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Sid.19 シスターを助けたあとに

 特例でプレイ時間三十分延長となった。

 事情聴取はプレイ時間に含まれないってことで。

 何を聞かれたのかと言えば、事の顛末を嘘偽りなく洗いざらい、ってことだけど。三人の供述と僕の供述を照らし合わせ、マリッカの証言を参考にしたようだ。

 結果、僕はマリッカを救ったことで、お咎めは無し。三人は二年間この世界に来れなくなった。ついでに矯正教育を施すらしい。現地住民に迷惑を掛けない、勝手に連れ出さない、危険に曝さないなどを徹底させるそうだ。


「住人を巻き込まない戦闘も考慮してますよ」


 建物の外に出て被害を生じさせなかった。良い判断だったと褒められたけど。


「緊急時は難しいとは思いますが、できる限りスタッフを呼んでください」


 だそうで。

 プレイヤー同士の戦闘は好ましくないらしい。まあそうだよね。揉め事の度に戦闘になってたらPK続発になるだろうし。どうせ元の体は死なない、と思えば相手を破壊するのに躊躇しない。そうなると、この世界の治安が著しく悪くなるから。

 待機室を出るとアイナとマリッカが居て僕を見ると安堵した感じだ。

 アイナが話し掛けて来た。


「何か罰はありました?」

「無いです」

「助けたんですよね」

「結果的に」


 マリッカが頭を下げてる。


「あの、そんなことしなくても」

「助けていただきました」

「助けないと危険だと判断したんで」


 僕の手を取り胸元に宛がい「ヒロトさんには感謝してもしきれません」って言ってるけど怖かったんだろうな。


「ですが危ないことは避けてください」


 そうは言われても。

 僕はマリッカに助けられてるし。笑顔にも救われてる。

 その笑顔を失わせる相手なら躊躇する気はない。ましてや今回の奴らは死なせる気満々だったし。許せるわけがない。


「あの、教会に行って礼拝したいんですけど」

「あ、はい。では向かいましょう」

「ねえヒロトさん」


 軽い嫉妬を見せる感じのアイナだ。


「あたしが同じようにされたら助けてくれます?」

「助けますよ」

「本当に?」

「だって、僕らには力がある。それは人のために使うべきと思うから」


 笑顔だ。

 さっさと礼拝を済ませて来ればいいって送り出された。

 教会に向かう間そっと僕の手を握るマリッカが居る。なんか緊張するなあ。


「あの」

「暫くこうしていたいです」


 死を覚悟せざるを得ない状況だったのかも。

 あの連中に連れ出されていたら確実に死んでいただろう。モンスターに抗う術を持たないのだから。しかも奴らは住人の生死なんて考えない。死体で、と言われた時は怒りが込み上げてきたし。殺してやる、とまで思ったくらいだ。

 守れて良かった。


 教会に着くと祭壇まで進み、二人揃って跪くと祈りを捧げる。

 祈り終えると僕に向かい、またも手を取り潤んだ瞳で見つめて来た。


「きっと偶然ではないのでしょう」


 神の導きなのだと。神が僕とマリッカを引き合わせたのだろうと言う。

 もし僕がこの教会に来ていなければ、あの三人に連れ出され短い人生を終えていたと思うそうだ。

 まさに神が遣わせた救世主であろうと。大袈裟な。当初僕は金銭面で教会に世話になりに来ただけ。安く済むってことで。動機がね、不純だし。その後もマリッカの笑顔を見たくて来てるだけだし。不純だ。


「ヒロトさん」

「あ、はい」

「異世界の人ですが愛し合えると思いますか?」


 えっと。

 愛し合うってのは、恋愛ではなく人類愛ってことだよね。たぶん。

 そうであれば可能性はあると思うけど。恋愛じゃないんだよね。さすがに虫が良すぎると思うし。


「えっと、そう思います」


 少し頬を赤く染めるマリッカだ。

 そして見つめてきて顔を近付けてくる。あの、その。ちょっとヤバくない?


「あ。いけません」


 何やら急に気付いたのか顔が離れ「主の御前でした」なんて言ってる。

 でも、俯いてもじもじしてるし。


「ヒロトさん」

「は、はい」

「今度、少しお時間いただけませんか?」

「え」


 別に少しなら構わないけど。これって。


「あの、無理にとは言いません」

「いや、無理じゃないです」

「では次回少し」

「あ、はい」


 なんか変な感じ。でもちょっとドキドキ。デートとかするのかな。それともただの説教とか。いつも危険に飛び込んで怪我して来るし。もっと自分を大切に、とか言われるのかも。

 あんまり期待しないでおこう。


「あ、そうだ」


 寄進するつもりだったんだよ。ポーチに手を突っ込み硬貨を一枚掴んで「これ、寄進します」と言って渡すと。


「あの、これは受け取れません」

「え」

「金貨ですよ、これ」

「あ」


 間違った。

 ポーチの中を改めて探り一ベリキ渡すと。


「あの、これも受け取れません」

「受け取ってください。僕もマリッカさんに救われてるんで」

「ですが」

「す、凄く癒されてるんです」


 何言ってるんだろ。遠回しにマリッカに告白してるみたいじゃん。

 急に抱き着いてきて「神のご加護がありますように」と言って、離れるかと思ったら「ヒロトさん。本当にありがとうございました」と口にして「とても嬉しかったです」と言うと。


「え」

「私の気持ちです」


 口にキスされた。

 舞い上がりそうだ。でも無いから無駄な興奮は無いんだよね。心臓だけがバクバクって感じではあるけど。

 健全すぎる。もう少し年齢相応ってのがあれば、と思わなくもない。でもあれか、頭のおかしい冒険者がやらかす可能性もあるのか。だったら今の状態はベストなんだろう。欲を満たすことができないから。


 頬を真っ赤に染め上げたマリッカが離れると、そっぽを向いて「私は如何わしい感情に支配されてしまっています。懺悔しないと」なんて言ってる。

 恋愛感情を如何わしいとは思わないけど。やっぱりシスターって禁欲?

 僕を見ると「なぜヒロトさんは異界の人なのでしょう」って、アイナにも言われた気がする。

 やっぱりあれか、あれが無いから。


「次回、少しお話もしたいです」

「いいですよ」

「では、楽しみに待っています」


 別れを惜しまれる感じで教会から出て見送られてる。

 手を振り笑顔を見せるマリッカ。好かれたと思っていいのかな。だとしたら嬉しいけど、でも、プラトニックな付き合いしかできない。

 いいけどさ。そういう星の下に生まれたんだろうし。


 ギルドに戻るとアイナに「顔、崩れてますよ」と言われる。


「顔?」

「にやけてます」

「そう?」

「何かあったんですね」


 キスされた。言わないけど。


「完全に先を越されました」

「そうですか?」

「白馬の王子様が華麗に救ったんですよ」


 こっちにも白馬の王子様は居るんだ。どの世界でも共通なのだろうか。あ、でも、この世界こそ白馬の王子様って居そうだよね。本当に白馬に跨った王子様なら。それが優雅で勇敢な人かどうかは分からないけど。


「あたしも救ってください」

「何からです?」

「攫ってください」

「え」


 何を言ってるんだか。


「颯爽と攫って一生添い遂げると言ってください」

「む、無理」


 残念王子だぁ、とか言ってカウンターに突っ伏してるし。残念王子って何さ。

 確かに凛々しさは無いと思うけど、多少は強くなってるんだよ。暴漢を叩きのめせる程度には。最も相手のレベルが上だったら、叩きのめされたのは僕だろうけど。


「なんか失礼じゃないですか」

「だって、あたしにとって残念」


 マリッカに奪われたとか言ってる。

 知り合ったのはアイナが先でも親密度合いはマリッカが上。

 唇を噛み締めて「悔しいですぅ」とか言ってるし。そこまで悔しがるほどの存在じゃないでしょ。


「あの、きっといい人現れますよ」

「そんな慰め要らないです」

「確かに、そうでした」

「あたしをもらってください」


 一生身綺麗なままだけど。それでいいのかなあ。

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