる状態かも。


 街道に出るとガラガラ後方から音がする。見ると馬車のようだ。でも町の住人が乗っていたら忌避されるんだろう。乗れないよね。

 目の前を通り過ぎていく馬車だ。乗れないと思うと余計に脱力感が。倒れそう。


 ため息が出た。

 歩くしかないと思うとね。


 過ぎゆく馬車を眺めつつ歩く。

 とにかく歩く。歩かなければ町に着かない。


 何も考えずに歩き続けると日が暮れて満天の星が煌めく。星の数が多いなあ。日本だと似たような光景は一部でしか見られない。観光地になってたっけ。

 東京じゃ空は白んでいて星なんて、ほんのわずかしか見えない。


 モンスターって夜行性の奴も居そうだけど。

 居るよね。やっぱり。


 草むらをガサガサ移動する何かが居て、向かって来るようだけど、魔法を使うと眩暈と吐き気が酷くなる。剣を抜いて構えるけど、これだと今度は体中が痛む。

 魔法の方がまだ楽かも。


「ジーベンス」


 ぼそっと呟くと轟音と雷光一閃。きっちり倒されてくれたようだ。魔結晶なんて道端で遭遇する奴らは落とさないからね。そのまま進むけど、来たよ。強烈な眩暈と吐き気。

 星空って明るいなあ。空気が澄んでいるのと地上の光源が無いからだ。

 とにかく町へ戻る。耐えるしかない。


 ソロでの活動って厳しいなあ。


 黒い大きな影が視界に入った。あれは城壁だ。夜間だとシルエットしか確認できないけど、間違いなく町に戻ることができた。

 苦しいけど、とにかく向かうと目の前に閉ざされた門。

 城壁の上を見ると誰か人が居るようだ。見張りなんだろうけど、僕には気付いてなさそうな。

 声を出して呼ぶのは無理がある。エルドクロットを打ち上げよう。


 小さくていい。トーチレベルで気付いてもらえさえすればいいのだから。

 眩暈がする。それでも魔法を打ち上げると気付いたようだ。声がするから最後に振り絞るように声を出す。


「門を、開けて、くださ、い」


 ああ、目が回るし吐き気も酷いし全身が痛むし。限界。


 気付くと狭く薄暗い部屋。光源は一つ。規則正しい電子音が聞こえる。


「気付きましたか?」


 何があったのか説明を求められ、時間超過で追加料金が発生すると言われた。

 意識が完全に覚醒すると事の次第を説明。たぶんギルドに担ぎ込まれリコールしたと思う。

 ただ、壊れた体の修復依頼はしてないと思う。次に行った際は壊れたままだろうか。


「行動に支障のない程度に修復はされます」


 料金は発生するそうだけど。行った際に支払いを済ませるようにと。完全修復は現地でリコールしてからになるそうだ。

 つまり一度行って戻ってまた行くことになるのか。

 面倒だ。支払いはどうってことないと思うけど。


 時間超過は一時間二十八分。そんなに経過してたんだ。仕方ないな。

 追加料金は二時間分の八千円。次回は二時間しか取れないな。


 現地で行動していると時間通りに戻れないことがある。その際にはこうして追加料金を払えば良いらしい。ただ、あまり超過しないようにと言われた。

 せいぜい三十分で最大でも一時間だそうだ。


 またも一週間後。

 体の修復が必要と言うことで、通常二時間枠だけど一時間枠を二回。一度行って完全修復を頼み二時間後に再度一時間。様々な状況に合わせ柔軟に対応してくれるようだ。

 まずは一時間枠で向かうと。


「また担ぎ込まれてましたね」

「はい」

「それで修復しますか?」

「お願いします」


 こっちで目覚めた途端に激しい痛みに襲われたし。体中が痛いんだよ。

 すぐにリコールし二時間程度、商業施設内をうろうろする。ショップを見るだけで何か買うこともない。いろいろ見て回っていると二時間くらい経過した。

 アーススパイアホールに向かい一時間だけソウルシフト。

 現地のスタッフと目が合う。


「修復できていますが体調に不備はないですか?」


 体を動かしてみて痛みもないことで、問題無いみたいですと言って待機室を出る。

 出るとアイナが泣きそうな顔をしてるし。傍に行くと「ヒロトさぁん。死にそうになって戻ってくると辛いんです」と涙を零し言われてしまう。


「ごめんなさい」

「無茶し過ぎなんです」

「ソロは厳しいですね」

「だから言いました」


 僕が戻らないことで夜間まで残業しギルドに居たそうだ。死んでしまったのかと思ったそうだけど、またもぼろぼろになって担ぎ込まれた。

 酷い有様だったそうだ。


「あ、そうだ」

「なんですか?」

「これ」


 魔結晶をポーチから出すと「これって」と驚いてる。


「巨大な石像を倒したんですけど」


 暫し言葉もない状態だったけど「キデモナスじゃないですか」と驚嘆してるし。

 どうやら神殿の中ボスらしい。それをソロでレベル二十五で倒したってことで、あり得ないことをまたやったと。


「レベル三十前後の人が四人くらいで倒す相手ですよ」

「そうなんですか?」

「そうなんですか、じゃないです」


 そんなのを一人で相手にすれば大怪我して当然だと。むしろ死なずに良く倒せたものだと言ってる。

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