Sid.23 加護持ちは転生できる?
無しの言葉で肩を落とすアイナが居るけど、それでも諦めきれないのか「まだマリッカに決めたわけじゃないんですよね」とか言ってるし。
相手の気持ちもあることだし、そもそも僕はこの世界の住人じゃない。ずっと住み続けることはできないし月に数回来るだけの存在だし。それでどうやって夫婦になれるのかって。
しかも子供も作れないし、そんな機能も無いんだからね。何のために結婚するのかって話でしょ。
「あの、僕は」
「分かってます。でも気持ちが」
抑えきれない気持ちは分かるんだけどねえ。ずっとプラトニックな関係でもいいのかなあ。
「ヒロトさん」
「なんです?」
「転生しましょう」
「はい?」
おかしなことを言い始めた。
「転生って?」
「この世界で生きる権利を得てるんですよ」
「分からないです」
神の加護を持つ、と言うことは世界が受け入れた存在。言い換えれば神が受け入れた存在。もし本人がその気になれば、この世界に新たに生を得ることが可能だと言う。
なんかご都合主義臭が漂って来た。フィクションではお馴染みの異世界転生。
「そんな都合よく行くんですか?」
「きっと大丈夫です」
古の伝承によれば神から肉体を与えられ、この世界の住人になることは可能らしい。
ただし、実現したかどうかは定かではない。言い伝えの類であって確かに存在した証拠もない。だから希望的観測の域を出ないそうだけど。
じゃあ意味がないなあ。それにこの世界で生きるには僕に覚悟が無さ過ぎるし。日本の快適な環境を放棄して、こっちでなんて無理があるよね。スマホもないしコンビニもないし技術水準が異なり過ぎて。文明が五百年から六百年分くらい遅れてるし。
不便さに馴染むのは無理があると思う。便利過ぎる世の中に生まれてるから。
ここまで話をして「あ」とか言って口を慌てて塞ぐアイナが居る。
「どうしたんですか?」
「えっとねえ、今のは聞かなかったことに」
知らんふりしてマリッカから聞き直して、と言われた。
次回誘われているのであれば、その時に話が出るだろうからと。
で、気付けた。マリッカが話をしたいってのは、アイナが口を滑らした件だろう。
「じゃあ知らないふりしておきます」
「お願いしますね」
「アイナから聞いたなんて、できる限り言わないようにします」
「できる限りじゃなくて」
絶対言わないでえ、と涙目で縋るアイナだった。
あんまり揶揄っても可哀想だし、誰から聞いたかなんて言わないと言っておいた。
「じゃあ戻りますから」
「もう、ですか」
「だって時間がないです」
名残惜しそうだなあ。恋する乙女状態だからなのか、凄い存在と認識してるから留めおきたいのか。
後者な感じがする。
また来ます、と言って待機室へ。
あ、そうそう。今回は数が多過ぎて一度に換金できない、ってことで次回改めて換金するそうだ。
なんかとんでもない額になりそうだ。
待機室に入るとレベルの確認を済ませておきたい。スタッフに言って確認すると「また上がりましたね。レベル二十五ですよ」だって。
明らかに上昇幅が減少した。あの森は僕にとっての冒険場所じゃないな。新しい場所に行くのが良さそうだ。
「あの、中堅冒険者が活動できる場所って」
「この町の周辺だと、ヒロトさんのスペックが上回り過ぎてますしねえ」
ここから徒歩で一時間程の場所に神殿があり、そこには強力なモンスターが無数に出現するそうで。
通常は四から五人くらいで攻略するそうだ。だからソロはお勧めしないが、僕の場合は常識を尽く覆しているから、きっと大丈夫でしょうとか言ってるし。
死んだらレベルの下方修正でしょ。リスクが高すぎるって。
「仲間の募集は?」
「してますけど誰も」
うーん、なんて言って腕組みして考え込んでる。
「レベルと実力に乖離があり過ぎるんです」
さすがに自分でも自覚せざるを得ない。これもそれも神のご加護って奴のせいだろう。だからレベルに見合わない力を発揮できる。結果的に魔族と接触して事なきを得た。だけじゃなくアイテムまでもらったし。
神の加護ってのは凄い効果だと思う。
あ、でもあれか、レベルってのは運営側が定めたもの。加護は神の意思だから基準が違うんだろうね。
「あの、じゃあ試しに神殿に行ってみます」
「ソロは推奨してませんが」
「でも仲間できないですし」
「くれぐれも死なないでくださいね」
死んだ場合のレベル下方修正は決まりだから、例外以外では必ず適用されてしまうそうだ。
まあ、その時は仕方ない。
「じゃあリコールしますんで」
「お疲れさまでした」
元の世界に戻ると普段の生活が始まり一週間後、異世界に訪れると。
「ヒロトさん。応募がありましたよ」
「え、あったんですか?」
ギルドの受付カウンターでアイナが呼ぶから言ってみると、どうやら応募があって是非一緒にやりたいと言ってるそうだ。
「ですがぁ、その方たちのレベルが」
「低いんですか?」
「レベル二十なんです」
神殿に行くにはきついのかな。
「あの、今回から神殿に行くつもりなんですが」
「え」
「神殿」
「レベル二十の冒険者を連れて、ですか?」
今日は四時間の枠で来てる。次回来れるのは再来週になっちゃうけどね。
「えっと、ソロで」
「む、無茶です」
「でもレベル二十だときついんですよね」
「そうですけど」
組んで初っ端から死なせたら仲間に悪いでしょ。だからソロがいいと判断したんだけど。
引き留めるアイナが居る。
「やられますよ」
「それも運命」
「何言ってるんですか。幾ら死なないって言ってもですね」
全身を引き千切られて苦しみながら死ぬ。怖いんですよ、とか言ってるし。
魔法を使うモンスターも多数居て、易々と攻略できる場所じゃないのだとも。武器を使うモンスターの力はレベル三十前後。どう考えてもレベル二十五がソロで向かう場所じゃないとまで言ってる。
「えっと、応募してきた人たちには、少し待ってもらって」
「行くんですか?」
「行きますよ。だって森だと大量虐殺になってますし」
「死にますよ。凄く痛いし苦しいですよ」
それも込み。やられる時はどこに居てもやられるでしょ。もう腹は括ってるし。
「じゃあ行ってきます」
「ひ、ヒロトさぁん」
情けない声で引き留めるアイナだけど、まずは行って判断する。手に負えないとなれば他の場所を探す。
レベルの低下も森に行って元に戻すまで、それほど手間じゃないだろうと思うし。
「あの、歩くと時間が掛かるみたいなんですけど」
「乗合馬車が近くを通りますよ」
「出発時間とか本数は?」
「二時間に一本、午前と午後に二本ずつです。偶数時間に」
少ない。
まあ仕方ないのかな。
「馬車はどこから出てます?」
「町の北側から出てます」
本当に行くのかと心配そうな表情を見せるアイナだ。
でも行く。
「じゃあ健闘を祈っててください」
「ヒロトさぁん。絶対生きて帰ってきてくださいね」
ボロボロになった姿は見たくないそうだ。前に見てるからね。散々殴られ捲って骨折したんだっけ。あとは麻痺した状態。
確かに見たくないんだろうけど、でも冒険者だし。
行ってきます、と言ってギルドをあとにし町の北側へ。
乗合馬車の停留所みたいな場所があり、すぐ近くに事務所もあるようだ。
そこに行き次の馬車の時間を確認すると、都合よく十分後に出発する便があると。停留所で待っていれば五分前に来るそうだ。
因みに運賃は移動距離で決まる。神殿までだと十スレブロらしい。四千円。徒歩で一時間ってことは四キロ程度。高いな。
停留所に行き暫し待つことに。
他の乗客は僕以外だと町の住人だけのようだ。人数は六人。
僕を見て嫌そうな表情を見せてる。




