Sid.21 対話が可能な相手と遭遇
麻痺して動けず足掻いてみるけど、何かが近付いてくる感じがある。ゆっくりと。
目だけは動くから近付く何かを目視すべく、またも足掻いてみると人のような存在が歩いてくる。
でも見た目は人だけど頭って言うか、顔。人ならざるものだ。
モンスターだろうか、近付いて倒れる僕の傍に立つと「冒険者とか言う奴か」と呟いた。
目が合うと「数年前から好き勝手暴れる奴らが湧いてきたが」と腹に蹴りを入れられ勢い転がる。痛いって。人の言葉を話すってことは、ただのモンスターじゃない。
蹴り飛ばされた先で歩み寄りしゃがみ込み、僕の顔を見て「お前ら死なないんだろ? 何度でも復活できるらしいな」と言って、またも蹴り飛ばされた。
痛みと苦しさで呼吸がままならない。
「死ぬなら慎重な行動も取るんだろうけどな」
死なないことで無謀な行動が多いと言ってる。
「ここで体を破壊したところで、また湧いてくる。質が悪い」
面倒な存在が闊歩して迷惑甚だしいと。
苛立っていそうだ。少し青み掛かった肌の色。赤い瞳と両側頭部にアモン角が生えてる。アモン角とは渦巻き状の角を言う。古代エジプト神話のテーベの守護神、アメンが由来だ。
人とは違うけど言語により意思疎通が図れる相手となると、最初に聞いていた魔族とか言う存在かもしれない。
「人族とは協定を結んでるようだが、俺たちとは何も結んでないからな」
痛めつけるのはありだし、破壊するのもあり。
二度と来れなくするには徹底して恐怖を植え付ければいい、なんて言い出した。
「どうせ抵抗できないだろ」
指を一本ずつ折って引き千切り、足の指も同じく一本ずつ。拷問の如くじわじわ甚振れば心が折れるだろうと言う。腕も引き千切り足も引き千切る。皮を剥ぎ肉も削いでいけばとか実に物騒な。
勝手に憎悪を向ける相手だけど、麻痺から回復してるようだ。逃げられる可能性は極めて低いけど甚振られるのは嫌だ。
話し合いが通じる相手かどうかも不明。かと言って戦闘で勝てる相手ではないだろう。
それでも窮地を脱するには。
「は、話、合いを」
驚いてる。
「あ、争う気は、ない、んです」
まじまじと僕を見る存在だけど「麻痺が解けてるのか?」と。
指は動く。腕も動かそうと思えば動きそうだ。頭も動かせるし体も起こせそうな。麻痺から確実に回復してきてる。
「お前、なんで声を出せる?」
「わかんない、です」
「他の冒険者どもとは違うな」
言いたいことがあるなら説明しろとなった。
麻痺が解けているようで体を起こすと、またも驚いてるし。
「もう動けるのか」
「回復したみたいです」
「あり得ない」
他の冒険者ならば半日は身動きが取れない。僕らにはレベルという概念があり、レベルが上がれば抵抗力や力も増す、とは聞いているそうだ。
ただ、これまではレベル四十前後の冒険者が相手だった。楽に制圧し痛めつけ体を破壊し元の世界に戻していたらしい。
「お前、もっとレベルが高いのか?」
「二十三です」
目を丸くして、やっぱり驚くんだ。
ただ、ここまでで話し合いができない相手じゃない、そう感じる。
「僕に敵対する意志は無いです」
「苦し紛れに口にする奴だらけだったが?」
「あなたは僕をすぐ殺害してません」
モンスターは問答無用で攻撃してくる。でも麻痺だけさせて様子を窺っていた。
話し合いができる相手なら何も対立する必要性はない。
「どうしてそこまで冒険者を憎むのか、それを知れば行動を改めることも」
知能が高く能力も高いのが魔族、とすれば無用な争いは避けると思う。とは言え攻撃的な性質を持っていたら結果は分らないけど。
僕の言葉に暫し考え込む感じだけど。
魔族の男が地面に座り込むと「お前、もしかして加護持ちか?」と聞いてきた。
「加護?」
「教会の信者になると稀に神の加護を持つ奴が出てくる」
加護には様々な種類があって、状態異常を受け付けないものや、回復力が高いものや、致命傷を回避するものが居るらしい。
「教会で祈りを捧げてるのか?」
「あ、してます」
やはりそうかと納得したような。
「神が認めたってことだな」
「え」
「レベルが低い間は効果も薄いが、いずれ何も受け付けない存在になる」
神の加護を授かった存在は神が、この世界に居ることを認めた存在。
他の横暴な冒険者とは違うからこそ、神が存在することを許すのだと。
「そうであるならば殺す必要はないな」
人族だけではなく魔族もまた神への信仰はあるそうだ。神は人族だけが信仰するものではない。万物の創造主なのだそうで。ただ、モンスターは知能が低いがゆえ、信仰心を持たない。相手がなんであっても攻撃してくるのだとか。
そして、この世界の人族は極めて弱い存在だから魔族と争うことがない。ゆえに長きに渡り相互に不干渉としてきた。だが数年前から異質な存在が闊歩しだし、中には魔族を敵視し殺害するものも現れる。
腕試しとばかりに強くなったと勘違いした冒険者が、まるで野ウサギでも狩るが如く殺害する事態に。
「敵対するのも姿形と呼び方だろうな」
見た目の違い。呼称が魔族となれば問答無用で攻撃する、モンスター並に意思疎通を図れない冒険者が多数。
「冒険者基準でレベル三十以下の魔族は狩られる存在だ」
結果、上位の魔族が冒険者の駆逐に乗り出している。
ギルドでは対話ができる相手だから、敵対する必要はないって言っていた。でも現実にはゲームとしか認識できないプレイヤーが、魔族を倒すこともプレイの一環と捉えてる。
もっとしっかり理解させないと駄目なんじゃないのかな。
「冒険者ギルドに報告しておきます」
「何をだ?」
「わざわざ敵対する冒険者が多数居ることを」
変な奴だ、と言われた。
「だからだろうな。加護を得られたのも」
立ち上がると「お前の名は?」と聞かれ答えておく。
「ヒロトか。一つ、役立つものを与えてやる」
そう言って指に嵌めていた指輪を一つ外し手渡してきた。なんだろう?
「これは?」
「俺が使う雷を発動する指輪だ」
「雷?」
「俺が放った魔法、ジーベンスと言う」
威力は意識することで調整可能だが、レベルに応じたものでもある。今のレベルなら半日は相手を麻痺させられるそうだ。もっとレベルが上がれば一撃で倒せるとも。しかも避けること敵わず。発動とほぼ同時に命中するからだ。
おそらくは攻撃魔法の種類は乏しいだろうと言う。確かに純粋に攻撃に使える魔法は一つしかない。あとは氷の柱に風が吹くだけ。
「火炎系の魔法だと森林が燃える。お前には都合の良い魔法になるだろう」
神が加護を与える相手は、魔法による攻撃手段が乏しい人が対象らしい。僕が授かった加護は魔法抵抗力だろうと。
レベルが上がれば殺傷できるレベルの雷にも対抗可能だそうだ。
「まだ他にも授かる可能性はある。信仰心の深さ次第だ」
せいぜい教会での礼拝に励め、と言って「また会うかもしれないが、良い報告を期待するぞ」と口にし、コウモリのような黒い羽を広げ飛び立った。
角だけじゃなく羽もあるんだ。
何にしても殺されずに済んでよかった。
それだけじゃない、有用な魔法のアイテムまで。いい人、って言うと変だけど、いい人だったとしか言いようがない。
指に嵌めるとピッタリサイズ。僕の指の太さに指輪が合わせたような。
暫し眺めているとガサガサ音がして、十本足の牛のような存在が、鼻息荒く僕に向かって来ようとしてる。
早速使ってみよう。
えっと、なんだっけ。
「ジーベンス!」
イメージは水平方向に向かう雷。
きちんと発動し指先から少し離れた位置に雷が発生し、モンスターに直撃すると呻き声を上げ倒れた。
麻痺したのかな。




