Sid.20 装備を整え森の奥深くへ
延長の三十分が経過し帰還することに。
「ここに手を」
例のあれだ。
カウンターに手を置くと上から被せて握ってくる。指を絡め見つめる緑の瞳に映る僕が居て。
アイナも本気なのかもしれないけど、一過性のものって気もしないでもない。他の人よりレベルアップの速度が速いし、稼ぎもよくなってるってことで。
あんまり自惚れないようにしておこう。
あ、そうか。マリッカもつり橋効果で一時的な高揚かもね。死を意識させられ、そこから救い出されたなんて、まさにつり橋。そうは思いたくないけど。
「あの、帰るんで」
「ヒロトさん。もらってくれます?」
「熟考の上、決断します」
「その変な言い回しの時って」
お断りなんですよね、と言われてしまった。まあそうなんだけど。
またしても「残念王子にフラれたぁ」とか言って、カウンターに突っ伏すアイナだ。残念王子はやめて欲しい。
「じゃあ行くんで」
「今度、少し時間をくださいよぉ」
こっちもか。まあ少しくらいならいいけど。これ、四時間枠で来るしかないな。
きりが無いから受付を離れ待機室へ向かうけど、目で追い続けるアイナが居た。意外と執念深い性格なのかも。あと、最初の頃と印象が変わった。つっけんどんな感じだったのに今じゃすっかり馴れ馴れしい。いいけどね、その方が付き合いやすいし、気さくさを感じ取れるから緊張しないで済む。
あ、そうだ。レベル、と思ったけど今日は時間もない。次回来た時に確認しよう。
スタッフにリコールを告げ元の世界に。
平日は大学に通い週に二回のバイト。心身ともに疲弊し捲って朝がきつい。
六時限まで入れたのは失敗だった。途中から授業内容を覚えてないくらいだし。つまりは居眠りしていたってことで。注意されて気付く有様だった。
向こうの体は疲れを感じさせないけど現実はかくも無残だ。この体で冒険なんてしたらスライムにすら瞬殺されるだろう。
バイト先の人間関係。
あんまり上手く構築できない。先輩バイトが居るけど何かと文句を言ってくる。店長に学生なのか聞くと「彼? 大卒だけど就職先が合わず早期退職」だって。大学生の時にバイトで入っていて退職後に当座の生活費を稼ぎたい、ってことで再雇用したらしい。以来そのままバイト生活だそうで。
良い大学を出てるのかと聞いてみるけど、個人情報だから知りたければ直接、だそうだ。
とても聞ける雰囲気じゃない。睨まれるから。
こうして現実世界で疲れ捲って異世界で羽を伸ばすのを心待ちに。
マリッカに癒されたい。
一週間後。
異世界に旅立つ。
目を開けると視界に入る、いつもの部屋。今日は女性のアバターが二人居る。日本人っぽい顔立ちだな。珍しいと言えば珍しい。たぶんだけど日本人って顔にコンプレックスが相当あると思う。欧米人のような彫りの深さは無いし、瞳は黒いし髪も黒い人が多い。だからだろうけど、仮想世界では欧米人のような風貌を好む。
でも日本人の女性って外国人にモテるよね。可愛らしく奥ゆかしいと見えるみたいで。実際は全然違うけどね。あざといだけで図々しいし横柄だし猫被ってるだけ。
僕はと言えば拘りがないから日本人まんま。
椅子から立ち上がりスタッフにレベルの確認をお願いする。
「来る度にレベルアップしてますね」
「今回はわらないんで確認をしたいんです」
「ではこちらに」
別室に案内されるのも定番。
機械でチェックするとレベル二十三になってた。上がり幅が少なくなってる。もっと強い相手じゃないと大幅な上昇は見込めないってことか。
それでも上昇したから少しは強くなったと思う。今日は泉の先、光る何かを見つけたから、そこに向かう予定だ。
別室を出て待機室から出ると、カウンターに居るアイナと目が合うわけで。
手招きしてるし。視線をギルド内に移すと掲示板を見てる女性二人。さっきの日本人顔の女性プレイヤーだ。揃って見てるってことは現実世界では友だち同士なのかな。
まあ僕には関係なさそうだから受付に向かう。
「何を見てたんです?」
「え」
「女性なら何でもいいんですか? あたしが居るんですよ」
「じゃなくてですね」
たぶんアイナは少し嫉妬深い。あと見てるのもバレてる。
「掲示板を見てたから応募してくれればなあって」
今思い出した。そう言えば仲間を募集してたと。
「彼女たちはレベル十六ですよ」
「二十に満たないんだ」
「レベルは揃えた方がいいです」
レベル二十なら十八から二十二くらい。レベルが五十を超えると上下に幅も持てるが、低いレベルの場合は力に差があり過ぎるそうで。
実感したよ。僕のレベルからするとレベル十五は弱い。たった六しか違わなかったのに相手を軽くあしらうことができた。
今の僕はレベル二十三。彼女たちとの開きは八もあるわけで。連携なんて到底無理なんだろう。足を引っ張られる可能性の方が高いのか。
「ねえヒロトさん」
「なんです?」
「今日、少し時間取れます?」
「えっと、無理」
残念王子は今日も健在だとか、なんか失礼だなあ。
「えっと次回、余裕を持ってきますから」
「絶対ですよ」
「善処します」
アイナの件はともかく、まずは武器屋だ。防具の調整は終わってるだろうから、受け取って新たな装備で泉の先へ向かいたい。
また後で、と言ってギルドを出て武器屋へ。
中に入ると「できてるぞ」と言われる。
カウンターの上にプレートアーマーを置き「装備してみろ」と言われ、受け取って……どうやって着るの?
「知らねえのか」
「初めてなんで」
「仕方ねえなあ」
武器屋の人に説明され身に着けると少し重さを感じる。それと動きが幾分制限される感じだ。
軽快な動きも慣れればできるんだろうけど、慣れるまでは少し注意が必要かもしれない。
「最初だけだ」
そう言って装備一式渡され「防具なんてのは気休めだからな、過信するなよ」とも言われる。知ってる。こんな薄い金属板なんて熊に撫でられてすら壊れる。モンスターの攻撃は受けないに限るわけで。
それでも致命傷を避けることはできるだろうけど。その程度だ。
「ガントレットはどうだ?」
「問題無いです」
「じゃあ頑張って狩りをしてこい」
「はい。ありがとうございます」
腰にロングソードとダガーを装備。重さが増してるけど支障の出る重さじゃない。
少しは攻撃力も上がったかな。あと、メインを失った時のダガーがあることで、幾らかの安心感も得られる。
刺すことに特化してるけどね。息の根を止めるのに丁度いい武器なんだろう。
武器屋を出て門に向かうとセヴェリさんとトゥオモさんが居て「お、装備が変わったな」って気付いたようだ。って言うか気付くよね。地味な色合いから銀色のプレートだし。
「新調しました」
「ずいぶん良さげな装備だな」
「それなりに高い買い物でした」
「まあ稼いでるだろうからな」
調子に乗って大怪我するなよと言われ送り出された。
町を出て街道を進み森へ入ると、見慣れたモンスターと遭遇し軽く蹴散らし、奥へと進み泉を前に立つ。
クラゲが出てくるけど瞬殺し対岸に渡る方法を考えるけど。泉を見ると浅い部分の透明度は比較的高い。でも深い部分は乳白色で深さは不明。
淵を歩くしかないか。
淵を歩き続けると五分程度で対岸に辿り着いた。
光を見た辺りを探索するけど、見間違いだったのか、それとも対岸からしか確認できないのか。単に何かに陽光が反射しただけかもしれないけど。
つぶさに観察するけど、らしきものは発見できない。
少し場所を変えて、と思ったら何か弾けるような音と閃光と共に、体が麻痺した感じで動けなくなった。
これ、クラゲが発する電撃みたいな。クラゲより強い。




